後の英雄、必死に逃げる
襲ってきたケーブフライは100匹ぐらい。
ケーブフライの放った毒液が大雨のように降り注ぐ。
しかもただの毒液じゃなく物を溶かす溶解液でもあるようだ。
ステータスがレベル40相当といえど、毒耐性の指輪を持ってない俺がこれだけの数の敵に毒をかけまくられたらヤバいんじゃないのか?
すさまじい羽音を上げて俺たちの後を追ってくるケーブフライ。
「なんか怖いです! 音がすごいです。ブンブンいって耳が痛いです」
「振り向くな! 足元をしっかり見て走り続けるんだ!」
真上を飛んでるんじゃないので毒液の雨が直接俺たちに降り注いではこないのは不幸中の幸い。
でも道を間違えて袋小路に追い込まれてでもしたら追い詰められて大変なことになる。
俺は慎重かつ最短距離で一階への階段へと向かう。
階段が見えた!
ここまで来れたら一安心だ。
基本的にダンジョンの敵は階層を超えては追ってこない。
多分テリトリーみたいなものがあるんだろう。
ホッと胸をなでおろした。
「ここまでくればもう登ってこない。大丈夫だ」
「でも追ってきていますよ?」
「えっ?」
甘かった。
怒り狂ったケーブフライたちにはテリトリーなんてものは見えてない。
俺たちを追いかけ階段を追ってくる。
息を切らせながら階段を登っていると、見知った顔に出会った。
ルナータ。
俺が昔パーティーを組んで指導をしたことのある魔法使い。
俺の指導で彼女は魔法使いとして開花した。
今は俺を追い抜きギルドでも有数の炎の魔法使いである。
赤髪のつんつん系女で、レベルの低い俺をずっと見下している。
「なによ、このトレインは! あんたがやったの?」
「すまない、釣りをミスった」
ルナータは俺たちと一緒に逃げながら、いつものように俺を蔑んだ目で見る。
「また、雑な仕事して!」
「すまん」
「こんなことだからいつまで経っても初心者って言われるのよ!」
「すまない」
「こんな階段に逃げ込んで来て他の冒険者を巻き込んだらどうするのよ!」
「もうしわけない」
「釣りにミスったなら誰も来ないダンジョンの隅で野垂れ死になさいよ!」
「…………」
トレインなんて忌み嫌われる行為は初心者が引き起こすものって相場が決まっている。
10年以上冒険者をしてきた俺が起こしていいわけがない。
完全に俺が悪いのだ。
罵られても反論なんて出来るわけもない。
そんな初心者でもない冒険者が起こしたトレインに巻き込まれたら文句言いたくなるのもわかる。
謝るしか出来ねぇ。
逃げながら出口までネチネチと説教が続くんだろうなと思ったら、階段を登りきったところでルナータは杖を掲げた。
「二人とも伏せなさい!」
ルナータの杖に魔力が集中。
赤い光が凝縮する。
「フレアブレス!」
どごーん!と地鳴りのような音をあげて目の前、いやケーブフライが真っ赤に染まる。
ケーブフライたちは燃え上がり、次々に地上へと落ちた。
ケーブフライの大半が死に、俺とメイミーは残りを倒す。
倒したのは27匹。
先に倒した5匹と合わせて依頼を達成できた。
敵を全滅できたのにルナータはガックリと肩を落としていた。
「あーあ、これから最下層まで潜って仲間を探さないといけないのにあんたのせいで無駄なMPを使っちゃったじゃないの。どうしてくれるのよ!」
呪いの言葉をつぶやくルナータだったけど、俺のことをバカにする割に面倒見がよかったりする。
きっとダメな奴でも見捨てられないんだろう。
俺も見捨てられずに助けてくれた。
根は結構いい奴だったりする。
「ごめんなさい」
俺に代わり平謝りするメイミー。
「私が釣りを失敗したんです。ラーゼルさんを責めないでください」
「そうだったの?」
そこまで言って何かに気が付いたルナータ。
表情が怒りで満たされていたものから驚きと喜びが混じったものとなった。
「ってあんたメイミーじゃない。サビアになったって聞いてたのに何でここに?」
「ラーゼルさんに買われたんです」
「ラーゼルに買われたの? 酷いことされてない?」
「すごく優しいし、私をサビアから解放してくれました」
「ふーん、サビアを解放するなんて思ったよりもまともね」
「今回もラーゼルさんは何も悪くありません。釣りを失敗した私を守ってくれてたんです」
「あんた、いいとこあるじゃないの」
ラネットさんも可愛がっていたし、もしかしてメイミーって意外と有名人なの?
愛されキャラっていうんだろうか?
みんなに可愛がられてるっぽい。
そんなメイミーをサビアから解放したからなのか、ルナータの俺を見る目が変わった。
ほんの少しだけな。
俺は詫びをすることにした。
「これで足りるかわからないけど……」
俺はアイテムバッグからマナエーテルを取り出す。
バルトさんとダンジョンの宝箱開けをしていた時に手に入れたものだ。
在庫はかなりの本数がある。
たぶん30本ぐらい。
これを使えば凹んだMPを回復できるはずだ。
「マナエーテルじゃないの?」
「これじゃ足りないか?」
俺は更に5本ほどだす。
「こんな高価なもの1本で十分すぎるわ!」
これ高価な薬品だったのか。
売れば宿代のつけを全部払えるぐらいにはなるかな?
いやいやいや。
バルトさんは売るなと言ってたから売るのはやめよう。
でも、あげるんなら売るんじゃないからいいよね?
「じゃあ、1本だけもらっておくわ。私は急ぎだから先に進むけど、あんたたちは気をつけて出口に向かうのよ」
ルナータはそういうと足早にダンジョンの奥へと消えていった。




