親の話
二人の親について
女がいた。
よくみる髪の色、目の色、肌の色、身長、体格、顔立ち。
人混みに紛れたら見付け出すのが難しい様な、どこにでもいそうな平凡で凡庸な、人。
普通に生まれ育って学校に通い友人と過ごし恋をして仕事に就いて、結婚して子供が出来た。
だが、普通じゃない点もあった。
女の子供、もっと言うなら胎児に普通じゃない魂が宿る。
ある種の才能か、あるいは運が悪いのか、もしかしたら普通じゃないのは女ではなくその夫にあたる男かも知れない、もしくは二人ともか、でなければもっと別の原因があるのか。マそんな事はこの際どうでもいいだろう、それほど重要なことでは無い。
兎に角女の子供は特殊な魂を宿して、特殊な存在として産まれた。
特殊な魂に影響されてかその姿形は、髪の色も目の色も顔立ちも、女ともその夫にあたる男とも欠片も似ていなかった。可笑しなことだ、肉体を構成する物質は確かに女と男の遺伝子を受け継いでいるのに。
***
冬。
その日に産まれた二人の赤ん坊を、両親と呼べる存在は困惑の表情を浮かべ見つめる。
困惑。
その両親の困惑の理由は彼らの子供である二人の容姿に対するものだった。
両親共に、二代三代遡っても黒、あるいは茶色の髪と目、そんな血統の中に現れたのは、玲壮と怜楓と名付けられた二人の赤子。
怜楓の髪や目の色はまだ可能性があっても、玲壮の白銀と瑠璃色の瞳、なんなら顔立ちも違う。もしかしたら母親が他の男と、なんて疑問が浮かんだのだろう、父親にあたる男は少しの疑心が籠った目を女に向け、直ぐに逸らす。
もしかしたら、否、そんな事はないはずだと疑っては頭を振り、男は女に検査することを提案する。
結果、疑いもなく二人の子供。ならば、そう、己の子供なのだから、己の子供として育てるべきだろう。
***
普通に接しようと思っても、やっぱり上手くはいかないもので。
その上子供二人もかなり特殊だった。
まず泣かない。
静かで手がかからないを通り越して泣かない。
なのに気付いたらミルクを与えてて、オムツを変えてる。
それに表情が変わらない、喋らない。
すっと子供らしくない凪いた目をしている。
そんな我が子に対して、ちょっと心配した。心配して。そしてちょっと気味悪く思った。
マ当然と言えば当然だろう、赤ん坊の中にこの世界とは違う世界で過ごした記憶が入っているのだ、異質だろう。
放り投げないどころか親として接してるんだから凄い、これが心温まる話ってやつだな。
マ父親は家に帰ってくるのがちょっと遅れるようになったが別に会社に遅くまで残ってるだけだし、仕事熱心なんだろう。多分。
***
幼稚園から呼び出される。
どうも怜楓が同じ組の子を怪我させたらしい。
どうしてやったのか聞くと特に理由はないと返ってくる。
理由はない、ただ、目障りだったから目の前から退かした、それだけ。
能面の様な表情で何でもないような声色で答える。
本当に何でもないような、反省どころか自分がやったことを悪いとも思っていない様子で。
近くにいた玲壮も止めなかったようで、何故止めないといけないのか逆に聞かれる。
そんな二人を、やっぱりちょっとの心配と気味悪さを感じながら、どうすればいいか分からない。
誰かに相談したいが、誰にすればいいのだろうか。
最近夫とも余り顔を合わせていない気がする、そういえば、最後に会話したのはいつだったろうか。
マ大丈夫だろう、別に不倫している訳じゃないし、ちょっと態度がよそよそしい気がするが、特別態度が冷たい訳じゃない。最近は仕事も順調で昇進の話も来てるらしい、仕事熱心なのはいいことだ、文句を言うつもりはない。
***
洗濯機が回る。
渦巻く水とその中の服。
女はその様子をただ茫然と見ていた。
人には限界がある、キャパシティとでも言おうか、女は別に特別それが大きかったわけじゃなかった。
何もかも受け入れて愛せる訳じゃないし、かといって全部割り切ることが出来る訳でもない。
誰かを責める事もできないし、誰かに相談もできないしで、そうして積み上がったそれを気付かないようにしてもなくなるわけじゃない。
「全部、全部忘れて、無かったことにして、やり直したい」
無意識のうちに口からそんな言葉が零れる。
「いいよ」
声が聞こえた、返ってくることを期待していない言葉に向けられた、返答。
怜楓が立っていた。
その顔にはいつもの能面の様な表情ではなく、笑顔が浮かんでいた。
優しそうな、楽しそうな、少しの慈愛も感じる。表情。笑み。笑顔。顔。
赤
赤と
目が合った。
***
「何してるんだ?」
地面で眠っている自身の母親とその傍に立っている怜楓を視界に入れ、玲壮はそう問いかける。
「全部忘れて、やり直したいっていうから、どうしようか悩んでた」
振り返った怜楓は、何時もの表情はどこに行ったのか、人間の様な表情。口角が上がっていて、優しそうな、楽しそうな、ちょっと慈愛すら感じる表情に、玲壮は違和感で数秒沈黙する。
「……どうするんだ?」
「記憶消すだけでいいかな? それとも体も若返らせる?」
「体若返らせたら辻褄を合わせが難しいんじゃないか?」
「確かに、流石に人間の記憶だけじゃなくって過去の記録も色々変えないとだから大変かも」
ジャ記憶だけかな、そう言って母親の頭に手を置く怜楓に、玲壮は浮かんだ疑問を尋ねる。
「表情、あと口調、どういう心情の変化だ?」
「コミュニケーションの基本は笑顔と喋り方かなって思って」
「真面にコミュニケーション取る気があったんだな」
「三分ちょっと前に沸いた」
「そうか」
それまで取る気なかったんだなとか思いながら記憶消去を行っていく様子を黙って見て、終わったあたりでもう一つ、疑問を口にする。
「記憶」
「ん?」
「消せるんなら、戻すこともできるのか?」
「マ出来るけど、なにか戻してほしい記憶でもあるの?」
「子供の頃の記憶がないんだ」
「今も子供だと思うけど」
「前の時の」
「そっかー」
ちょっと見せてと怜楓は玲壮に近付いて母親と同じ場所に手を置く。
「あー、うん、コレはちょっと」
「出来ないのか」
「記憶を消すって言っても二種類あるんだよ。そうだね、USBとデータに例えるとしようか、USBが魂でデータが記憶ね。オレがさっきやったのはデータを保存したファイルにパスワードを付ける方法、そうするとそのファイルが開けなくなるから中のデータが見れなくなる。そんで、お前の場合はちょっと違う」
「?」
「データを直接抜き取られてるんだよ」
「それだと戻せないのか?」
「データがUSBに残ってたら戻せるけど、ないならデータを持ってきてもらわないと」
「そうか」
無理なのかと、少し残念に思ってマいいかと気持ちを切り替える。
「記憶消して、やり直して、それでおしまいかなのか?」
「知らない。でも今回はちょっとサービスしてる」
「サービス?」
「さっきの例に例えると、無条件で新しいファイルが作られてそれにデータだ入力されるようにした」
「そうか」
「ジャオレ他にもやる事あるから」




