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「アレ、セイじゃん。何か小さいね、どーしたの?」
赤かったり、青かったり、黒かったり、白かったり、赤黒かったりあるいは虹色で書かれた色々な形の図形やその図形の中に文字らしき記号、魔法陣が浮かんでいる、そんな背景を背負った怜楓はセイという本名かどうか不明な名称を口にして少年に視線を向け、軽く首を傾げて尋ねる。
「寧ろ俺が知りタイ。テ違う、否、それも問題なんだケド、問題だケド。兎に角質問してイ?」
「いいよ」
「ソレどーした?」
ソレ。
そう言ってセイの人差し指の先には怜楓の腕、右腕。
人体に基本的に二本しか生えてこない筈の部位、そんな右腕が今は肘からちょっと先までしかない。
当然ながら怜楓は元々その程度の長さしかなかったわけではない、つい最近、今朝まではしっかり肘から先の部位、前腕も手首も手の甲も掌もあったし指も玲壮ともセイとも真也ともそう変わらない位置に五本生えていた。
服の袖も左の袖と比べると短いから切ったのか、肩からちょっと下あたりから千切れてるから再生しているのだろう、魔力が再生力を上げているからその内全回復するだろう。
マつまり今怜楓の右腕が半分ほどないのは正常ではなく異常な事態ということになる。
だからこそ右腕は一体どこに行ってしまったのか、食ったのか食わせたのか疑問に思っての質問だろう。
玲壮の記憶が正しければ怜楓に自食の趣味も習慣も性癖もなかったはずだが最近生えてきたのだろうか。
人間は自食することも共食いすることも前提として作られてないから止めた方がいいのだろうか。
「千切った」
「ドウシテ?」
「必要だったから」
そう言って後ろの魔法陣にチラリと視線を向ける。
魔法陣を作るうえで必要だったからという意だろう、そんな怜楓に対し不思議そうな表情で何かを呟く、唇の動きが日本語ではないから上手く読めないが、最近の人間って皆こんな感じなのか、みたいな事を言っているようだ。
当たり前だが違う、怜楓を人間の標準として認識しちゃマトモな人間に助走をつけてグーで殴られるんじゃなかろうかと玲壮は想っている。
「それで」
そう前置きして、怜楓も疑問を尋ねる。
「それで、なんで小さくなってるの?」
「アそうだ、その件でここに来たんだ、何か知らナイ?」
「オレが質問したはずなんだけど。……ア」
「何?」
「お前、コレ飲んだでしょ」
そう言って怜楓が空中から空のワイン瓶を取り出す。
空になった瓶含め要らないものはさっさと捨ててほしいんだが、取り敢えずしまっとけとかいう思考はやめて欲しいと前から言っているが。
マそれで解決したらコイツじゃないな。
部屋の隅に置いてあった椅子に座りながら様子を眺める玲壮は、そろそろ帰ろうかどうか迷っていた。
もう玲壮がここにいる意味はないが、正直この状況はもっと眺めていたくもある。
「ナニソレ」
「ブラッドワイン」
「……ナニソレ」
「葡萄酒だよ、材料にブラッドが使われてる」
「何でソレを出したノ?」
「うっかり混ざっちゃって」
「うっかりか、ならショウガナイ」
それでいいのか。
苦手だからか好きだからかは知らないが血を摂取しないようにしているのにうっかりだった、ジャしょうがないで許すとは、相変わらず人外から甘い対応をされてるらしい。
「でも、血が含まれてるって言ったって精々酔う程度でしょ。人間に化けれない程にはならんでしょ、その位なら流石にオレも回収するなり様子見とくなりしてたよ」
「ウン、マ、マ否定は出来ないカナ」
「大方、酒と血に酔って寝落ちた挙句誰かに力を奪われた、てところ?」
「見てたノ?」
「見てないよ、ただの想像、当たってたみたいだね」
想像。
怜楓がそう言ったことは当たってる、少なくとも玲壮が知っている限りでは外れたことはない。
怜楓は玲壮の様に勘ではなく色んな要素を考慮した上でどうなるか考えたものを想像だと言っている。
そもそも怜楓は常に色々考えてるし同時に幾つものことに考えている、その所為でうっかりとかが多い。
どの思考に意識を多く割いているかが違うのだろう、何か作業をしている途中で前触れなく違う事をしだしたり、会話の途中で何の脈略もなく違うことを話し出したりということが結構あった。
コイツの脳内を覗いたら多分情報量で吐く。
「オレが気になるのは、誰に持ってかれたのかだよ」
「分かんナイ」
「そっかー、ジャ探そうか」
「ヨロシク」
話がまとまったらしい、そんなところで部屋の中の扉が開いて真也が入ってくる。
大きい鏡を抱えて怜楓の元に近付いてるからパシられたんだろう、結構ヒト使いが荒いのだ。
「正直オレも良く分かってないんだよね」
「ソーナノ?」
「この近くにいてお前の力持ってける奴は大体お前の事も察せるだろうから手は出さないと思うんだよ」
「ジャ誰ナノ?」
「ソレを今から探す」




