腹違いの妹に裏切られ、殿下を奪われた私は婚約破棄され辺境送りになり、今は隣国で癒し手として暮らしています。なぜか妹の婚姻式の招待状が届いて困っていたら、同僚がついてくることになって…。
「なにこれ?」
私は今日届いた招待状を見て目を丸くしてしまいました。
「婚姻式?」
元婚約者と妹の婚姻式の招待状でした。あれから1年、やっとなんとか生計を立てられるようになったのに、なぜ今? と私は大きなため息をついてしまいました。
「元気ないなあ、どうしたエリー?」
「元婚約者殿と妹の婚姻式の招待状がきたのよ」
「……」
「それでどうしようかと思ってるの」
「普通……出席しないだろ」
「そうよね」
私は仕事場で同僚のジョイにため息をつきつつ事情を話します。
ジョイは私を拾ってくれた本人で、このギルドに紹介し、生計をたてられるようにしてくれた恩人です。妹いじめの嘘とやらで婚約破棄されたのも彼は知っていました。
お姉さまがいじめたのというたびに両親に怒られていたので、それが証拠にされましたが……。
いじめられていたのはこちらでした。いつも継母と二人で私をなじってくるのですよねあの子。
「その髭剃りなさいよ、鬱陶しい」
「男らしいと言ってくれ!」
ジョイは髭でぼうぼう、年齢は30過ぎだけど、もっと上に見えます。
私は19歳、でも敬語はいいといわれたので、こんな感じです。
「癒し手様が身内にいると周りに宣伝したいとかか?」
「さあねえ」
私は婚約破棄され、国外追放になり、野垂れ死にするところをジョイに拾われました。
適正判断とやらで癒し手の素養があることがわかり、ギルド所属の癒し手であった彼の口添えで、この隣国で暮らせることになったのです。
「癒し手って貴重ですものねえ」
「でもお前の国ではスキル判定もなし、魔法学園もなし、それに癒し手もいないって、ただのバカ国なのか? エリー」
「魔法という概念が邪悪と言われてますから」
「ふうん」
私の今いる国は、魔法特化の王国です。魔力は貴重、そして癒し手はあらゆる傷や病をいやすのでさらに貴重。
だから癒し手は尊敬され、かなり高給取りです。
数が少ないというのもあります。
ギルドにも実は20人しかいませんし。私の国では魔法は邪悪扱いなので癒し手なんていらんというでしょうが。
「……両親が出席しろって手紙を送ってきまして」
「ああ」
「でも一人じゃ」
男女同席というか、カップルでいくもので……一人というのを見られてまたバカにされるのも嫌です。
困った顔をしていると、俺がついてってやるとジョイが言い出しました。
継母と継母の言いなりの父も嫌いですが、しかし両親は一度言い出すととても煩いのです。
「はあ?」
「男がいればいいんなら俺がついてってやるよ!」
「髭もじゃ」
「髭は剃るし。俺はこう見えても王族の親戚だ!」
「ああ、そうでしたね」
これでも一応、現国王の甥でした。忘れてましたわ。私はじゃあお願いしますと頭を下げるとまかせとけと胸をたたいたのですが……。
「ジョイ、あなた、男前でしたのね」
「男前という言葉も古いな」
「ハンサム?」
「いい男と言ってくれ!」
馬車に乗っている私たち、しかし髭もじゃしか見たことがなかったのですが、髭を剃るとかなり年齢より若く見えて、よい顔立ちをしていました。
金髪碧眼、年齢は20代半ばほどに見えます。
実際は31歳ですがね。
「ジョイ、とりあえず私たちは恋人同士ということで」
「わかっている」
うなずくジョイ、しかし髭がないだけでこうとは……。
「暇だな……」
「ええ」
ちらちらと女性陣がこちらを見ています。ジョイが目を引くみたいですけど。
壇上にいる妹と元婚約者がだらだらと婚姻の言葉を言っているのを聞いて、眠くなってきたとあくびまで始めました。
「ジョイ、助かりましたわ。ありがとう」
「いやべつに」
ジョイをちらちらと妹も見ているようです。
ジョイがため息をつくと、いやそうに顔をゆがめましたわ。
ああ騒ぎでも起こしたい気分ですわイライラします。
なんとか婚姻式が終わろうとしていたのですが、ジョイが立ち上がり「異議あり!」と唱えたのです。
「ジョイ?」
「私、ジョゼフリート・ライナスはここにこの式に異議を唱える。我が婚約者のエリザベス・マルゴーに妹いじめという無実の罪を着せて、婚約破棄をし、辺境送りにした罪、そして隣国の王太子であった私の従弟、ルードヴィヒにユーリ・マルゴーが言い寄った証拠もある。不義の罪もあわせて告発する!」
書状を懐から出して宣言したジョイ、私は一体? と目をぱちくりしていると、書状には妹の罪状がつらつらと書かれてあり、会場は騒然となりました……。
ああ、妹が強い目でこちらをにらんでそんなことはしてませんと殿下に言ってますけど。
婚姻式がめちゃくちゃ、私はでも少し胸がすくなあなんて思いながらこの光景を見ていました。
「しかし隣国の婚姻式でやらかすとは思いませんでしたわ……国の問題になりませんこと?」
「かなりルードが困っていたし、あのユーリとやらがルードが親善のため、お前の国にいったとき夜這いにまできたと……だから陛下とルードには許可を取ったし、お前の国の国王にもお伺いはたてといたぞ」
「はあ?」
「調査も手伝ってくれた。国王もあれにかなり困っていたそうだし」
「はあ」
ことの顛末としては、妹は婚約破棄の上、修道院送り、実家は所領没収、殿下は廃嫡。
私はジョイと国に帰りましたが、しかしあの妹の悔しそうな顔、いやあとてもあの顔が見れただけでもよかったですわ! 初めてです。
「さて、我が婚約者殿」
「え?」
「私とよければ、結婚してくださいませんか?」
「結婚は早いです。婚約はお受けしますわジョイ」
「ありがとう、エリー」
「ジョイ愛してますわ」
「俺もだ」
私はふざけて笑うジョイをみて、髭はないほうがいいですわと笑いました。
彼は男らしいのにと笑いますが、剃ったままにすると頷きます。私たちは微笑みあい抱きしめあいました。
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