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その後のギル達

 ギルはラーゼルが抜けたので代わりとなる回復役を向かい入れた。

 冒険者歴がギルよりも1年長い女の子二人組みだ。

 僧侶のラズベリーは回復役で、パイは荷物の運び屋だ。

 僧侶のパーティー募集は滅多にないことだけど、運よく2人1セットでパーティー探しているのを見つけたので運び屋も含めて雇うことにした。

 欲しかったのは回復役の僧侶だけだけど、運び屋がいても戦利品の運搬が楽になるので問題ないだろう。

 荷物持ちにもなれなかったラーゼルよりはきっと役に立つはずだ。


 新メンバーを迎え入れて狩りは順調と思いきやリンシャのMPが枯渇して狩りが途切れまくった。

 リンシャが額に筋を浮かべて運び屋のパイを睨みつける。


「座ってるだけじゃMPの回復がいつまで経っても終わらないから、MP回復薬のマナゲインを出しなさいよ」

「運び屋がそんなもの持っているわけがないでしょ! マナゲインなんて高い薬を金策パーティーで配ってたら破産するわ!」


 パイは支給をされてない薬品を要求されムッとしている。

 パイに続いてラズベリーにも非難される。


「あなたの魔法の使い方が荒過ぎなのよ!」


 それは散々ラーゼルから聞かされていた説教の言葉そのままだった。

 ギルはリンシャに助け舟を出す。


「でも、前に居た補助役メンバーはマナゲインを配ってくれてたぞ」

「マナゲインを配るって……そんなお人よしの補助役がいるはずないでしょ?」

「材料費は出してやるから調薬してこいつに配ってくれよ」

「材料費を出されても、運び屋に調薬なんて出来るわけが無いわ。マナゲインの調薬が出来る冒険者なんて聞いたことが無い」


 そうなの?

 ラーゼルは当たり前のように調薬してくれたんだけどね。

 僧侶のラズベリーもパイに続く。

 

「そうよ、マナゲインはお店で買って支給しなさいよ」

「補助役が調薬せずに、店でマナゲインなんて買ってたらそれこそ破産するわよ」

「そもそも調薬が出来るなら、冒険者なんてしていないわよ」


 調薬が出来るなら冒険者はしない。

 調薬が出来るのにわざわざ冒険者の真似事までして危険を冒す薬師がいるわけがなくて、そういわれるとそうかもしれない。

 補助役が調薬をして回復役代わりをするのは当たり前と思っていたけど、ラーゼルが特別だっただけなのね。

 この運び屋、補助薬なのに荷物運び以外全くできない役立たずみたいわね。

 どうりで、人気の僧侶と運び屋がセットでパーティーを募集していたわけね。

 役立たずと思っていたラーゼルの方がずっとマシだったのかもしれない。


 *


 ギルはMPが尽きて座りがちな私に説教をする。


「リンシャ、魔法の無駄撃ちを止めて、MPの節約をしろ」

「嫌よ。魔法の連射が出来ない狩りなんて楽しくないじゃない」


 それを先輩冒険者のラズベリーがたしなめる。


「なにが楽しいよ? 冒険者は遊びじゃないのよ。命と報酬を天秤に掛けた危険な仕事。お遊び気分なら冒険者を辞めた方がいいわ」


 ラーゼルならMPを使い過ぎることを怒ることはあっても、冒険者を辞めろなんて言わなかったのに。

 リンシャはあからさまな敵意を向けてくるラズベリーにムッとする。

 ラズベリーの敵意が向かったのはリンシャだけではなかった。

 リーダーのギルへも向かう。


「なんですべての攻撃を食らってるのよ? 少しは避けようと努力しなさい。回復が追いつかないわ!」

「え? 俺の回復が追いつかない時は、補助役のパイがサブ盾になって敵のヘイトを受けてターゲットをそらすんだろ?」

「バッカじゃない? 前衛と一緒に前線に出て戦う補助役なんて聞いたことが無いわ。もう一人前衛がいるんだからサブ盾は戦士のスピンにやらせなさいよ」


 いきなりサブ盾をやれと言われたスピンが目を白黒させる。


「俺は速度重視で攻撃全振りだから紙装甲でサブ盾なんて出来るわけが無いし」

「盾が出来ない戦士なんて聞いたことが無いわ!」

「よくこんな状態で今まで冒険者をやって来れたわね」

「私たち、こんな初心者以下の集まりのパーティーは抜けるわ」

「初心者以下じゃないわ。素人未満ね」


 狩場で先輩冒険者に三下り半を突きつけられたギル達であった。

 二人はダンジョンの中にギル達を置いて、街へと帰って行ってしまった。


 *


 スピンは俺に詰め寄ってきた。


「回復役がいなくなったんだけど、狩りはどうするんだよ?」

「どうするもなにも、僧侶を募集するしかないだろ」

「僧侶なんて簡単に見つからないだろ。やっと見つけたのがあいつらなんだし」

「ラーゼルって意外と優秀で使えたのね」


 リンシャのラーゼルを評価する言葉を聞いたギルは素直に受け入れられなかった。

 ラーゼルが使えただと?

 そんなわけは無い!

 あいつはレベル15で俺たちよりも弱い上に役立たずだ。

 そんな奴が俺たちよりも優秀な訳が無い。

 でも、敵のうろつくダンジョンの中で言い争っている場合じゃない。

 今は回復役の僧侶がいないんだ。

 早く安全な場所に移動せねば。


「とにかく、街へ戻るぞ!」


 そう言ったギルであったが……リンシャが何かに気が付いた。


「なにあれ?」


 目を凝らすと光る眼が闇の中でいくつかギラついている。


「おい、ギル、敵に囲まれているぞ!」

「バトルウルフが3匹よ! 一匹でも苦労するのに、僧侶もなしで3匹は無理よ!」

「煙幕は無いのか? 敵に囲まれたときにラーゼルが使ってたやつ!」

「そんな物、私が持ってるわけないでしょ!」

「こうなったら、やるしかねぇ! 死ぬ気で戦えば倒せるはずだ! みんな、行くぞ!」


 ギルはバトルウルフの群れに飛び込むが、いつもは横で戦っていたスピンの気配がない。

 後ろを振り向くと、リンシャとスピンの逃げる姿が……。

 俺をおとりにして、逃げやがった!


「て、てめーら! 俺を置いてきぼりにするのか?」

 

 なんて奴等だ!

 俺を生け贄にして逃げやがった!

 仲間じゃねーのかよ!

 こんな時、ラーゼルがいたら……仲間である俺を置き去りになんてすることは無かっただろう。

 いやあいつは仲間じゃねーし、あんな役立たずがいてもどうにもならない……。

 ラーゼルをパーティーから追い出したら、今度は俺が見捨てられる番かよ……。

 俺は見捨てられるほど弱くねーぞ!


「やってやろうじゃねーか! 俺様の実力を見せてやる!」


 ギルは死に物狂いで孤独な戦いを始めた。

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