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海のど真ん中、いくつものクレーターやら焦げたような跡やらが大量にある地面。
その近くに魔法で作った障壁を足場にして立っている玲壮が右手に持った剣を軽く素振りしながらそこに目を向ける。
「死屍累々って感じ」
「二人とも死にたくないようですからね」
海面から数メートル離れた空中に浮かんだ木も草もない、小さい島の様なその場所でうつ伏せで倒れてる白と金の髪の男、アルフと家に荒っぽく侵入した犯人であるエイルが二人とそこから少し離れた海面からこれまた少し浮遊した怜楓がその状況をそう評すと、その隣に同じく浮かんでた庵理がそう返す。
そもそもこの二人がなぜこんな場所で殴り合いなんてしているのか、どうもエイルがアルフに何かいきなり奇襲かけられて拘束されて壁に暫く磔にされてたらしい。
否、何だ、元天使の間で流行ってるんだろうか、磔。
正直その話を聞いた時怜楓が言っていた勝負に勝って恨みも買ったとかいう一言の方が記憶に残った。全く関係ない私怨で家壊される方はたまったもんじゃないが。
兎に角そんな負け方が気に入らないらしいエイルがアルフに殴り込みにいき、ソレを聞いた怜楓が海の上に小さい島作って殴り合えとか言い。
最終的にこれ以上この件を引きずるのも面倒だしと負けた方が今素振りをやめて剣を肩に担いてる玲壮に斬られるということで決まった。
「死と隣り合わせのスリルがない戦いに意味はあるのか?」
「戦闘狂じゃないので意味を感じるのでしょうね」
体育祭準備
心底分からないという顔の玲壮は庵理の返しにも余り納得できていない様だ。
「結局これどっちが勝ったんだ?」
「さぁ? もう起こしてじゃんけんでもさせたら?」
「それでいいか」
「ワァ命が軽いですね」
怜楓と玲壮の軽い掛け合いに庵理が軽い笑い声を上げて感想を言う。
「いいの? 負けたら死ぬけど」
「貴方ってそんなこと気にするんですね」
「知人相手なら多少は生死に関心を持つよ」
「そうですか、意外ですね。デさっきの質問の答えですけど、自分の命がかかった勝負に負けるほどやわじゃありませよ」
「自信があるようで」
「自慢の教え子ですから」
「そーいうもん?」
「そういうものですよ」
楽しそうな怜楓と庵理から目を離し、玲壮は空中に浮いている島に歩みを進め地面で伸びている二人に近付くと頭を持ち上げ目覚めさせる。
「ちょっとじゃんけんしろ」
「エ否何で?」
「このままだと勝負決まらないだろ」
目覚めて早々に言われた言葉にエイルが困惑顔で理由を尋ねると玲壮は表情を変えずに当たり前の様に答える。
「俺の運命、じゃんけんで決まるのか」
そんな玲壮の言葉にそう呟いてジャさっさと始めるぞとアルフが右手を握って持ち上げると、その向かいにいるエイルが「お前は何でそんな簡単に認めてんだ」と噛みつく。
「こういう輩に逆らっていい事あったことが無い」
そう言って目が一切笑ってない笑顔でさっさとしろと促すアルフにエイルも黙って左手を出す。
流石は庵理と怜楓と知り合いなだけあってそういった相手との関り方というものを身をもって体験しているのだろう、一々何かを言う前にさっさと従い始めたアルフに玲壮はアイツらは二人とも調教上手いなとか思いながらじゃんけんの様子を眺める。
マそうは言っても両者ともに反射神経が優れてるだけあって中々決着がつかない、高速でグーチョキパーの形に手の形を変えていく、多分先に瞬きした方が負けるなとあたりを付けて剣を腕輪の形に戻すと腕を組んで様子見の構えに入る。
***
「ウッシャア!」
「嘘だろ……」
決着がついたようで白髪の方が両手を突き上げ、反対に金髪の方は両膝を地面に付けてうなだれている、どっちも目が限界なのかきつく閉じているのが何とも言えない味を出してる。
そんな両者の姿に玲壮は既視感を覚え記憶を掘り起こすと思い当たるものに行き着く。
コレあれだ、ゲームとかである勝負がついた時の表現そっくり、心なしかアルフの上にWとIとNの文字が見えるような気がするし、エイルの上にはLとOとSが出てる気がする。
幻覚か?
否、よく見たら後ろで黒いのが後ろで魔法使ってる。
アレ完全に面白がっているな。
そんなどうでもいいことを考えながら右手で再び銀色の剣を握りながら近付いて振り上げてエイルに向けて振り下ろし、そのまま縦に真っ二つに、は流石にせずに途中で止めてため息を一つ。
「お前」
このまま二枚に降ろされるのか短い生涯だった悔いしかないもっと生きたかったなんて思いながらエイルが身構えるとそんな声が掛けられそれに困惑品からエ?と返して玲壮の方を向く。
「この負け方なら納得できたろ」
「アはい、しっかり納得できました」
「じゃこの件はこれで終了だ」
何故か敬語になりながらそう返すエイルに一つ頷くと剣を腕輪の形に戻すと、今度はアルフの方に顔を向ける。
「戻ったら直ぐに人間界に来てる悪魔連中どうにかしろ、一週間経っても改善してなかったら契約してないのは片っ端から斬る」
「分かった」
玲壮は自分の事を真面な感性と常識を持った人間だとは思っていないが、今回集まった当事者の一応人間の肉体を持った中ではどうやら自分は真面な部類らしいと認識を改める。
これだけ当事者がいる中で真面に解決しようとしたのが自分だけで後は後ろからニコニコ事の成り行きを眺める奴と観察する奴だけだったなと思い、もう一度疲れたようにため息を吐く。
そんな玲壮に怜楓が歩み寄って声を掛ける。
「斬るんじゃないかったの?」
「もういいかと思ったんだ」
「へェ以外、オレなら斬るって言ったら普通に斬るかな」
「嗚呼、お前結構有言実行するよな。俺は結構慈悲も優しさもある人類だからアレを斬るのは流石に良心が痛む」
「まるでオレには慈悲も優しさも良心もないみたいな言い方」
「むしろあるのか?」
「なくともある様に振舞うくらいは出来るさ」
「つまり無いってことだろ」
「マそーなるね」
笑顔でそう肯定して怜楓は自分が作った島を崩して海底に沈め、ジャ帰ろっかと声を掛ける。




