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新たなる辺境伯と工作員

 俺は今、アルティヌス領を混乱におとしめるため、クローブの町に潜入していた。

 今は住人が増えたばかりで俺みたいな余所者よそものじっていてもバレることは無い。

 しかもクレソンからの屋台の店主も交じっていたから誰が余所者かわからない絶好の潜入のチャンスだ。


 俺は屋台の店主になりすまし住民に毒料理を食わせる予定だ。

 毒は海魚から取った致死性の麻痺毒。

 即効性で30分ぐらいで効果が発揮されるので祭りを混乱に陥れるのにはうってつけである。


 住人に死人が出たのを確認したら俺は姿をくらまし、今度は住民になりすまし祭りで中毒死した責任を領主に求め暴動を扇動。

 その混乱のさなか、次期領主であるラーゼルを亡きものにし、アルティヌス家もこの領地から追い出す。

 俺の師匠であるシャドウ様から授かった完璧な計画だ。


 *


 アレンさんの範囲哨戒に敵が現れたということで俺たちは広場に向かう。

 俺の範囲哨戒にも敵を示す赤い点が現れているので敵が現れたのは間違いない。

 広場に着いた俺たちは目を疑った。

 人の背丈を大きく超える大鳥である『コカトリス』が何匹も暴れていた。

 住民の叫びが聞こえる!


「なんで広場にこんな大鳥が?」

「うわ! 足が石化して動けねえ!」

「食われる! 食われる! 俺はエサじゃねえ!」


 俺たちはコカトリスをサクッとやっつける。

 すると現れたのは!


「いやー、すまんすまん」


 グラトニーさんだった。


「祭りなのにこの俺に声を掛けないとは水臭いぞ。慌ててやって来てやったぞ」


 クローブの住民の祭りなんだから、他の街の住人は呼んでないから。

 どこで聞きつけてやって来たんだよ。


「大食家の情報網を舐めるなよ」といって踏ん反り返って笑っていた。


 ところでこのコカトリスたちはグラトニーのおっさんが原因なのか?


「食をめぐる祭りということで、採りたての生きのいいコカトリスの料理をたらふく食わせてやりたくてな。生きが良すぎて逃げられたわい。ガハハハ!」


 反省する気なしのおっさん。

 食材を生きたまま連れてくるなよ。

 アレンさんは範囲哨戒の赤い点が外敵じゃないことを確認しホッと胸を撫でおろす。

 ちなみに怪我人が結構いたけど、メイミーとボダニカルさんが治療済みだ。


「悪人が紛れ込んだんじゃなくて良かったですね」

「ええ、迷惑なおっさんが紛れ込みましたけどね」


 本当に良かった。


 *


 俺は毒入りのカレーを用意した。

 カレーとは異世界からの召喚勇者が持ち込んだ料理だ。

 非常に高価なスパイスをふんだんに使った高級料理である。

 辛さと刺激臭で敬遠する人も多いが、一度食べたら癖になる不思議な料理。

 これをこの町の住人にふるまう予定だ。

 でも、住民たちには非常に評判がよろしくない。

 

「なんだこのキツイ臭いは?」

「食べる前から刺激臭がして屋台に近寄れねえ!」


 この臭いは麻痺毒の臭いだ。

 カレーの臭いで打ち消されると思ったが、逆に相乗効果でとんでもない異臭を放っている。

 これでは作戦の遂行どころか、この臭いで俺が参りそうだ。

 住人たちは明らかに俺の屋台を敬遠している。


「そんな物よりも、高級な鳥の丸焼きを食いに行こうぜ!」

「なんでも普通に食ったら飛び上がるぐらいの値段がするらしいぞ」

「有名なシェフが料理するらしく、すごく美味いらしいぜ!」


 みんなどこぞの料理人が持ち込んだ鳥の丸焼きに興味津々だ。

 こんな料理が出るなんて聞いてねえ。

 早くも作戦は破綻だ。

 

 その時、かわいらしい少女がエッチい格好の姉ちゃんとボーイッシュな少女の二人を連れてやって来た。


「空いてる不味そうな屋台があるぞ」

「ここなら並ばないで食えるっすね。並ぶの面倒だから不味そうだけどここにしようっす」


 かわいい顔をしてるのに「不味い」と連呼するとんでもなく失礼な女の子たちだ。

 まあ、実際俺もこのカレーを食うかと聞かれたら金を貰っても御免だ。

 美味い不味い以前に食ったら死ぬしな。

 こんな幼気いたいけな少女を殺すのは少し酷だと思ったが、師匠から授かった任務のためだ。

 俺は目をつぶって毒入りカレーを提供する。

 少女は毒入りカレーにパクついた。


「うんまい!」

「これ、おいしいんすか?」

「臭いは最低だが、味は最高だぞ!」

「私にも食べさせてくださいっす!」


 お姉ちゃんたちにも毒入りカレーを提供する。

 すまん、姉ちゃんたち。

 君らに罪はないが、ここは師匠の為にも死んでくれ。


「ほほー、これがカレーなんすね。すごいスパイスの刺激っす」

「スパイスのせいで舌がヒリつくというか、喉も胃もキリキリ痺れるんよ」


 それスパイスじゃなく麻痺毒だから……。


「でもこの痺れが癖になるな。おかわり!」

「えっ? おかわりするんですか?」

「客が一人もいなくて空いてるんだから、全部食い尽くしてやるぞ!」


 少女は一瞬で食べてさらにおかわりを要求してきた。


 あれ?

 もしかして、毒が全然効いてない?

 もしや、毒の分量を間違えたのか?

 いや、量は間違えてないはず。

 となると煮込み過ぎて毒が揮発したのか?

 俺は指先でカレーをすくって味見をしてみた。


 うん、辛い、うまい。

 臭いけどなかなかの味だ。

 いや、味を見てるんじゃない。

 毒見だ。

 毒の方は……。


「うげ!」


 毒入りカレーを味見をしてしまった俺。

 息が止まり、心臓も止まり、目の前が一瞬で真っ暗になる。

 軽率な行動をしたことを後悔しつつ俺は即死した。


 *

 

「あれ? 店主のおっさんが寝ちゃったぞ?」

「これは寝たんじゃなく、カレーの辛さで気絶したんすね」

「自分で作ったカレーの辛さで気絶するとは情けない店主なんよ。仕方ないんよね」


 フェリは店主を担ぐ。


「メイミーのとこに連れていって、治療してくるんよ」

「あいつの回復魔法はすごいっすね」

「死にたてほやほやなら生き返らせられる気がするぐらいすごいっす」


 フェリを見送るモニカたち。

 一緒に行かなかったのには理由がある。


「店主が倒れてこの余ったカレーはどうするんす?」

「そりゃー、もったいないから食うしかないだろ」

「そうっすね。食べるしかないっすね。食べ物は大切にしないといけないっす」


 カレーの寸胴鍋にご飯をぶち込む。


「よし! 食うぞ!」

「食うっす!」


 二人はカレー鍋を綺麗に平らげた。

 200人分致死量の毒入りカレーとも知らずに……。


 でも、ドラゴンやヒドラに海魚の毒など効くわけがなかった。

 人間が食べたら即死する猛毒でも、ドラゴンにとってはちょっとしたスパイス程度だ。


 グラトニーのおっさんのコカトリスと、モニカとヒーラの食い意地でクローブの町が救われたことは誰も知らなかった。


 *


 メイミーの回復魔法で命を取り留めた男。

 でも、アレンさんは浮かない顔をしていた。


「この人、範囲哨戒で見ると赤い点のままなんだよね。赤い点てことは攻撃意思のある者、つまり敵だよね?」

「そうなりますね」


 アレンさんに男を任せて、この男が働いていた屋台を調べると猛毒が付着している鍋が見つかった。

 即効性の猛毒で、しかも鍋は食べた後で空だ。


 もしかして、祭りの参加者に配られた後なのか?

 大量の死者……。

 これはマズいことになった。

 俺は全身に寒気がはしったんだが……。


「カレーはもうないぞ」


 腹を膨らませて椅子に踏ん反り返っているモニカとヒーラだった。


「そのカレーを食っちゃったのかよ?」

「全部二人で食ったっす」

「ラーゼルも食いたかったのか?」

「いや、それ、毒入りだったんだけど……」

「毒入り?」

「えっ? 私たち死んじゃうんす?」


 青ざめる二人。

 即効性の毒の効果が全く出てないところをみるに、二人は問題なさそうだ。

 男の元に戻り報告をすると、アレンさんは普段は見せない厳しい顔をしていた。


「この男は毒入りカレーを領民に振舞おうとした。つまり領民を殺そうとしたのだ。これは絶対に許せない!」


 アレンさんの目には領民を守るという決意の炎が灯っている。

 それにしても、なぜにこの小さな町の領民を殺害しようとしたんだ?

 理由がわからない。

 俺たちは事件の真相の究明のため、男の取り調べをすることにした。

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