前編 【少女の選択】
昔々、ある者は言った。「人は救いを求めて神に祈りを捧げるのだ。」と
別の者はこう言った。「人は願いを叶えるために神に祈りを捧げるのだ。」と
では果たして、祈りを捧げられた神は救いを求める者に一体何を贈るのだろうか。
救いか、願いか。その両方でないとしたらそれは厄災なのか。
いくつもの世界線が組み合わさり、一つの物語を作り出すとしたら。
神は何を思って物語を作るのだろうか。
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目覚ましが鳴り響いている。
うるさい。もう少し寝かせてくれ。
そんな心の声を無視するように、目覚まし時計が朝を知らせている。
諦めたように目を開け、ベットから降りる。
目覚まし時計を止め、今日から始まる学校に向かうため、準備を進める。
夏休みが終わるというのに未だセミの鳴き声が煩い。
着替えを済ませ、簡単な朝食を済ませ、誰もいない家に声をかける。
「・・・行ってきます。」
扉に鍵を閉め、歩道を歩いていく。
見慣れた景色、見慣れた道。車道には自動車が多く走っている。
やはり少し眠い。夜更かしをしたわけではないのに睡魔が強くなっていく。
また、夢を見るのだろう。
目を覚ます。少し寝ていたようだ。
これから幼馴染である雪奈 沙羅の家に向かう所だ。
ふと脳裏に違和感を感じる。
先程までどこかに向かっていたような。何とも言えない居心地の悪さを感じていた。
そんな事を考えていたら、目的地の沙羅の家にやって来た。
インターフォンを鳴らして少し待つ。
家の中からドタバタしている音が聞こえて直ぐに玄関の扉が開く。
「おはよー!お待たせ~!ごめんね寝過ごしちゃった。」
彼女は息を切らしながらこちらに向かってくる。
「おはよう。そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうよ!」
と私は元気よく返した。
昨日のテレビの話をしながら、私たちは学校へ歩いていく。
歩いていく途中、私は頭の中で別の映像を見ている感覚になった。
自分を第三者の視点で見ている奇妙な感覚を覚える。
『あぁ、また誰か死ぬのか』
心の中で呟く。
この感覚を得た時、いつも決まって周りの人が死んでしまうのだ。
そして、人通りが多い交差点に出た瞬間、耳をつんざく音がする。
そこからはコマ撮りのように世界が動いていく。
人々の叫び声、急ブレーキの音。人が轢き殺されていく不可解な音。
『あぁ。また大勢の人が死ぬのか』
どこか諦めたように、何かを決意するかのように心の中で、またつぶやく。
そして世界がゆっくりと止まっていく。
世界が止まると同時に意識が暗転する。
気が付くと沙羅の家の前にいた。
家の中からドタバタしている音が聞こえて直ぐに玄関の扉が開く。
「おはよー!お待たせ~!ごめんね寝過ごしちゃった。」
彼女は息を切らしながらこちらに向かってくる。
「おはよう。そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうよ。」
私は冷静に答えた。これから起こる事を悟らせないように。
そして、私達はいつもとは別の通学路を歩いていく。
「たまには別の道を歩くのもいいね!新鮮で!」
彼女は無邪気にそう言ってくる。
「そうだね。いつもとは違う景色が見れるかもしれないよ」
私はそんなことを言いながら、彼女を連れていく。
次の瞬間。
耳をつんざく大きな音がする。背後からトラックの急ブレーキの音がする。
そして、隣から彼女の姿が消える。
「「ドン!!」」
何かが壁にぶつかった様な強烈な音が聞こえる。
そしてそのすぐ後に何かを引きずるような不快な音がする。
地面には血が飛び散り、無邪気な少女が瞬間、無残な姿に変わり果てる。
『あぁ。世界はどうしてこうも残酷なのだろう』
そんなことを心の中で呟く。
まるで自分を第三者の視点で見ているような奇妙な感覚。
『これでいいんだ。小を捨て、大を救う。私に出来ることはこれだけなんだ』
何かに言い訳をするかのように、何かから逃げるように彼女は心の中で何度もつぶやき続ける。
それでもこの鉄の様な異様な血の匂いは、ずっと鼻に残り続けている。
少女の涙が落ちる音がした。
この物語は茶々丸様作 クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「デウス・エキス・マキナは死んだ」 をリスペクトし、執筆している物です。
本家「デウス・エキス・マキナは死んだ」の関係性は一切ありません。
なお、著作権等の問題が発生した場合、打ち切りもしくは削除になる可能性がありますので重ねてご注意ください。
また、同時刻に投稿する【一発の弾丸。やがて得る物とは・・・。】の方も合わせてご覧ください。
【デウス・エキス・マキナの誕生】は不定期、
【一発の弾丸。やがて得る物とは・・・。】は1週間に1話の投稿になります。
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