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最終決戦後の勇者と魔王が現代にINした話  作者: 小城穂
番外編

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12/29

華藤椿の話

「せっきょう」


 怜楓が消えた場所を見つめてもう一度そう呟くと椿は小さく吹き出し、アイツも一応人の子だったらしいとひとりごちる。

 ひとしきり笑うとその表情を消し、目を鋭くさせて部屋の隅に転がっている男に近付く。

 起きてくださいな、と声を掛けて揺らすが、目が覚めない男の様子に仕方ない、と言うかのように息をついて袖の中から札を五枚取り出す。

 四枚を部屋の四隅に、もう一枚を男に貼り付ける。

 すると男が悲鳴を上げて目を覚まし、椿は顔にどこか怜楓が浮かべていたものと似た笑みを浮かべると、男の髪をつかんで目を合わせ


「久しぶりですね、お兄サマ?」


 そう声を掛ける。


 椿の姿に男が驚いたように目を見開く。


「今防音の結界を張っているのですが、私では直ぐにバレて何かあったのかと他の方が入ってくるのです」


 プライバシーをもう少し考慮してほしいものです、淑やかにそう零して、だからと付け加える。

 だから、短時間で終わらせなければ。

 残念そうに頬に手を当てそう言って、椿は袖の中から数枚の札を取り出す。


「出来る限り苦しんで死んでくださいな」


 お兄サマ


 意識して穏やかで優しい笑みを浮かべる、こういう表情は時に真顔や怒りの表情よりも怖いのだ、椿は無自覚でそうやって何人も怖がらせた人物を知っている。

 だから表情を作る、意識しないと歪みそうになる顔に笑みを浮かべて、低くなりそうなのを抑えて優しい声を出す。


 ***


 華藤椿は先代の華藤家当主がどういう訳だか全くの一般人だった母に手を出した結果生まれた子供だ。

 母と共に暮らしていた椿が顔も知らなかった父に引き取られたのが十三の頃、そうして椿は華藤家の当主候補になった。


 とはいえ祓い屋のハの字も知らない様な小娘に華藤の人間の厳しいこと厳しいこと、なまじ父親に似たのか霊力の多いから引き取られたのだろうが、だからこそ目障りだったのかその対応は元々少しひねくれていた椿という人間を更にひねくれさせた。


 今更三流小説でも出てこない使い古された設定の様な生い立ちだが、そんな生活の中で怒りと屈辱と殺意によって浮かんだ涙が翡翠の瞳から流れるのを歯を食いしばって堪え、決意した。


 絶対、こいつらに、地獄を、見せてやる。


 齢十四歳、椿の人生の指針が決まった瞬間だった。


 マ決意したところで経験と知識が一朝一夕で何とかなるかというとならなかったが、それでも引き取られて四年経った、多少は能力が身に付いた頃。

 偶然一人で妖怪退治の為に訪れた山で、妙に強いのに出くわして、要は嵌められたのだろう。

 そのことを責める気はない、邪魔者は消す、椿だった同じことをした。

 マ恨まないかは別問題だが。


 椿が怜楓と出会ったのはその時だ。

 妙に強いソレを何とか葬り、死にかけで地面に這い蹲ってると近づいてくる足音が聞こえて、その足音の主が怜楓だった。


 何か用でもあったのだろう怜楓は、椿に視線を向けることなく歩いていく。

 何事もなければそのまま通り過ぎて行っただろう怜楓に、助けを求めれば助かると、椿のカンが告げた。

 それまでもそれからも、幾度も助けられてきたカンの言うとおりに助けを求めた。

 それが正しかったのかは分からないが、それでもその言葉にそれまで何も見えていなかったように視線すら向けなかった怜楓の、いいよ~、という軽い言葉により椿は生きているし、その縁が続いて色々手を貸してもらったり、気まぐれに振り回されたりして今の椿が出来上がったのだ。


 ***


 静かになった男を能面のような表情で見つめて、椿は襟をつかんで部屋の押し入れに放り込む。

 何処に行ってるのかは知らないがここに入れると暫くすれば消えるから実に便利だ。


 気を付けてはいたが血が付いていないか確認して、大丈夫だと分かったあたりで丁度よく障子の向こうから声がかけられる。

 顔を出して問題ない事を告げて閉じる。


 プライバシーをどうにかしてほしいと本当に思うが、マ考慮してた結果先代があっさり死んだから仕方ないかと思う。


 一息ついたところでさて怜楓は今回何をしたのかという疑問が浮かんで、考えても意味ないと結論を付ける。

 何も言わなかったということは説明する気がないからだろうし、聞かない方がいいとカンが告げているし、それなら聞かないでおこう。

 それに、終わったことを考えても意味ないという思考に行き着く。

 普段は受動的なのに助けを求められそれが自分の害にならなければ軽く了承するし。

 気まぐれは悪意も善意もなく人の一生も人外の一生も狂わせる、それが良く働けばいいが悪く働いたら最悪だ。

 怜楓の思考を理解しようとするのも行動を予想するのも無理だ、それが自分の不利益につながらないことを祈るだけでいいだろう。

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