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後の領主、久しぶりに馬車に乗る

 馬車で依頼場所まで向かうことになったんだが……。

 遅い、遅すぎる!

 なにこの遅さ。

 スライムにでも乗ってる気分だ。

 最近はモニカの翼のとんでもない速さに慣れてしまったのか、馬車に乗れない身体になってしまった。

 馬車での移動が止まってるように思える。

 遅すぎてあくびが出て、ぐっすりとひと眠りをして、起きてもまだ目的地に着いていない。


「はあ、まだ着かないのかよ」

「なにお客さんイライラしてるんですか。目的地のセージの町は一晩野営して次の昼過ぎまでつきませんよ」


 そんなにかかるのか。

 合同チームの銀の鉾とはセージの町で現地集合にして、俺たちはモニカの翼で移動すべきだった。

 俺は馬車旅に飽き飽きだったがメイミーはそうでもないらしい。

 

「久しぶりにごしゅじんさまと二人っきりでいられるのです」


 馬車は荷馬車なので客席が2席しかない。

 12人が6台に分乗だ。

 俺とメイミー、モニカとビアンカ、おっさん二人。

 向こうのパーティーは姉妹のモースとムース、うちのチームのコットンさんと、マイリ、銀の鉾のリーダーのクランクとキャブ。

 チーム別でまとまる案もあったんだけど、グラトニーのおっさんと乗るのが決まりかけたマイリさんに『グラトニーさんに延々大食いの話を聞かされるぐらいなら歩いていきます!』と言われて完全拒絶。

 なにやらかしたんだ、あのおっさん。

 同じパーティーメンバーなのに同乗を拒絶されるグラトニーさんかわいそう。


 メイミーは俺の腕に抱きついてきて全然離れない。

 頭を寄せてきてうっとりした表情をしてしてたかと思うと、俺の胸に顔をうずめてスーハ―スーハーしだしてる。

 なにをしているのかは聞くまい。


 *


 夕方になった。


 やっと中継地のキャンプ場に着いたようだ。

 俺の話し相手になってくれるメイミーと一緒の馬車じゃなければ退屈で死んでいた。

 森の中の広場が柵で囲ってあるだけの質素なキャンプ場。

 建物の類はトイレと管理人棟しかない。

 お金は取られるが精霊石も設置してあるので柵の中まではモンスターが襲ってこない安全地帯となっている。

 とは言っても精霊石は小ぶりなものなので強敵は突破してくる可能性はある。

 見張りは必要なんだが……この辺りじゃ大して強い敵も出てこないだろうし一人か二人で十分だろう。


 今日の旅はここでいったん終了。

 陽が落ちる前にテントの設営をして食事をとらないとな。

 御者のおっちゃんたちはおっちゃんたちで、銀の鉾は銀の鉾で、俺たちは俺たちで夕飯を作ることとなった。

 って……食材を思いっきり忘れた。

 携帯食が備蓄してあるのでそれで済ますか。

 それを聞いたメイミーは今にも泣きそうになる。


「ごはん抜きですか?」


 目に涙が溜まって今にもこぼれ落ちそう。

 そんなにお腹が空いていたのか。

 町に着いたらたくさん食べさせてやるからな。


「今日はごしゅじんさまの作ったご飯が食べられると思ったのに残念です」


 空腹で悩んでるんじゃなくて、俺の料理が食べれなくて悲しんでいたのか。

 なんてかわいいんだメイミーは。

 俺はメイミーをひしっと抱きしめる。

 そこへやって来たモニカ。


「女を抱いてる暇あったらごはんを作ってくれ」

「ごめん、買い忘れた」

「なんだと! 身体が資本の冒険者に食事を抜けだと! 食材を買い忘れるとは冒険者としてありえない失態だ!」


 ギルドの初心者講習で聞いた情報を受け売りするモニカ。

 底なしの食欲のモニカに余計なことを教えるなよ。


「すまない。いつも依頼はソロだったんで携帯食しか用意してなかったんだ。それに、この前のダンジョン攻略の時に大量に備蓄していた食材も全部お前が食っちゃったろ?」

「そうだったか?」

「そうなんだよ」

「仕方ない。私が街までひとっ飛びして買ってきてやる」

「いや、ここでドラゴンになったら騒ぎになるから買いに行くのは止めてくれ」


 そもそもモニカの竜の姿を見られたのが原因でこんな森の中でキャンプをする羽目になったんだぞ。

 俺は悪くない。

 ここは空腹でも我慢してもらうしかない。

 でもモニカは食わなきゃ死ぬと大騒ぎだ。

 俺たちの騒ぎを聞きつけたグラトニーのおっさんが声を掛けてくる。


「どうした? お前ら?」

「このバカが食材を忘れたんだ」


 うおい!

 リーダーであり旦那である俺をバカ呼ばわりすんな。


「なら、俺と一緒に食えばいい」


 とグラトニーさん。


「グラトニーさん、食材が余ってるんですか?」


 そういえば出掛けにものすごい大荷物を持ってたな。

 あれは食材だったのか。


「食材はもってない」


 どういうこと?

 でもそれが食材じゃないとなると、その荷物はなんなの?


「これか? これは調理道具だ」


 箱から道具を取り出すグラトニーさん。

 コンロやら、まな板やら、包丁やら次々に設置される。

 立派なキッチンがキャンプ場に設営された。

 冒険者生活を始めて結構長いが、これだけの調理設備を持っている冒険者を初めて見た。

 すごいな。

 調味料も見たことのない種類が次々にテーブルの上に並べられる。

 なにこの壮観な風景は!

 

「食材は現地調達に限る! 新鮮さがジャスティス! そして採れたもので料理を考える!」


 グラトニーのおっさんは料理人でもあったのだ。

 

 *

 

 グラトニーさんはモニカと二人で森の中に入っていった。

 

「これは食えるか?」

「木イチゴか。これは美味だ」

「これも食えるよな?」

「フォレストボアか。もちろん美味」

「じゃあ、これは?」


 モニカの後ろには高さ3メトル程の巨大な大鶏おおにわとり

 モニカを突こうと巨大なくちばしが襲うがモニカは器用に避けている。

 突かれた地面が爆発したように大穴があきまくる。

 なんでこんな強そうなモンスターがいるかは謎だ。


「もちろん美味って……ビッグコカトリスかよ! なんちゅうものを連れてくるんだ! 石化される前に、に、逃げるぞ!」

「なんで逃げる? 美味しいんだよな?」

「美味しいけど、そんなのと戦ったら死ぬぞ!」


 モニカはコカトリスの首をひと捻りすると倒してしまった。


「なんちゅう強さなんだ!」


 グラトニーさんは腰を抜かした。


 *


 出来た料理は……。


「『フォレストボアの木イチゴソース掛けのハーブ添え』だ。どうだ? うまいか?」


 口の中でジューシーで濃厚な肉汁と木イチゴの新鮮な酸味が広がってうまい!

 さらにハーブが肉の臭みを消して美味!


「これはおいしい!」

「そうかそうか」


 俺の誉め言葉にグラトニーさんはかなりご満悦のよう。


「ごしゅじんさまの料理と同じぐらい美味しいです」

「こんなおいしいボアを初めて食べました。すごくおいしいです」


 メイミーもビアンカも絶賛だ。


「そうかそうか。みんなも遠慮せずに好きなだけ食べるんだ」

「やったー!」

「ありがとうございます」


 御者のおっちゃん迄含めて全員で頂くことになった。

 なにこの美味しい料理!

 キャンプでこんなものが食べられるとは思わなかった。

 あれ?

 モニカの姿が見えない?

 食事の時間は呼ばなくても来るのにどこに行ったんだ、あいつ?


 *


 モニカはというと……。

 森の中でバーベキューをしていた。


「おーい、この鳥はいつまで焼けばいいんだ?」

「それは脂が出きるまで皮をこんがりと焼くんだ。特製スパイスをもみ込んであるから美味しいぞ!」


 ビッグコカトリスは大木に突き刺されて丸焼きにされていた。

 コカトリスって素材として売れば結構な値段になったと思うんだけど、それを食っちゃうのかよ。

 そしてしばらくして……。


「焼きあがったぞ!」

「では仕上げの特製スパイスを振り掛けて……完成だ!」


 二人は腕を組みあう。


「じゃあ、やるか!」

「ああ、やるぞ!」


 なにをするかと思ったら、あれだった。

 大食いだ。


「今日は負けんぞ!」

「おっさんは大食い引退したんじゃないのか?」

「賞金の出る大会にフードファイターとして出場するのを辞めただけで、大食い自体は引退してない」

「じゃあ、やるか!」

「フフフ、やるぞ!」


 二人の熱い戦いが始まった!

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