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最終決戦後の勇者と魔王が現代にINした話  作者: 小城穂
番外編

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24/29

天使の話

「初めまして」


 風に靡く金色の髪と真っ白な六枚の翼。


「早速で申し訳ないのですが」


 髪と同色の長い睫毛に縁どられら金色の瞳が細められて。


「今から貴方を教育していこうと思います」


 楽しそうな優しそうな笑みを浮かべた口から優しそうな声が零れる。


「理由は、そうですね」


 人差し指を口元に当て、顔を横に向けて少し悩んだのち再び口を開く。


「貴方がとっても素敵だったので」


 そう言って、とっても素敵に笑う自分の肩を踏みつけているその人を見上げながらアルフェル、マのちに色々あってェルがとれる事になるが。

 今はアルフェルと呼んでもいいだろう彼は全力で遠慮したくなった、事実首を横に振って拒否の言葉を口にしようとした。

 しようとして、肩を踵で強く踏みつけられ諦めた。コイツはホントに天使なのだろうか。


「大丈夫ですよ、教育には責任を持つので五十年もあれば上位天使にしてみせます」


 ***


 光の矢が飛んでくる、右に避ける。

 槍が飛んでくる、左に避ける。

 レーザーが飛んでくる、左に避ける。

 それから上に下に上に上に右に。

 途中で何回かかすったりもしながら、最近四枚に増えた所為で上手く飛べない翼で空を後ろを気にしながら飛んでいると、嫌な予感がして前に向く。


 光の槍がすぐ近くまで迫っていた。


「大丈夫ですか?」


 鼻先、刺さるか刺さらないかギリギリのところで消えた槍に力が抜ける。


「一方だけでなく全てに注意を向けないとだめですよ」


 あと、簡単に気を抜かない事。


 浮かべている笑みは相変わらずで、その表情のまま伸びてきた手を取る。

 天使みたいな顔をしている、否、実際天使なんだが、兎に角天使みたいな顔してるのに思考は天使とは程遠い。


 今アルフェルが何しているのか、天使の力、法力と呼ばれる魔力の対極に位置しているもの、それの強化を現在進行形で行っている。

 法力は翼に宿る。力が増すと枚数が増えたり大きさが変わったりする、上限は六枚。力が反転、所謂堕天をすると翼が黒くなる。

 そもそも生まれた瞬間からデカい翼が六枚の天使も居りゃ小さい翼が二枚生えてるのもいる。

 天使の力は、悪魔の様に魂を喰って強化出来ないのだ。

 時に大量の書物を読まされ、時に死に至りそうな場所に放り込まれ、時に人を導いたり、時に実戦だとか言って暴れてる悪魔の前に放り込まれたり、時に今回の様にひたすら攻撃を避けたり、否正確には避ける以外の行動をする余裕がないだけだが。

 そんな何がしたいのか分からない事をしてるが、実際十年程度で翼が増え、小さかったのが数年で大きくなった、マジで五十年位で上位天使になるかも。

 なんてアルフェルは想う。


 ***


 アルフェルは天界の空を六枚の翼で駆ける。

 焦りの表情を浮かべ自身の師にあたる天使の名を口にし飛び回る。

 基本フラフラと気まぐれに姿を現したり消えたりしているが、今回は嫌な予感がしてその気配がする辺りを探し回る。


「見付けた」


 月の光を浴び立っている姿を視界に捉え、近くに寄る。


「アルじゃないですか、どうしたんですか? こんな所で」


 アルフェルの姿に気付いた彼女はいつもの表情でそう聞く。


「アンタこそ、こんなところで何してるんだ?」

「質問を質問で返されるとは、マいいでしょう。逃げるんですよ」

「何から?」

「天界からですかね」


 そう答える彼女はいつもの笑顔で、その体は透けていた。


「何をしたんだ?」

「ちょっと蘇生を」

「ホントに何してるんだ」

「可愛い娘だったんです」

「そうか」


 人間の蘇生、生死の運命への直接的な関与。

 魂は巡るもので、それへの干渉は天界では大罪。


「人助けか、珍しく天使らしいことをしたな」

「天使ですからね。運命を無理やり捻じ曲げるのは、助けたと言えるんですかね。実際に罪人扱いされていますし」


 マ私は自分が悪いことをしたとは思ってないんですけど。


 そう答えて、小さく笑い声を上げて、その体はさっきよりも薄くなっていた。


「それで、どうして体が透けてるんだ?」

「さっきも言いましたでしょう? 私、自分が悪いことをしたとは思ってないんですよ。だから悪いことをしていないのに罰を受けるとか嫌なので、逃げようかと思います」

「どう逃げるんだ?」

「転生です、生まれ変わるんですよ、違う誰かとして」

「逃げたと言えるのか?」

「生まれ変わる際、魂は一度真っ白になります、だから別人として生まれるんです。けど今回私は魂をそのままに生まれ変わります、そうすれば私は私としてそこにいることになります」


 輝かんばかりの笑顔でそう答える彼女は、また薄くなって、消えていく。


「ハル」


 ハルメェル


 そう彼女の名を呼んでアルフェルは手を伸ばす。

 伸ばした手は、けれど彼女に触れることはない。


「それでは、十年はかからず産まれてくるはずなので。また会いましょうね」


 ***


 どこかのカフェで、椅子に座っている男が二人。

 一人は白い髪、もう一人は赤い髪であり、両者ともに人の目を引く容姿をしているにもかかわらず周りにその姿を視界に入れているらしい人物はいない。

 誰しもそこに誰もいないかのように振る舞い、けれどその席に近寄ろうとする者はいない。


 白髪の男、アルフェルは目の前の赤い髪の男を見つめる。

 ソイツの飼い主の目よりちょっと明るい赤い髪と、毒々しい色合いの紫の瞳、爽やかとつきそうな整った容姿。

 このイヌッコロの名前は確か、飼い主に亜音と名付けられていたはずだ。


「天界に嫌がらせしたいんだが、いい案はあるか?」

「お前ホントに天使か?」

「一応天界では上位に位置している」

「神の目は節穴か?」

「かもな」


 実際神なんて賛美賞賛の声しか聴かないようなそこらの人間より悪魔より身勝手な連中の集まりというのがアルフェルの考えだ、こんな考えの奴を天使のままにしておく神の目は確かに節穴。ホントなんで天使出来てるんだろうか。


「それで、いい案はあるか?」

「少し待て」


 そう言って亜音はスマホの画面の上を親指が滑り、耳に当てる。

 電話か、誰に掛けてるのかは聞かなくともわかる、どうせ飼い主だろ。

 数ヶ月前に対面した少年の姿を脳裏に描き、何とも言えない感情でその様子を眺める。


 何というか、電話一本で安心安全なんでも相談室、否ダイヤルか?

 マ兎に角日常のちょっとしたトラブルから邪魔なアイツを消したいとか世界征服したいとか神を殺したいとか、そういう相談に快く乗って問題解決の方法の提示から手助けまで色々やってくれる。

 料金は応相談、金以外でも可、相手にもよるが基本は間違いなくゼロが片手の指を裂いても足りない数が要求される。


 当然そのダイヤルはアルフェルも知っている、ジャ何で掛けなかったのかと言えば、マ苦手意識から無意識に選択肢から外していたのだ。

 なんせ初対面で踏みつける奴なんて二人目だ、アレ二人目?二人目だ世の中どうなってんだ。んなこたいいんだ、重要なのは今回は二人目の上頭。ちょっと喧嘩売った位で頭潰されかけるとは思わなかった。


 そうアルフェルが電話相手について色々考えていると亜音がショボンという効果音が付きそうな顔で耳からスマホを離す、見えない筈の耳と尻尾が垂れ下がってる気がする。


「出ない……」


 安心安全なんでも相談室、ただし開かれるのは本人が電話に気付いた際に限られる。

 今回は気付かなかったらしい、残念。


「で、いい案はあるか?」

「そもそも何で俺に聞く」

「一番ちょろそうだった」

「殺すぞ」

「マ落ち着け」

「……デどうして嫌がらせしたいんだ?」

「ちょっとな」

「ほー」


 自分から聞いといて興味なさそうな返答を返す亜音、ジャ聞くなよと思うが別にいだろう。相談に乗る気はあるようだし。


 因みに、アルフェルが天界に嫌がらせしようと思った理由は自分の師についてである。消えてからかれこれ七年近く、未だに見つかってないからストレスが溜まる。マ要は八つ当たり。


「もうアレだ、魔界の悪魔でも人間界に溢れさせたらどうだ、アイツら血気盛んだしきっといい感じに暴れるだろ」

「魔神に挑む勇気はないぞ」

「俺もお前が魔神に勝てるとは思ってない」

「ジャどうすんだ」

「否ホラ最近、大体百年位前までよくこっち来てたとこあったろ、そこなら血の気多い奴多いしそこの魔王ならお前でもなんとかなる」

「詳しいな」

「前に行ったことあるからな」


 百年がちょっと前、なるほど見えないが自分よりかなり年喰ってるだけあって時間感覚狂ってるな。


「つか、魔界とか、お前マジか」

「区別はついている」

「否でも一応は実家みたいなもんだろ」

「最近は魔界で全部通じてたんだ」


 魔界、界とついてるんだから一つの世界だ。

 魔王っていうのは正確には魔界の中に点在する小魔界の王、そしてその魔王の一番上にいるのが魔神。

 そんな違いが存在したりするが、マ部外者からしたらそれがどうしたってとこだろ、気にすることじゃない、全部魔界で全部魔王、区別なんて付けない。

 存在そのものの在り方は別に変らないんだから、それでも別に問題ない。


「全部魔界呼ばわりする奴か、俺はまずお前の飼い主が思い浮かぶんだが」

「レンサンに文句あんのかテメェ」

「無いから落ち着け狂犬」


 紫の目を鋭くし、低い声でそう告げる亜音にアルフェルはコイツの飼い主はどうやってコイツを飼いならしたのか気になった。

 ア拳か、拳だろうな、悪魔は基本殴れば黙る、実に手っ取り速くって分かりやすくって。実に羨ましい。

 つか飼い主のとこ否定しないのかよ。


「ア後ほら、あの黒髪の悪魔とか」

「アイツは別にどうでもいい」


 ドライだな、マこんなもんだろう。なんせ悪魔だし。


 魔界について詳しい奴の中にも適当に魔界とか魔王とか言ってる奴もいる。

 一番に思い浮かぶのはやっぱコイツの飼い主、そんでそんな適当な説明でも大体理解できてる、否、何で?魔王っていってもどこの魔王か分からんし、魔界って言ってもどの小魔界か分からんし、何でそれだけで話が通じるんだよ、マジ意味わからん。


「マ兎に角、堕天でもなんでもして魔王になってくればいいんじゃないか?」

「そうか、分かった」

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