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後の英雄、ドラゴンをぶっ倒す!

 ドラゴンて意外と鈍感なのかな?

 俺がよじ登っても全く気付く素振そぶりがない。

 巨大なドラゴンにしたら人間なんて背中にダニがくっついたぐらいにしか感じないのかもしれない。

 ラネットさんの説得が俺のところまで聞こえる。


「待て! お前と戦う気はない。子どもを探しているんだろう? 私も協力をしたい」


 剣を収めたラネットさんが気を引いていてくれたお陰だろう。

 言葉が通じないはずなのにラネットさんの言葉に耳を傾けたドラゴンは大人しくなった。

 もし俺が背中を登っていることがバレたら振り落とそうと暴れられただろう。

 今頃はお屋敷の辺りまで振り飛ばされてぶっ倒れていたかもしれない。

 二分ほど背中を登り続けどうにか首にたどり着いた。

 どのぐらいの高さまで登ったのかな?


 うひょ!


 下を見るとあまりの高さに手がプルプルと震える。

 家がサイコロぐらいのサイズに見えるしラネットさんなんてゴマ粒サイズだ。

 こんなとこから落ちたら間違いなく跡形も残さずに弾けて死ぬだろうな。

 股間がキュンと涼しくなる。


 このドラゴン、ラネットさんが必死に話し掛けているうちは攻撃を仕掛けてこない。

 まるで話を聞いているかのよう。

 まさか言葉が通じてたりする?

 そんなわけはないか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 やるべきことをやらないと。

 俺は渾身の力で雷迅棍をドラゴンの首に押し付ける!


「くらえ!」


『バチバチバチ!』


 弾ける電撃!

 電撃が放たれると白目をむくドラゴン。

 ドラゴンの身体から力が抜ける。

 効果は抜群だ。

 ドラゴンは気絶し、町の家の半分を巻き込みぶっ倒れた。


 *


 ぶっ倒れたドラゴン。

 俺は下敷きになりそうになったがラネットさんに助けてもらった。

 互いを称えあう俺たち。


「ふー、何とかやったな」

「よくこんなものを倒せたね」


 多分、俺の幸運度《LUK》のパラメータが効いたせいだろう。

 魔道具の攻撃がクリティカル攻撃となり、本来驚かせる程度の効果がドラゴンを気絶させたんだと思う。


「ラーゼルさんとなら、なんでも倒せる気がする」


 さすがにそれは買いかぶり過ぎ。

 さてとドラゴンにとどめをささないとな。

 ドラゴンは気絶しているだけでまだ息がある。

 意識を取り戻す前に首を切り落とさねば。

 ラネットさんが剣を突き立てるが、硬いうろこに弾かれて傷一つつかない。


「こりゃ剣じゃ無理みたいだな」

「斬り落とすなら聖剣ぐらいは必要かもしれないですね」

「電撃が効いたぐらいだから魔法ならいけるかもしれない」


 幸いなことに俺たちには魔法使いのモニカがいる。

 魔法を使っているところを見たことが無いので実力は未知数だが、あの帽子の魔道具を持っているところを見るからにそれなりの実力を持っているはずだ。


「モニカの魔法で倒せるか試してみる」

「その作戦でいきましょう」


 俺は屋敷に戻る。

 戻ろうとしたんだが……。


『グギギギーーーツ!』


 ヤバい!

 雄叫びだ!

 いつの間にかドラゴンの意識が戻っていた。

 しかも、至近距離からの雄叫び!

 俺たちはドラゴンの咆哮に弾き飛ばされた。


 *


 どのぐらいたったんだろうか?

 ぼんやりとだが意識が戻った。

 気を失っていた時間は1分?

 10秒?

 わからない。

 日が大きく傾いていないのでそれほど長い時間は経っていないのは間違いない。

 意識が戻っただけで状況は最悪だ。

 雄叫びはただの声なのに巨大な棍棒でぶん殴られたぐらいの衝撃が襲ってきた。

 家の壁に叩きつけられて身動きが取れねぇ。

 おまけに痛い!

 苦しい!

 胸の骨にヒビが入っているみたいだ。

 ついでに言うと手も足も折れている。

 全身ボロボロでどこが痛いのかわからない。

 至近距離からのドラゴンの雄叫び一発で完全に形勢逆転してしまった。

 痛みで再び意識が飛ぶ前にポーションを飲まねば。

 アイテムボックスに入っていたハイパーポーションを動かぬ手で取り出す。

 目の前に落とし、口で瓶のふたを開けようとした。

 だが、その時!

 ドラゴンが爪先でポーションを蹴り飛ばす!

 そして野太い声で怒鳴った。


『ヨクモ騙シテクレタナ!』


 あれ?

 喋れたの?

 ドラゴンは野太い声を発した。

 しかも人間の言葉だ。

 喋れたんだ、こいつ。


『我ノコトヲ愚竜ト罵ッタアノ小娘ハ、子ドモヲ探スノヲ協力シテクレルト言ッタノニ!』


 ラネットさんが蹴られたのって愚竜と罵られたのが原因だったのか?

 ドラゴンなんて知性のかけらもないトカゲの大きなものと思っていたら、意外と知性のある相手だった。

 もしかして俺が魔道具を使わなければうまく話がまとまっていたのかもしれない。

 余計なことをしてしまった……。

 俺はドラゴンを説得すべく弁解を始める。

 始めようと思ったんだが……声が出ねぇ!

 声を出そうとする胸に激痛が!

 きっと肺に折れた骨が突き刺さっている。

 さらに最悪なことに、ドラゴンは俺を始末しようとしていた。


『英雄トノ契約ヲ守リ、町ノ住人ニ手出シヲシナイデイタラ調子ニ乗リオッテ! 我ガ子ニ手ヲ出シタノダ。契約ハ破棄ダ!』


 英雄との契約?

 いったいなんなんだ?

 ドラゴンは怒りを晴らすべく俺を丸飲みするために大口を開けた。

 それはとんでもなく大きな口だ。

 口の中には人の頭よりずっと大きな歯がいくつも見える。

 あれで噛み砕かれるのか……。

 あんなので噛まれたら間違いなく死ぬ!

 レベル上限が上がり、ラネットさんとメイミーという素晴らしいお嫁さんをもらい、今までどん底だった運がやっと上向きになってきたというのに……。

 ここで俺の人生が終わりなんて悔し過ぎる。

 嫌だ!

 死にたくねぇ!


 そんな俺の心の叫びもドラゴンは通じず。

 俺を食らうべく襲ってきた!

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