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玲壮の目に映るのは見慣れた自分の家のリビングと、机の上の見慣れない大量の酒瓶、空の物もあれば中身の入った物もある。
そして椅子に座って顔を赤くさせて朱色の盃に酒を注いでは傾けて口に運んでいる怜楓。
向かいに空き瓶やらグラスやら中途半端に引いた椅子があるから酒盛り相手がいたのだろう。
記憶が正しければ肉体の年齢は未成年だったはずなんだが、飲酒法を知ってて無視するのはマいつもの事だな。
玲壮に気付いてか怜楓は盃を持ってない方の手を小さく振る。
「おかえり~」
「誰かいたのか」
「さっきまでね」
「……いつまで飲んでるんだ?」
「あと一杯」
「そしてもう一杯もう一杯と机の上を空き瓶だらけにするんだろ」
「酒飲んで酔うっていうこの感覚は気に入ってるんだよ」
「答えになってない」
会話の途中でまた盃に酒を注ごうとしたのを止めて酒瓶を奪う。
どうでもいいがウイスキーを日本酒飲むときの器に注ぐのはどうなんだ。
アこの酒美味い。
「お前も飲むんだ」
「味が気になった」
「そーかい」
怜楓は盃を置いて机の上に視線を向ける。
「ア」
何かに気付いたらしい怜楓が空のワインボトルを一つ手に取る。
一瞬目の焦点が合わなくなり、首を軽く傾げて何かを思案した後マいっかと机の上に置きなおして他の酒ビンと一緒に消す。
***
チャイムの音が聞こえて、玲壮は玄関の扉を開ける。
「誰?」
「イヤ、ソレは俺が聞きタイ」
玄関の前には見覚えのない、襟足だけ伸ばして一つに括った黒髪に青いチャイナ服を着た六歳前後の少年が一人、玲壮の姿に群青色の目を見開いて立っていた。
「マいっか、怜楓いる?」
「いるが」
玲壮には見覚えが無いが、怜楓の知り合いらしい少年を取り敢えず上がるように促す。
家の中をキョロキョロと見回して不思議そうな顔で「何処にいるノ?」と玲壮に尋ねてくる。
確かに今この家の中に怜楓の気配ないが。
一瞬目の前の少年が人間かどうか疑問が湧き、直ぐにどうでもいいなと結論を出す。
「アイツ今巣に籠ってるからな、案内するぞ」
「ホント何処にいるノ?」
「だから、アイツの巣」
疑問符を浮かべている少年を怜楓の部屋の前まで案内して扉を開ける。
その扉の中は全体的に白く、広い空間に繋がっていた。
円形の床に高い壁、中央には半透明の板が螺旋状に設置されている。階段のつもりなのだろう。
全体的に塔の内部という感じだ。
壁には等間隔で扉があり、階段からそこに道が繋がっている。
玲壮は扉を下のモノから一つ一つ視線を向け、真ん中より少し上辺りの扉「あそこにいる」と指さし伝える。
「何で分かったノ?」
「勘」
「ヘェ。ソレデ、如何やってあそこまで行くノ?」
「飛べないのか?」
「残念なコトに、今は飛べないんだヨ」
飛べないのか、残念だ。
電話したとしても気付くとは思えないし、それなら階段を一歩一歩上がっていくしかないだろう。
そう伝えると少年は階段に視線を向けてから玲壮を向いて「コレを?」と聞き返す。
確かに人に上らせる気があるとは思えない高さではあるが、一応階段だから使えないことはない。
「今はココからあそこまで跳んで行けはしないんだ、階段を上るしかない。俺が運ぶから問題ないだろう、文句は受け付けない」
「文句言うつもりはないケド、イマ飛ぶじゃなくって跳ぶって言ったよネ」
「言ったが?」
当然という顔をしでの回答に「そっかー」と納得したのかしてないのか分からない声色で答えた少年を、玲壮は肩に担ぎあげて階段を駆け上がる。
***
少年は乱れた髪を手櫛で整えながら楽しそうに、それなりの距離を走った筈なのに疲れたように見えない玲壮に「凄いネ、オマエ」と話しかける。
「身体能力には自信がある。それより、尋ね人はこの中だぞ」
「開かナイ」
「そうか、ならこうすればいい」
片足を軽く一歩踏み出し、体を回転させながらその勢いでもう片方の足に魔力を籠めながら持ち上げ扉に蹴りを繰り出す。
バァン
そんな音と共に扉が開く。というか吹き飛ぶ。
「ワー、豪快」
扉の向こう、部屋の中ではいきなり吹き飛んだ扉に驚いたような顔した真也と逆にそれに一切気付いていないか、あるいは気付いていて無視しているのか怜楓が背を向けて立っていた。
「行き成りどうした?」
「来客」
「今あんな感じだぞ」
「あと十秒位」
「そうか」
「オマエら言葉数もうちょっと増やす気ナイ?」




