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後の勇者、夜警をする

 モニカとグラトニーさんの戦いが始まった。


「おりゃりゃりゃりゃりゃー! おっさんには負けないぞ!」

「俺も二度は負けん!」


 コカトリスの焼き肉を丸焼きから引きちぎり、大きな肉の塊をそのまま食らいつくモニカ。

 対してグラトニーのおっさんは剣でこんがりと焼けたコカトリスの皮の部分をそぎ落とし、皿に取り食っている。


「このパリパリに焼けた皮が美味!」

「そんなに味わって食っていたら、また負けるぞ!」


 それを完全否定するグラトニーのおっさん。

 ふんふんと鼻を鳴らして指を左右に振る。


「食事を楽しまないで、なにが大食いだ。楽しんだ上で量も食う。これが俺の大食い道である!」


 ハッキリと勝敗をつけるのならば量はモニカの圧勝だった。

 モニカの大食いは凄まじく、コカトリスの丸焼きによじ登りちぎっては食いちぎっては食いのありえないペースである。

 これにはグラトニーのおっさんもかなわない。

 30分もせずに消えたコカトリスの丸焼き。

 高さ3メトル超える丸焼きがどうやれば二人の腹の中に納まるのか謎だ。

 グラトニーのおっさんはモニカの食いっぷりを称える。


「その大食いにはかなわない。完敗だ」


 負けたはずなのにグラトニーのおっさんはすがすがしいほどの笑顔。

 やるだけやって悔いの残らない戦いだったのが身体全体からにじみ出ている。

 それを見てモニカもグラトニーのおっさんを称える。


「大食いでは再び私の勝ちだが、その食を楽しむ心意気には完敗した」


 互いの手を取り合い、称えあう二人。

 満腹になってまりのように膨れた腹を抱えた二人はすぐに地面にひっくり返った。


 *


 食事の片付けも終わり、日が暮れたので各々のテントへと向かうメンバーたち。

 このテントのメンバーで、2時間ごとの夜警を交代で順番に行う。


 最初は俺とメイミーの番だ。

 ぶっちゃけた話、夜警はする必要がない気もする。

 精霊石が置いてある時点でモンスターや獣は襲ってこない。

 その上に俺のテントには『哨戒の護符』を設置しておいた。

 敵意を持ったものが近づいてくればすぐに知らせてくれる護符だ。

 ただし哨戒の護符は万能ではなく、『隠匿』スキル持ちの凄腕の野盗ならその効果を掻い潜って襲ってくる可能性もある。

 ただ、そんな凄腕の野盗が田舎町への生活物資を積んだ馬車を襲うか?という疑問がある。

 その可能性は限りなくゼロに近い。

 俺は見回りは哨戒の護符に任せ、メイミーとの星空のデートを楽しむことにした。


「ご主人様と二人っきりのデートは楽しいです」


 広場の端にある大木の根元に寄りかかって座るメイミー。

 俺もその隣に座っていた。


「星がきれいですね」

「宝石みたいだな」

「きれいなんですけど星って寂しいんですよ」

「寂しい?」

「あれだけの星が夜空にあっても、どの星もひとつとなって交わることがないんです」

「ほほー」


 ロマンチックで詩的なことを語るメイミー。

 まあ星が勝手に動いたら星座を結べないから、夜に方角がわかんなくなるしな。

 と、ロマンの欠片もないことを考えてしまう俺。

 空気読めないおっさんでごめん。


「人も同じで、夜空の星よりも多いのに星と同じくひとつひとつの星が交わることはめったにありません。交わるのは一生に一度の結婚の時だけ、そして相手も一人だけ。そんな偶然の中でごしゅじんさまと一緒になれた幸運に感謝します」


 メイミーは俺にひしっと抱きついてきた。


「好きです。そしてありがとうございます」

「俺も」


 口づけを交わしあう俺たち。

 交わることをうらやむ星々の元、俺たちはとっても仲良しになった。


 *


 その後、巡回も済ませ寝ていると……。

 外でガサゴソと足音がした。

 野盗か?

 まさか?

 襲ってきたのか?

 メイミーも異変に気が付いたようだ。

 ひそひそ声で話てきた。


「なにか来てますね」

「ああ、来てるな。野盗かもしれない」


 哨戒の護符が警報を発してないということはかなりの手練てだれだ。

 俺がそっとテントの出入り口から外を覗いてみると……。


「あっ、起きてた」


 ビアンカだった。

 こんな時間に来るなんてどうしたんだろう?


「どうしたんだ? ビアンカ?」

「巡回の担当の時間になったんですけど、モーちゃんが食べすぎたせいか動けないというんです」


 あれだけ食べればね……。

 動けるほうがおかしい。


「申し訳ないんですけど、私だけで巡回するのは怖いので手伝ってもらえませんか?」


 そういうことなら仕方ない。

 俺は快く巡回を受け付ける。

 チームのリーダーだし、ビアンカは嫁だしな。

 断る理由なんてない。


「いいよ」

「ありがとうございます」

「じゃメイミー。巡回に行ってくるからメイミーは寝ててくれ」

「お気をつけて……」


 俺が出かけるので少し寂しそうにしていたメイミー。

 俺を好きすぎるのが全身から滲み出ていて愛おしくてたまらん。


 *


 巡回といっても周囲の敵を探れる範囲哨戒スキル持ちの俺にはこの辺りに脅威がないのはわかっているので形だけだ。

 とは言っても手練れの野盗が襲ってくる可能性もなくもないので気は抜かない。

 二人で柵の周辺を歩いて巡回をしているけどビアンカはモニカと違って大人しいので会話が続かない。

 一方的に話しかけてくるメイミーとも明らかに違った感じ。

 俺もあんまり話すのが得意な方じゃないのもあって一緒にいて退屈していないのかなと気を使ってしまう。

 ビアンカから話しかけてくることはなさそうなので俺から話題を振った。

 前から気になっていたことを聞いてみた。


「モニカの母親との騒動でビアンカも俺の嫁って扱いになったんだけど本当にいいのか?」

「ラーゼルさんが嫌でなければ、私との関係は今のままでお願いします」


 今のままってことは嫁として扱って欲しいってことか。

 本当にいいのかな?

 ビアンカは意外なことをいった。


「ラーゼルさんは私の白馬の王子様なのです」

「白馬の王子?」


 ビアンカは『覚えてないと思いますが』との前置きの後、俺との出会いを話し始めた。


「実はサボテンミミズから助けられた時よりもずっと前にラーゼルさんに助けられたことがあるんです」


 それって初心者育成請負人をしてた時の話かな?

 と思ったら全然違った。


「今から10年以上前の話になるんですが、私はこのキャンプの近くで野盗に襲われたことがあるんです。その時、父も母も私をかばって亡くなってしまって、私も弄ばれて死ぬんだと覚悟を決めました」


 なんだよ。

 両親が亡くなるとか、いきなりハードな昔話じゃないか。


「そこに偶然冒険者さんたちが現れました。冒険者は野盗と戦ってくれて、その中の一番若い冒険者の人が人質に取ろうとする野盗から必死に私を守ってくれたんです。覚えていませんか?」


 そんな記憶がある。

 確か俺が冒険者になりたての頃の話だ。

 野盗に襲われていた馬車が街道に横転しているのを見つけた俺。

 少女の悲鳴が聞こえたので何も考えずに助けに飛び込んだことがある。

 あの頃の俺はレベル上限が15で訪れるなんて思いもしなかったので、全てに自信で満ち溢れていた。

 俺ならなんとかなる、俺なら助けを求めてくる人を救えると。


『おい。依頼でもないのに勝手な行動すんなよ!』


 俺の勝手な行動に呆れていたメンバーたちだけど結局助けに入ってくれた。

 馬車の陰に泣きながらうずくまる少女を俺は必死に守り続ける。

 今考えると腕の切り傷だけで済んだのは奇跡だ。

 あの時の女の子だったのか。


「覚えている」

「私にとって命を救ってくれたあなたは白馬の王子さまでした」


 その後、肉親を失い孤児となったビアンカは俺の仲間となるべく必死に修行をし冒険者となり俺を探し続けていたそうだ。

 そんな時、サボテンミミズに襲われていた時に突如現れたのが俺だったのだ。


「運命の出会いって本当にあるんですね。モーちゃんに、ラーゼルさんに告白したいと相談したら『既成事実を作って結婚するしかない!』って言うんですよ。もうめちゃくちゃですよね」

「めちゃくちゃだな」


 ケラケラと笑うビアンカ。

 久しぶりにビアンカの笑い顔を見た気がする。

 既成事実を提案してくるモニカもモニカだが、嫁がいながらその案に乗ってしまった俺もそうとうなもんだ。


「だからラーゼルさんとの結婚は私からの希望で、私が望んでいたことなのです」


 そこまで言ったビアンカは真顔になり俺の目を見つめる。


「よろしかったら、今まで通りお嫁さんのままでいさせてください」

「おおう。今まで通りよろしくな」

「やったー!」


 俺の言葉に喜ぶビアンカ。

 ビアンカにそんな過去があったとは知らなかったぜ。


「あのー」

「なんだ?」

「夫婦のあかしとしてキスをしてくれませんか?」


 上向きながら目をぎゅっとつむるビアンカ。

 緊張のせいか全身に力が入りすぎてプルプルと震えている。

 キスなんてそこまで真剣にするものじゃないのに……。

 俺はおでこにキスをしてやった。


「お、おでこ?」

「キスは愛し合うものがするものだ。証明とかでするものじゃない」

「はっ! そうですね」

「ビアンカが俺を好いていてくれるのならば俺もお前を大切に守るさ」

「ラーゼルさん!」


 ビアンカが俺に抱きついてきた。

 この流れで仲良くなっちゃおうかなとも思ったんだけどやめといた。

 なんか必死な抱きつき方がメイミーに似ててな。

 思い出しちゃったんだ。

 俺のことを必死に好いてくれる女のことを。

 仲良くなるにしてもメイミーに話してからだな。


 この様子を木陰に隠れたメイミーに見られていたとは気が付かなかった。

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[良い点] 仲良きことは素晴らしきことかな
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