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パーティ解散……!?

「悪い、俺冒険者引退するわ!」


 長年一緒にやって来た幼馴染の突然の引退宣言に、俺の思考は完全にフリーズした。


 え、ちょっと待って、どういうことだ?


 今日は確か、借金取りに捕まって消えていったメンバーの代わりを何とかするための会議だったはずだろう?なんでそんなカミングアウトいきなり聞かなくちゃいけないの?


 突然のことに口を開くことしかできない俺に、幼馴染のラウルはさらに言葉を加えようと口を開く。お願い待って?まださっきの一言すら呑み込めてないんだけど。


「それでよお、俺も抜けるし、このパーティは解散ってことになっちまうんだけど……」


 だから、そういうこと言うなってえの!俺に状況を把握する時間をくれ!


「ラウルさん、少し待ってあげてください。コバさん、突然の発言に情報処理が追い付いていませんよ」


 うちのパーティの魔法使いであるエリンちゃんがそう言っているのが、遠のきかけた俺の意識を引き戻してくれた。ありがたいことだ。


「エリンちゃん、ありが」


「あ、私も今日限りで冒険者業は引退します」


「エリンちゃんんんんんんんんんんんんんんんん!?」


 お礼を言おうとした瞬間を、俺が正気を取り戻した瞬間だと思ったらしい。結局君も自分の引退を俺に伝えたかっただけか。いい子に見えて悪い子だ。


 あまりにも突然すぎて吐きそうなんだが。ここ飲食店だし、吐いたら絶対店の人に怒られるよなあ。そう思った俺は、何とかこみ上げる吐瀉物を胃へと押し戻す。


「わ、わかった。わかったよ。わかりたくないけど、二人とも冒険者をやめるってことか?」


 俺がひきつった顔でそう言うと、二人は頷いた。

 「……なんで?」


 もしかして、俺が何かやってしまったのだろうか?それで、もう冒険者をやりたくないなんてことに……。

 そんなネガティブ思考に陥りかけた俺に、エリンちゃんが話しかける。


「なんでも何も、私はそういう契約ですよ。魔導学院で勉強するお金が貯まったら、学業に専念したいので冒険者家業はやめるって最初に言ったじゃないですか」


 そういえば、と俺はぼんやり、一年ほど前の彼女との出会いを思い出した。

自分達よりもずいぶん年下で、当時ド新人だった彼女をパーティに入れた時、そんな話をした気がする。


エリンちゃんは魔法大好きな女の子だ。小さいころから魔法学校に入って大魔導士の元魔法を勉強するのが夢だと、パーティ加入時に話していた。冒険者になったのも、そのために必要な学費を手っ取り早く稼ぐためだという。


 魔法使いということで頭がよかった彼女は、一年という短い間ながらも我らがパーティに大きく貢献してくれた。基本バカな男しかいなかったパーティの癒しだった。


 また、彼女は学費を稼ぐという目的のため、えげつないほどの倹約をしていたことを、俺は知っている。宿がない冒険者が多く寝泊まりする馬小屋に泊まり、生活環境を良くして逆に周囲の冒険者や馬小屋の主から小金を巻き上げていたくらいだ。クエストで採集に行った際には、必ずと言っていいほど周囲の植物や素材を取りつくそうとする。もっとも、彼女は体力がないので、採取するのはレンジャーである俺がやるんだけど。


 そんな彼女が苦節一年、ようやく目標金額を貯めることに成功したらしい。これは素直に喜ばしいことだ。彼女の涙ぐましい努力を知っている俺も、思わず涙が目ににじむ。


「そうかあ……おめでとう、頑張ってくれよ!」


「コバさん、ラウルさん、今までありがとうございました!」


 エリンちゃんはそう言って頭を深々と下げてくれた。やっぱりこの子はいい子だなあ。なんだか妹が独り立ちするみたいで、嬉しい気持ちになる。


 もっとも、いつまでもそんな気分でいるわけにもいかないのだが。


「エリンちゃん、有名な魔法使いになったら、何かおごってくれよ!」


「ちょっと待てコラ!」


 何いい雰囲気に混じろうとしてるんだこの野郎。俺はラウルに怒鳴り散らした。


「お前はどういうことなんだよ!何だ冒険者引退するって!」


 俺の言葉に、ラウルはバツが悪そうに鼻先をポリポリと掻いた。俺は姿勢を正して、一応便宜上のリーダーとして、咳ばらいを一つする。


「何か事情があるんだったら、相談してくれよ。もしかしたら、力になれるかもしれない。おれたち、仲間だろ?遠慮なく言ってくれよ」


「コバ……」


 俺を見るラウルの目に、涙が浮かんだ。俺はほっと安心する。こいつの目は、本当に昔から変わらない。

 俺とラウルは生まれも育ちも一緒で、田舎から「一旗揚げようぜ!」と冒険者をこころざしてこのバレアカンの町へやって来た。その理由は単純で、この町に大きな冒険者ギルドがあり、俺の故郷に一番近かったからだ。

 それから、9年間。俺とラウルは一緒に闘ってきた。ともに苦難を乗り越え、ともに泣き、ともに笑った。酸いも甘いも一緒に味わってきた仲だ。

 そんなラウルが、突然冒険者を引退すると言い出したのだ。こいつは悔しいが冒険者としての才能が俺よりもはるかにある。そんな奴が引退なんて、俺には信じられない。


 きっと何か事情があるのだ。俺はラウルの力になりたい。


 ラウルはしばらくためらっていたが、やがて、引退の理由を俺に話してくれた。


「実は、道具屋の女の子孕ませちゃってさあ。責任取ってその子の店継ぐことになったんだわ」


 親友の顔面に、俺の靴がめり込む。

 レンジャーならではの身軽さを活かして、俺はテーブルの上へとジャンプすると、そのままこのバカの顔にドロップキックを叩き込んでいた。


 ラウルはそのまま地面へと倒れこむ。俺はそのまま奴の上にまたがり、胸倉をひっつかんだ。


「バカかお前はーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 そのままラウルを力のままに振り回す。後ろではエリンちゃんが、ゴミを見るような目でラウルを見ていた。いいぞもっとやれ。


「ごめんて!ごめんて!」


 ラウルが叫んだのを見て、とりあえず手を止める。彼は一本線を描いて、きれいな鼻血を垂らしていた。

 

 さすがにここまでやると、周囲の連中も驚いてこっちを見ている。いつも騒がしい食堂が、騒いでいるのは俺だけという妙な雰囲気になっていた。


「……お前、それ、マジかよお……?」

「嘘ならよかったなあ、俺も……」


 お互い、どんな言葉を出していいのかわからない。特に俺は、どうやってこいつを罵ればいいのか、いい言葉が浮かばなかった。


「ちなみに、道具屋の女の子って、誰だよ」


 俺がぽつりと聞いた言葉に、ラウルは視線をそらして黙り込んだ。猛烈な嫌な予感がする。それは俺だけでなく、周りの男たち全員が感じるほどのものだった。


「……………アンネちゃん。サイカ道具店の」


 その場にいた男全員が、ラウルの言葉によって心にひびが入った。そのまま立ち上がると、全員で俺たちを囲む。


 囲む男のひとりが、とうとう声を張り上げた。

「お前、マジ……っ、ふっ、ざっけんなよコラアアアアアアアアアアアアアアア!」


 その言葉を皮切りに、猛烈なストンピングが俺たちを襲った。

 ちょっと待って、何で俺まで踏まれてるの?


 アンネちゃんとは、俺たちが今暮らしている「バレアカン」の町一番の美人と言われている、道具屋の看板娘さんだ。なんでも、町の男の七割が彼女目当てで店に行っているらしい。ツインテールで、ちょっと小柄だけどおっぱいは大きくて、誰にでも優しい。まさにアイドルであり、男たちはある意味「彼女に手を出すのはやめよう」と暗黙の了解を取っていた。下手すれば戦争になるから。


 かくいう俺も、アンネちゃんの道具屋さんにはお世話になっている。買い物に行くと可愛らしい笑顔で出迎えてくれる。まさにこの町の天使だったのだが。


 俺の幼馴染は、そんな天使を穢すどころではない所業をやらかしたらしい。


 確かにラウルは、結構遊びも豪快で、遠征に行った後なんかは娼館に行きたがる。それで一度に六人ぐらいの女を抱くらしい。遠征中にパーティの女の子に手を出しそうになるのを、俺は何とか宥めていた反動もあるのか、相当滾っているようだ。


 酒が入っていた勢いもあり、男たちのストンピングは長い間続いていた。俺を巻き込んで。


「待ってください!」


 エリンちゃんが叫ぶと、男たちの足が止まった。彼女は群衆の中をかき分け、俺たちの前へとやってくる。

 彼女は俺の足を掴むと、ラウルから引きはがそうとした。だが、彼女の力だけでは足りないので、周りの男がちょっと手伝って、俺を人ごみから運び出す。

 そして、エリンちゃんはラウルの財布を彼の腰からぶんどると、上へと掲げた。そのとき彼女のラウルを見る目は、ゴミ以下の何かを見る目をしていた。


「皆さんの今日のお代は、ラウルさんのおごりです!やっちゃってください!


 男たち雄たけびを上げ、ラウルへのストンピングを再開する。


俺はその光景を最後に、意識を投げ出した。


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