後の領主、依頼を受領させる作戦を決行する
ここからは町民に聞かれるとまずいとのことで宿屋に移動となった。
集まったのは俺の部屋。
メイミーと二人で泊まる部屋に12人が入るのはかなり無理がある。
仕方ないので家具をすべてアイテムボックスにしまって無理やり座る場所を確保した。
「ベラン殿、作戦はどんなものなのですか?」
グラトニーのおっさんがベランさんに作戦の詳細を求めた。
ここは俺が口出しするよりもベランさんに会議の進行を任せたほうが混乱しないな。
「なぁに簡単なことさ。奴は精力旺盛で妾を囲うのが趣味なようなので、二度と女を抱きたくなるような気持ちにさせてやればいい。女癖さえ直せば金を使うこともなくなり重税も掛けることが無くなるだろう」
「なるほど、寝込みを襲って去勢をするのですな」
なにそれ怖い。
グラトニーさんそれ普通に犯罪だから。
さすがにそれはマズい。
「この作戦は去勢をするのとは違うかな。心の底から女を抱きたくなるように調教するんだ」
「なるほど、調教ですか。で、我々はどうすればいいですかな?」
「作戦の遂行は俺たちでするので『銀の鉾』のメンバーたちは町長邸の周辺から人払いをして欲しい」
それを聞いて安心したクランクが胸を張る。
「わかりました。戦闘がないようなので僕らにお任せください」
クランクはどれだけ穏健派なんだか……。
戦いに身を投じる冒険者から引退して、普通に街の中で屋台の店主とかしたほうがいいんじゃないのか?
よく今まで冒険者としてやってこれたと不思議に思う。
「じゃあ明日の未明決行ということで。それまでに俺たちは色々と仕込まないといけないことがあるので、ここで解散にする」
銀の鉾のメンバーは部屋を出て行った。
俺が家具を元に戻しているとベランさんが俺に頼みごとをしてきた。
「作戦を遂行するにあたってラーゼルさんにお願いがあるんですけどいいですか?」
「なんですか? 俺が力になれることなら遠慮なくどうぞ」
「うちの嫁のレベルを上げてほしいのです。よろしいですか?」
「上げるレベルにもよりますが、どのぐらいでしょうか?」
「今レベル28なので35に上げてほしい」
レベル35か。
それなら残っている潜在経験値で何とかなりそうだ。
「わかりました」
ベランさんはモニカにも指示を出す。
「モニカにも色々と頑張ってもらわないといけない」
「あの町長を懲らしめるためなら、多少の無茶はするぞ」
「頼もしいな。さっきも話が出たが、まずは今日中にうちの嫁のレベルを上げないといけないんだ。運び役となって、今すぐクレソンにみんなを連れて行って欲しい」
「わかった。みんな行くぞ!」
町から離れて森の中でモニカは竜に変化した。
モニカの翼でクレソンへと向かう。
あんなに時間の掛かった馬車旅と違って道中は一瞬だ。
やはりドラゴンの翼はすごいな。
*
クレソン郊外のベランさんの家へと向かう。
「ただいま。カリスはいるか?」
「あなた、お帰りなさい。そんなに大勢のお仲間を連れてどうしたの?」
出迎えてくれたカリスさんは看病疲れしていた前と違い表情が明るかった。
歳も10歳ぐらい若返ったように見える。
「カリス。お前の力が必要なんだ」
「私の力がですか?」
「お前の『モンスタートレーナー』の力がな」
カリスさんはモンスタートレーナーだったのか。
冒険者の経験があるとは思ってもなかった。
それにしてもベランさんはモンスタートレーナーの力を使ってなにをしようとしているんだろうか?
もしかすると……。
モンスタートレーナーはモンスターを眷属とし配下に置いたモンスターを操るジョブだ。
ゴブリンを操り屋敷を襲わせるのか?
そうか、その手があったか!
レベルを上げてゴブリンを大量に操る気なんだな。
妾とのお楽しみ中にゴブリンで足の踏み場もないほどにごった返すゴリオール邸。
裸のゴリオールに襲い掛かる大量のゴブリン、そして今までと正反対の弄ばれる側となるゴリオール。
そんなことになったらトラウマものだ。
二度と夜のお遊戯はする気が起こらなくなるだろう。
なんという、鬼畜な作戦!
ベランさんが少し怖い。
そのあとに俺たちがかけつけ、ゴブリンを倒すのを条件に依頼達成を受領してもらう。
なんだ、簡単なことじゃないか。
完全なマッチポンプだけど相手が悪人なので気にすることもないだろう。
これならうまくいきそうだ。
「では、ラーゼルさん。モンスターの捕獲に行く前に、嫁のカリスのレベル上げをお願いします」
「任せてください」
俺はさっそくカリスさんに俺の潜在経験値を使いレベルを上げ始める。
痛みでかなり辛そうにしていたが、ベランさんが手を握って必死に励ましている。
カリスさんのレベルは32でカンストしてしまったので、上限も35に上げた。
上限上げはレベル上げとは比べ物にならない痛みが襲う。
痛みで悲鳴を上げるが、ベランさんが必死に抱きしめる。
「がんばれ、あと少しで終わるぞ」
「はい。大丈夫です」
レベル上げが終わり、肩で息をするカリスさん。
「体が軽くてなんだか生まれ変わった気分です」
「よし、あとはモンスターを捕まえれば準備は完了だ。ドラス山に頼む」
「ほいさ!」
*
ドラス山に着いた。
日が暮れて辺りは夕闇から闇へと変わり始める。
さすがに格下のゴブリン相手でも気を抜いたら足をすくわれるかもしれない。
「気をつけろよ。格下のゴブリン相手でも捕まったら大変な目にあうからな」
「いや、捕まえに来たのはゴブリンじゃない」
えっ?
なにを捕まえに来たんだ?
すぐにわかった。
目の前に現れたのはオークの群れだ。
「オークってまさか?」
「そのまさかだ」
俺は今まで思い描いていた作戦が音を立てて崩れ去る音を聞いた。
オークといえば、あれしかない。
ベランさんはとんでもないことをしようとしていたんだ。
「よし、頂上に着くまでオークを倒しまくるぞ」
「ボスが出てくるまで戦い続けるんだ!」
俺たちはオークの軍団をなぎ倒す。
まあ、毎度のごとく手応えがない。
わかってた。
「なんか弱すぎるぞ」
「山の頂上付近に側近が棲んでいるから強い敵が出てくると思うんだが、お前たちは強すぎるからな。期待しないほうがいいぞ」
「そうか……」
残念がるモニカ。
でも、コットンさんにはちょうどよさげな感じの強さ。
「ひゃー!」だの「ひえー!」だの言って戦いを楽しんでいる。
*
そして頂上にやってきたが側近連中も全く手ごたえがなかった。
コットンさんのレベル上げに役に立ったぐらいだ。
「こいつが目的のボスだ」
オーククイーン。
このドラス山のコロニーのボスである。
でっぷりとした腹の半端ない力を持つオーク。
その力とは吸精力であり、好物は人間の男だったりする。
もちろん食べるわけじゃなく性的に食らう、男にとって最悪の敵だ。
オークは男を見つけるとエキサイトしまくり、抱かれた男は死ぬ寸前まで精力を搾り取られることとなる。
特にオーククイーンの求精はすさまじく、子種を全て吸い尽くすまで行為を止めない。
こんなのを宛がわれたらトラウマで頭がおかしくなる。
ベランさん、酷い。
鬼畜過ぎる。
そんなことを考えていたら……、目が合ってしまった。
『いい男じゃないの……』
俺を見て舌なめずりするオーククイーン!
ちょいやめろ!
俺には嫁がいるし、魔物と仲良くする趣味なんてないんだから!
や、やめてくれ!
そこに立ちはだかったのはメイミー!
両手足を広げて俺を必死に守ろうとする。
「ご主人様に手出しはさせないのです!」
『黙れ、小童が!』
渾身の拳を振り下ろすオーククイーン!
女には全く容赦をしない。
やばい!
すさまじいパワーの拳撃だ!
こんなのが直撃したらメイミーはミンチに!
でも心配は要らなかった。
メイミーは襲ってきたオーククイーンを弓で受け流す。
受け流したんだが……。
『ぶみょー!』
メイミーの弓で頭を殴られたオーククイーンは顔をいびつに変形させて動かなくなってしまった。
コットンさんが動かなくなったオークをつんつん突いている。
「これ死んじゃってますよ」
「よわ!」
「弱すぎる!」
「いや、でも、これってレベル35ぐらいの強敵だったはずですよ?」
メイミーが強過ぎただけだった。
仕方ないのでちょっと弱くなるがオークプリンセスさん(40歳未婚)を捕まえてペットとした。
オーククイーンよりも吸精力は劣るがゴリオールは若い女の子の方が好みだから問題ないだろう。
*
俺たちはオークプリンセスを連れてセージの町へと戻った。
すでに時間は夜更け。
作戦の決行の時間となっていた。
クランクとグラトニーさんが俺たちを待っていた。
「こっ、これは伝説のオークプリンセスじゃないか!」
『あら、いい、お・と・こっ! 一緒に遊ばない?』
「お、俺は、オ、オークと遊ぶ趣味なんてないから!」
俺と全く同じ反応をするグラトニーさん。
男だったらまあそうなるよね。
カリスさんはオークプリンセスをたしなめる。
「あなたの相手はこの男じゃないわ」
『あら、残念!』
魅了されてるはずなのに勝手に男を誘うオークプリンセスは恐ろしい……。
俺たちはオークプリンセスを連れてゴリオールの元へと向かった。




