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後の領主、病気の女の子を治療する

 ベランさんの家を見つけた。

 けして治安がいいとは言えない街外れにある平屋の小さく質素な家だ。

 辺りには民家も少なく空き地が目立つ。

 俺たちが訪ねると出てきたのは中年の女性。

 看病疲れなのか肩を落とし人生に疲れ果てたようなオーラを出している。


「ベランの妻のカリスです」

「ベランさんから頼まれて娘さんの様子を見に来ました」

「申し訳ございません。娘は体調がすぐれなくて寝ております」


 遠まわしに断られた気がする。

 でもわざわざクレソンの街まで来たのだから、『はい、そうですか』とそのまま帰る訳にもいかない。


「では顔だけ見たら帰ります」


 少し強引に寝室に入った。

 寝ていたのは女の子。

 歳は10歳ぐらいに見えるが、実際はもう少し年上なのかもしれない。

 寝てはいたが息を荒くして苦しそう。

 病気というのは嘘じゃないみたいだ。

 俺は彼女の病状を見てみた。


 名前:ヴァリス

 ジョブ:魔法使い

 レベル:7/12

 HP :4/23

 MP :0/46

 攻撃力(ATK):8

 耐久力(DEF):19

 魔法力(INT):430

 幸運度(LUK):23

 スキル:【魔道:超】LV12


 これはヤバいかも。

 鑑定をしてみるとMPが尽きていてHPが大きく凹んでいる。

 MPは尽きても死なないが、HPが尽きたら死ぬ。

 慌てて回復の指示をだした。


「メイミー。手早く治療を済ますぞ。ガツンと回復してやってくれ」

「はい!」


 メイミーがヒールを使い本気で回復する。

 女の子の身体が激しく光り輝く。

 HPは完全に回復だ。

 でも相変わらず息が荒い。


「効いてない?」

「みたいですね」


 再び鑑定。


 名前:ヴァリス

 ジョブ:魔法使い

 レベル:7/12

 HP :22/23

 MP :0/46

 攻撃力(ATK):8

 耐久力(DEF):19

 魔法力(INT):430

 幸運度(LUK):23

 スキル:【魔道:超】LV12


 うは、満タンにしたはずのHPがもう減ってる……。

 なんでなんだ?

 あとMPが尽きてるのも気になる。

 俺の鑑定ではわからないけど、HPやMPが減るような呪いか状態異常にかかっているのかもしれない。


「ごしゅじんさま、ヒールでHPを満タンまで回復したのに症状が改善しないとなると状態異常なのですかね?」


 そこにグイと顔を寄せるモニカ。

 なにか妙案があるといった得意げな顔だ。


「じゃあメイミー。屋敷で言っていた状態異常回復をしてみるんだ」

「やってみます」


 モニカに言われて状態異常回復の魔法を試す。

 身体が清涼感のある青色に光る。

 呪いを含む状態異常をなんでも消し去る『クリアル』だ。

 メイミーは高レベルの僧侶にしか使えない魔法まで覚えている。

 メイミーを僧侶に転職させたのは間違いなかった。

 後々間違いなく素晴らしい聖女になるだろう。


 しかし効果なし。

 相変わらずHPが減り続けている。

 呪いでも状態異常でもないのか?

 いったいどうなってるんだ?


 俺たちが悩んでいるとカリスさんが戻って来た。

 手に水薬を持って。

 

「そろそろ薬の切れる時間なので失礼ですが飲ませます」

 

 水差しに入れた薬を飲ませると、嘘のように荒れていた息が収まり病状が回復した。

 意識も戻りへこんでいたHPもMPも徐々に回復し減らなくなくなっている。

 どんなすごい薬なんだ?

 俺たちの訪問に気が付いたヴァリスがブランケットで身を隠す。


「お母さん、この人たちは?」

「お父さんが世話になっている人なのよ」


 モニカは胸を張る。


「お前の病気を治しに来たんだ」

「治せるんですか?」

「任せとけ!」


 原因不明の奇病に頭を悩ませている俺に対してモニカは自信満々。

 どこからその自信が湧いてくるのか謎だ。


「その薬はどのような薬なんですか?」

「『マナゲイン』です」


 マナエーテルの下位となるMP回復薬だ。

 マナエーテルは一気にMPを回復するが、マナゲインは回復量は少なめだが少しずつMPを長時間回復し続ける。

 高価な薬ではないが、一日に10本ほど使うのでかなりの金額になるとのこと。

 ベランさんはこの薬を買うために稼いでいたんだな。


 マナゲインを飲めば症状は治まるとのことだけどなぜなのかはわからない。

 こうなったら専門家に相談だ。


「モニカ! サテラの街まで飛ばしてくれ!」

「ほいさ!」


 *

 

 そしてやって来たサテラの街の神殿に着いた俺たち。

 もちろん目的は女神官のクレリアさんに症状の相談するためだ。

 すぐに答えは出た。


「原因は【魔道】ね。メイミーちゃんと全く一緒よ」


 メイミーと一緒ってことはMPが尽きているのが原因なのか。

 でも、気になることもある。

 ヴァリスの場合は寝ているだけで、魔法を使っていない。

 MPは0だが割り込んだりはしていない。


「でも魔法なんて使ってませんでしたけど?」

「この【魔道】はレアスキルで魔法力を常時10倍に高めるスキルなのよ」


 もしかして……。

 常時魔法力を高めるということは……。


「魔法力上昇の対価としてMPを常時消費し続けるということですか?」

「そうなの。【魔道】スキルは非常にレアで使える部類のスキルだけど殆どの持ち主は幼くして亡くなってるの」


 MP不足により寿命を削られるそうだ。

 ベランさんが必死に稼ぎ、マナゲインを飲ませ続けていることでどうにか生きながらえてる。

 冒険者を止め収入が途絶え薬を買えなくなった時点でヴァリスの命も尽きる。

 ベランさんも若くはないしヴァリスの命の灯が尽きるのは時間の問題かもしれない。

 それを聞いたモニカが怒りで手を震わせる。

 

「医者なんだろ? なんとかならないのかよ!」

「私は神官よ」

「そんなことはどうでもいい。なんとかしろ!」

「対処法が無くは無いけど……」

「どうすればいいんだ?」

「MPが減らないようにレアスキルの『MP回復』スキルを取るか『MP回復』指輪を手に入れることね。どちらもけわしい道よ」


 ベッドから動けないヴァリスが戦闘に参加して『MP回復』スキルを手に入れるのは不可能に近いことだろう。

 『MP回復』指輪を手に入れるのも不可能では無いがかなりの強運が必要。

 どちらも間違いなく非常に厳しい。

 どちらかが手に入るまでヴァリスが生きている保証はどこにもなかった。

 

 *

 

 俺たちは絶望感を胸にクローブへ戻る。

 みんなを集めて報告と相談をする。


「娘の命はやはり長くないのですね」


 病気の原因を聞いたベランさんの目から大粒の涙が流れる。

 ふとアレンさんを見るとニコニコしてる。

 なんという空気の読めない不謹慎なオヤジだ!

 ちょっとでも優秀と見直した俺がバカだった。

 俺はムカつきのあまりアレンさんの胸倉を掴む!


「あんたって人は……」

「ほれ」


 アレンさんは指輪を外して俺に渡す。


「これが欲しかったんだろ?」

「これは?」

「MP回復指輪だよ。親父の形見だけど僕が持っていても意味がないからベランさんにあげるよ」


 それを聞いたベランさんは号泣する。


「こんな貴重な指輪をいいのですか?」

「指輪も必要とされる人に使われた方が幸せだよね」


 なに、このイケメンオヤジ。

 かっこ良すぎる。


「ありがとうございます。すぐに早馬車を手配してヴァリスに届けてきます!」


 それに反対するものがいた。

 モニカだった。


「勝手に帰るなよ。明日のレベル上げはどうする? お前の役目はダンジョンの案内なんだろ?」


 なにその空気読めない考えは。

 ヴァリスの命よりもレベル上げの方が大事なのか?

 職務放棄を指摘されて、ベランさんは泣きそうだ。


「いや、でも、急いで娘に指輪を渡さないと……」

「つべこべ言うな! 急ぎなんだろ? 馬車なんて使わずに私が連れて行ってやる!」

「え? いいのですか? ありがとうございます!」

「全速力で飛ぶから振り落とされないようにしっかりつかまっておけよ!」


 モニカはものすごい音を立ててクレソンへと、とんぼ返りをした。


 *


 そして寝室。

 ここのところあまり寝れていなかったので、睡魔が襲ってきて今にもダウンしそうだ。

 朝と同じくメイミーと一緒にベッドで横になっている。

 メイミーは俺の腕を枕代わりにしながら悲しそうな顔で俺を見つめる。


「ごしゅじんさま。病気を治すつもりが全く役に立てなくてごめんなさい」

「なに謝ってるんだよ。メイミーが言い出してくれたお陰で一人の女の子の命が助かったんだぞ」


 それにメイミーが絶対に効くと確信の持てる全回復と状態回復をしたので原因がわかったんだ。

 メイミーはもっと自信を持った方がいい。

 俺がわしゃわしゃと乱暴に頭をなでるとメイミーが恥ずかしそうに笑った。

 とっても気持ちのいい笑顔。

 この笑顔が俺にとっての最大の報酬だ。

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