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「ジャ映すね」
真也が持ってきた鏡の縁に手を置き寄りかかって怜楓がそう前置きして魔力を流すと、鏡に映った鏡像が歪み、数秒の後少しずつ明瞭になっていく。
映ったのはセイが成長した様な青年。
青いチャイナ服に青い目で毛先だけ濃い青色の黒髪を縛っている髪紐も青で、目の縁に化粧の様な目弾きというんだったか、色は紅ではなく青、化粧という感じはしないが、そんな風に色が付いている。
うん、マつまり全体的に青い。
そんな青いという言葉で海洋できそうな青年が千鳥足で山道を歩いている。
「ねぇ、何で歩いてるの?」
「帰る為に歩いてるんだヨ」
「うん、そうじゃなくって。何で飛んで帰らなかったの?」
「エ? アッ」
「……マ酔ってたんならしょうがないね」
たった今気づきましたと言うかのような反応をするセイは怜楓のその言葉にウン、マそんな感じだヨ、ウン。なんて言い訳なのか自己暗示なのか分からないものを呟いている。
しょうがないね、ジャないんだが。
飛んで帰ればこんな事にはならなかったろ、長生きするとこうなるのか?
コイツの対応の甘さも何なんだ、長生きすると全員こうなるのか?
もしこうなるんなら長生きしたくなくなったんだがどうしてくれるんだ。
玲壮が二人のやり取りに沸いた考えをその辺に何とか放り捨てて、鏡に視線を戻すと、青年が間の抜けたような声を上げて何かに躓いたのか地面に倒れ込んでそのままスヤァと眠りに付いた。
幸せそうな寝顔だ、コレこの後力吸い取られて人間と同程度の能力になるんだがよく無事に一夜過ごしてここに辿り着けたな。
さて、いよいよ犯人の登場かと注目していると風でも吹いたのか青年の髪がふわりと靡き、光が顔を軽く照らして
前触れなく鏡に罅が入りそのまま割れる。
「割れタ」
「割れちゃったね」
「大丈夫なのか?」
「危険は感じないが」
「干渉しては来れないよ」
怜楓が鏡の縁に置いていた人差し指を一回打ち付け、コツっという音と共に飛び散った欠片が空中で停止し、もう一回打ち付けると巻き戻る様に欠片が元の位置に収まっていく。
「ソレ、壊れて大丈夫だったのか?」
「何度も魔力を通したから魔道具モドキになってるだけで、元はただの鏡だからね、許容量を超えれば壊れるよ」
「壊したのは?」
「誰だと思う?」
少し楽しそうに口の端を吊り上げた怜楓の表情は、新しいおもちゃでも手に入れたかのようにと評するべきか。否、違うなコレは。気まぐれで撒いた種がいい感じに育って嬉しい、てところか。
そう予想したところで、玲壮はじっとりとした視線を向けて怜楓の言葉に返答する。
「……お前?」
「違うよ」
「で、誰なんだ」
「断定はできないね。想像は出来るけど、実際に確認しないと」
怜楓はセイの脇の下に両手を差し込んでヒョイと軽く持ち上げ右腕に乗せ、真也の方に歩みを進める。
真也に向けて一言二言何かを話し、振り返って玲壮に聞く。
「付いてくる?」
「行く」




