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後の英雄、超一流冒険者の秘密を知る

 俺がドアを無理やりこじ開け逃げようとするとバルトさんがやってくる。

 そのたくましいお宝を堪能させるために!

 そして冷たい言葉を言い放った。


「ラーゼル君、その扉は私以外が空けることは出来ませんよ」

「俺、マジで男の人とそういう関係を持つのは無理ですから!」

「そういう関係?」

「あのベッドの上で、あんなことや、こんなことや! くはー! 本当に無理だから、許してください!」


 それを聞いたバルトさんは大笑いをする。


「ラーゼル君、勘違いしてますよ」


 バルトさんは一気にシャツを脱ぎ……そして俺は呆気にとられた。


「なんですか? それ?」


 男性のシンボルと思っていたそれは、筒状のホルダーだった。

 ちょうどへその下辺りにベルトで固定した革製の筒状のホルスター。

 小型のアイテムバッグで、どうやら魔力の漏れを防ぐ素材でできているそうだ。

 紛らわしいものをそんなとこに付けとくなよ!

 俺に貞操の危機が迫ったと思ったじゃないか。

 バルトさんはホルスターを取り外すと自慢げに語る。


「これはですね、私の宝です」


 バルトさんは筒の先端のチャックを開けて、中身を取り出した。


「スティック?」


 魔法詠唱に使われる普通の杖と違って、見たこともない淡く光る金属の素材でできた短杖。

 宝石などで装飾まで施されていた。


「これはダンジョンの宝箱から手に入れた魔道具です。そして私の命の次に大切な宝物でもあります」


 それで肌身離さずそんなとこに隠し持っていたのかよ。

 バルトさんは元通り服を着る。

 先ほどのホルスターはズボンの股下、腰近くの太ももに固定されていた。


「それはどんな魔道具なのですか?」

「説明する前に一度使ってみましょう。ダンジョンへ向かいますぞ」


 背広姿のバルトさんが持つのはスティックだけで、どう見てもダンジョンへ向かうような恰好ではない。

 ダンジョン攻略といえば数日掛けるものであり、野営の道具や大量の食糧も必要。

 戦闘用の装備や回復用の薬品、緊急回避用のアイテムも必要だ。

 大抵はアイテムバッグの中に詰め込んで運ぶが、それなりの量が必要なので背負いカバンタイプの大容量のアイテムバックが必須である。

 しっかりと準備を行わないと命に危険が及ぶ。

 だから準備は大切なのだ。

 いくら迅速の攻略者でもダンジョンをなめ過ぎているんじゃないだろうか?


「準備はこの魔道具『トレジャースティック』さえあれば十分なのです。さあこちらへ」


 バルトさんは俺を寄り添うように立たせると、腰を抱きかかえ身体を密着させる。

 そして杖を振った。


「これから見ることは他言無用でお願いします。飛翔ジャンプ!」


 *


 光に包まれた俺たち。

 視界が眩しさに慣れてきた。

 でも様子がおかしい。

 とても厳かな石造りの空間。

 これはどこかで見たことのある部屋だ。


「ここがどこだかお気づきですか?」

「もしかして、ダンジョンのボス前部屋?」

「ええ、そうでございます。この魔道具はダンジョンのボス前部屋に瞬間移動するアイテムなのです」


 バルトさんの二つ名は『迅速の攻略者』。

 普通なら二週間はかかるダンジョンの攻略を一晩で済ませた嘘のような逸話から付けられた二つ名だ。

 もしかして、この魔道具を使ってダンジョンの攻略をしていたのか?

 それならば二週間かけて攻略していたダンジョンを一晩で攻略していたのもわかる。

 これがバルトさんが口外無用と念を押した秘密であったのだ。


「あそこに見えるのがなにかおわかりですか?」


 微笑むバルトさん。

 宝箱だ!

 しかも二つ。

 今までの冒険者人生の中で、ボス前部屋は一度だけ見たことがある。

 まだ俺の無能さが知れ渡る前の頃、有名冒険者パーティーに誘われて低層ダンジョンの攻略に参加したことがある。

 その時にボス前部屋に入った。

 中には宝箱が人数分用意されていて、ボス攻略に失敗して地上に送り返されてもボス前部屋で手に入れたアイテムは入手できる。

 入っているアイテムは素材が殆ど。

 極まれにボスドロップのレアアイテムも手に入れられるという噂だ。


「宝箱です。さっそく開けましょう」


 俺はバルトさんにうながされ宝箱を開ける。

 しかし鍵が掛かっていて空かない。

 当然だ。

 ダンジョンの途中にいる中ボスが持つ鍵が無いと宝箱は開かない。

 でもバルトさんは何かをスティックホルダーから取り出す。

 なにやらうごめいていて形が常に変わっている。

 

「これはマスタースケルトンの骨から作られたどんな鍵も開けられる『リビングキー』です」


 これは噂に聞いたことのある命を持つ鍵だ。

 鍵穴の形状に合わせて変化する鍵で宝箱でも扉でもどんな鍵でも開けられる。

 大賢者ハマヌーンが所持していた神具であり伝説級レジェンダリーのレアアイテムなのだ。

 それをなぜにバルトさんが持っているのだろうか?

 宝箱の鍵穴に差し込むと、ひねりもしないのに『カタリ』と音がして鍵が開いた。


「さあ、記念すべき初めての宝箱ですよ。開けてみてください」


 俺は宝箱の蓋を開く。

 重い蓋を持ち上げ、中に入っていたのは……。


「おお、これは大当たりじゃないですか! リビングキーですよ。記念としてラーゼル君どうぞ」

「いいのですか?」

「これだけのアイテムは市中に流せないですからね」


 バルトさんが言うにはこのリビングキーは5億ゴルダ以上の価値があるレジェンダリー級の激レアアイテム。

 リビングキーのような激レアのアイテムはいくつも売ることが出来ない。

 出回り過ぎるとレア度が下がり価値も下がるのが問題。

 それ以上に長大な日数を掛けて攻略するダンジョンから出土するレアアイテムを大量に売りさばいたら、誰もが不審に思うだろう。

 そして『トレジャースティック』の存在が明るみに出ればバルトさんの超一流冒険者としての地位は危うくなる。

 そのため、レア度の高い魔道具は自分で使う物以外は余程のことが無い限り外には持ち出さないようにしてるとのことだ。

 ちなみにもう片方の宝箱は金貨20枚程度の価値の素材で、後で利益を山分けすることになった。

 バルトさんが杖を振りかざすと元の地下室へ。

 ここまでの所要時間、たったの二分。

 俺たちはダンジョン攻略を一晩どころじゃなく一瞬で済ませた。

 これが勇者バルトさんの隠していた秘密であったのだ。

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