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新たなる辺境伯の打ち上げ花火

 クローブに戻った俺たち。

 ラネットさんが住民たちを広場に集めて、祭りと花火大会を明日に開催することを伝えていた。

 今まで娯楽らしい娯楽が無かったセージ町とパセリ町の住民たちは大喜びだ。


「祭りをするだと?」

「祭りなんて初めてだな」

「あのケチなゴリオール町長は祭りをする金が有ったら納税しろが口癖だったしな」

「お祭り楽しみね」

「花火って何だろう?」

「夜空に花が咲くらしいぞ」

「空に? 花? いったいどんなものなんだ? 全然想像できないんだけど?」

「ついさっき初めて聞いた俺が知るわけないだろ」

「あはは、そうだよな」


 セージとパセリの元住人たちはみんな初めての祭りで期待に胸を躍らせていた。

 俺たちが戻って来たのに気が付いたラネットさんがかけ寄ってくる。


「ラーゼルさん、花火の用意は出来ましたか?」

「バッチリです。あと屋台の方はすごいですよ。店主まで連れてきました」


 ずらりと並んだ屋台の店主たち。

 その数30名以上。

 かなり壮観だ。


 俺はアイテムボックスから、屋台を取り出す。

 次々に広場に屋台が並べられた。

 ラネットさんだけではなく、住民たちも期待度満点で屋台を見つめてくる。


「本格的な屋台だな」

「これは期待できるぞ」


 住民たちの声を聞くと店主たちは気分を良くした。


「そりゃ、ついさっきまでクレソンで営業してきた屋台をそのまま持ってきたんだからね。本格的どころじゃなく本物よ!」

「大食い女王おすすめのクレソン名物の美味い物を食わせてやるぞ!」


 早速営業開始する店主たち。

 店主たちは大張り切りだ。

 ラネットさんがざわつく住民たちに声を掛ける。


「さあ、並んで並んで! 代金はアルティヌス家が持つからどれを食べても無料ですよ! 存分に祭りを楽しんでください!」

「無料だと! なんと太っ腹な領主なんだ!」

「無料なんてセージの町じゃ絶対にあり得ない!」


 店主たちも声を掛ける。


「さあ、並んだ! ちゃんと並ばない奴には食わせないからな!」


 それを聞いた住民たちは、食いっぱぐれまいと我先にと屋台の前に並んだ。

 それに負けじとクローブとセージの料理屋の店主も声をあげる。


「クローブ名物のウサギの串焼きもおいしいよ!」

「セージ名物のハーブ串焼きも負けないくらいうまいぞ! さあ、並んだ並んだ! 肉には限りがあるから本数限定だ!」


 屋台の名物を頬張る住民たち。


「クレソンの名物は美味いな」

「セージの串焼きもなかなかだぞ」

「クローブの串焼きはジューシーで絶品だ!」


 クローブに元からいた住民も新たにやって来た住民もみんな楽しそうに祭りを楽しんでいた。

 屋台は大成功のようだ。

 これでアレンさんの思惑通り、セージからの住民たちもクローブになじめることだろう。


「さてと、屋台は店主たちに任せて、僕らは花火の準備を始めよう」


 アレンさんに連れられてやって来た町はずれの川沿い。


「打ち上げ花火筒の設置はこの辺りでいいかな?」


 打ち上げ花火筒を設置したんだけど、肝心の花火の玉はどうするんだろう?

 さすがに花火玉がなければ花火を打ち上げられないことぐらい俺でも知っている。

 用意し忘れたのか、持ってきた物の中に花火玉なんてなかったな。

 急いでクレソンに取りに戻らないと。

 モニカにクレソン行きを頼もうとしたんだけど……。


「花火玉は必要ないんだ」


 アレンさんは俺たちに説明を始める。


「実はこれ、花火の打ち上げ筒じゃなくて魔力砲っていう魔力を溜めて撃ち出す兵器を改造したものなんだよ」


 説明するよりも実際に見た方が早いということでアレンさんが実演する。

 アレンさんは魔力砲に魔力を込めた。


「どりゃー!」


 すると『ぷすん』とかわいらしい音と共に小指の先ぐらいの慎ましい花火が30センタメトルぐらい上がった。


「しょぼ!」


 みんなの声がハモった。


「これは花火じゃないだろ」

「どう見ても火花っす」

「火花にもなってないんよ」


 人外3人組に遠慮のない感想を言われて涙目になるアレンさん。


「し、仕方ないじゃないか。僕には魔力なんて無いんだから」


 いい歳した男が涙目になっている。


「僕の魔力だとこんなものだけど、とんでもない魔力を持っている君らなら大きな花火を打ち上げられると思うんだ」


 試しに俺が魔力を込めてみる。


『どっかーん!』


 景気のいい音と共に花火が打ち上げられた。

 まだ日が落ちてないのに、はっきりと見えるぐらいの明るい七色の大輪の花が空一面に広がった。

 昼間でも見える花火を打ち上げられるなんて、さすが俺だな。

 メイミーが大喜びだった。


「ごしゅじんさま、すごいです! さすがです! きれいです!」

「次はメイミーがやってみるか?」

「はい!」


 メイミーが魔力を込めると、空に金色の花火が打ちあがった。

 俺の花火とは違って、小さな花火が無数に空を覆いつくす。

 まるで花畑。

 夜空の星のように瞬いてとても綺麗だ。


「魔力砲は使用者の魔力の質と強さによって色々と違う姿の花火を見せるんだ」


 それを聞いたモニカはアレンさんをおちょくる。


「じゃあ、おっさんの魔力は相当しょぼいんだな」

「火打ち石以下っす」

「ううう」


 アレンさんは今にも泣きそうなぐらい目に涙を溜めていた。


 魔力を含めた能力の総量ってものは基本的にみんな同じだ。

 剣技に秀でれば魔力は乏しくなるし、逆に魔力に秀でれば剣技が乏しくなる。

 違いは能力の割り振りの方向性だけだ。


 でも、アレンさんは剣が使えないのに魔法も使えない完全なへっぽこである。

 たまにスキルの総量がずば抜けて大きな勇者がいるが、アレンさんは勇者と反対方向に振れちゃった稀に見るポンコツなんだろうか?

 俺はアレンさんを鑑定してみることにした。

 すると……。

 

 アレン

 レベル3/30

 

 スキル

 範囲哨戒【超:潜在】

 鑑定【超:潜在】


 潜在?

 潜在経験値ならよくお世話になっているけど、スキルにも潜在なんてものがあったんだな。

 スキルで潜在とか初めて見たよ。

 スキルレベルが【超】のスキルとはなかなかのものだ。


 それは置いといて……。

 この歳でレベル3て凄すぎない?

 どうやればここまで経験値を稼がずに生きて来られたのか謎だ。

 このレベルの低さがアレンさんの魔力の無さの原因だろう。

 なぜにそこまでレベルが低いのか聞いてみた。


「アレンさんを鑑定してステータスを見せて貰ったんですが、なんでレベルがそんなに低いんです?」

「敵に殴られてたら痛いじゃすまないよね? だから戦ったことがないんだ」


 なんという情けない理由。

 武闘派だったおじいさんの血を引いた娘のラネットさんとは違い過ぎる。

 もしかしたら【潜在】が付いているスキルはレベルが上がると解放されるのかもな。

 アレンさんのレベルをあげたら【潜在】付のスキルがどうなるか少し興味がある。

 

「経験値を流し込んでアレンさんのレベルをちょっと上げてみていいですか?」

「レベルを上げてくれるのかい? 敵と戦わずに痛い思いをせずにレベルを上げられるのなら大歓迎さ」


 レベルを30まで上げてみた。

 ついでにレベル上限を40まで上げる。


「ぐぎゃ! いたい! いたい! 死ぬー!」


 あっ!

 やべ!

 レベル上限上げって痛いのを忘れてた。

 

「ごしゅじんさま! アレンさんが白目を剥いて気絶しちゃいましたよ」


 足元の地面でアレンさんがピクピクと痙攣している。

 ついでなんで、経験値も流し込んでおいたのでLV40にレベルアップだ。

 慌ててメイミーが回復するとすぐに飛び起きて復活した。


「痛いじゃないか! 話が違うよ!」

「すいません、身体の方に痛みが残ってますか?」

「そこら中、痛く……ないな。あれ?」


 メイミーが回復したからね。

 もう痛みは残ってないはずだ。


「全然痛くないよ。むしろ生まれ変わった気分で、頭が冴えてとても心地いいね」


 アレンさんは目を瞬く。


「あれ? なんか変なものが視界に見えるんだけど?」


 それって……範囲哨戒なんじゃないかな?

 アレンさんを鑑定してみるとステータスから【潜在】の文字が消えていた。

 なるほど。

 レベルが足りずに取得出来ないスキルが【潜在】なのか。


「たぶん、今まで隠れ持っていたスキルがレベルアップで解放されたのが原因みたいです」

「そうなんだ。この赤い点はなんだろう? 屋台のある広場に結構な数が見えるね」


 赤い点。

 それは敵を示すものだ。

 それはつまり……『屋台のある広場に敵が現れた』、そういうことだ!

 俺たちが広場を離れている間にまずい事になってしまった。

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