後の英雄、元サビアと初依頼をする
かなりの混乱はあったが、予定通りメイミーを冒険者として再登録することが済んだ。
メイミーの冒険者登録が終わるとラネットさんは実家へと帰省する。
バルトさんとアリエスさんは新婚旅行代わりに二人で高難易度の依頼を受けたようだ。
「クーちゃんの雄姿を見たいわ」
「お任せください。アリエスさんに守ってもらえるので全力を出しますよ」
人目もはばからず抱き合う二人。
甘い言葉を投げかけあって、こっちが恥ずかしくなって見てられない。
歳は離れているけど結構似合いの夫婦って感じでものすごく仲がいいね。
受けた依頼はSランク依頼の『ゴルテックス・ボア』討伐。
山より巨大な災厄級の魔獣大イノシシ。
Aランク24人で討伐する敵らしい。
かなり無茶と思いきやバルトさんはSランクで強いし、アリエスさんはリング付けまくりだしサポートとしてレア装備で身をつつんだメイド軍団もお供についているから二人だけでも問題はないだろう。
「さ、俺たちも依頼を受けないとな」
メイミーはレベルの上限を30まで上げただけでレベル自体は13のままだ。
今のままではかなり弱いので事故に巻き込まれる可能性がある。
ゴブリンや野盗に絡まれたぐらいなら余裕で返り討ちできるレベルまで急いで上げておきたいものだ。
逆に俺はというと、低レベルで有名だったので急いでレベルを上げるつもりはない。
急にレベルが上がって強くなったら余計な勘繰りをされてしまうからな。
わざざわ自分から危険な火の海に飛び込むような真似はしたくない。
悪目立ちしないようにレベルは徐々に上げていく予定だ。
レベル13のメイミーでも怪我をしないような簡単な依頼を選んだ。
『ケーブフライ討伐』
ケーブフライとはダンジョンに住むハエのモンスター。
あまり報酬は高くないが、攻撃力は低くまれに吐く毒にだけ気をつければ安心して狩れる雑魚。
ローライズのダンジョンの鉱石採掘エリアに発生した群れを駆除する討伐依頼だ。
俺も冒険者を始めた頃になんども世話になったことのある討伐で難易度については簡単だと多くの冒険者からお墨付き。
依頼を受けると武器屋に向かう。
「すぐにレベルアップしてまた買いなおすことになるだろうから、最低限の装備を買ってきて」
「はい!」
メイミーが買ってきたのは布の軽防具『リネンジャケット』一式と『ショートボウ』と矢を150本。
合計5万ゴルダ。
扱いやすい初心者向けセット一式で悪くない選択だ。
「狩人だったのか」
「ラビータ族は殆どの者が狩人を生業としてるのです」
彼女によるとラビータ族は目と耳がいいので狩人としてはかなり優秀らしい。
ただし魔法は使えず腕力も劣るので近接戦闘はからっきしダメとのことだ。
主に遠距離攻撃要員とのこと。
*
ローライズのダンジョンはバニラのダンジョンに次いで初期に出来た5ダンジョン五素洞のうちの一つ。
ローライズ・マギーにより発見された深度25層のダンジョンだ。
ボス部屋では属性系の金属杖がドロップするので魔法使いたちに人気のダンジョンだが、表層部は人気の高さゆえに敵が狩りつくされて強敵はおらずほぼ鉱山と化している。
照明完備でランタンも必要ないほどだ。
捕食者となる強敵がいないので、今回のケーブフライのように時々弱い敵の大量発生が起こるのだ。
依頼書によると2層の銅鉱床周辺にケーブフライが50匹の群れを成しているとのことだ。
「きもっ!」
「気持ち悪いです」
天井を覆いつくすハエの大群。
黒いものが頭上のかなり高い部分でウネウネと蠢いている。
これは50匹どころか3~400匹は居そうだ。
気持ち悪くてあんまり見ていたくない。
「さあ、はじめるか」
「気持ち悪いから、早く倒して帰りましょう」
作戦は簡単だ。
地上近くにいるケーブフライを釣り役のメイミーが狙撃。
怒って襲ってきた敵を俺が切り捨てる。
これの繰り返しだ。
討伐依頼は30匹以上で依頼達成なので40匹も倒しておけばいいだろう。
レベル15の敵だから倒すのは余裕だ。
天井のウネウネした大集団に手を出さなければ余裕で依頼達成できる。
「よし、いってこい!」
「はーい!」
メイミーは鉱山の足場になっているケーブフライを狙撃する。
最初の5匹ぐらいはいい感じで作戦通り進んだんだけど……。
「うわーん! 助けてー!」
「どうした?」
「頭上の足場にいたケーブフライを狙ったら、板が朽ちていたのか天井まで突き抜けちゃいました」
「ということは?」
「天井のウネウネが襲ってきました!」
とぐろを巻いて襲ってくる黒い大集団。
まるで竜巻!
まるで一つの生き物!
きもい!
きもいよ!
きもすぎる!
しかも毒液を吐きまくって……。
「板とけてます! 変な煙出てます! 毒が豪雨みたいに降ってきてます!」
ぶしゅぶしゅと音を立てて毒液で板が溶けている。
ただの毒液じゃなく溶解液でもあるようだ。
俺はともかく、メイミーがあの群れに巻き込まれたら命はない!
「にげろー!」
俺たちは一目散で出口へと逃げた。




