新たなる辺境伯を怨む者
王都、エーミール伯爵邸。
部屋の陰から黒ずくめの男が現れる。
諜報活動や工作活動をする影執事のシャドウだった。
「エーミール様」
「なんだ?」
「ラーゼルのことですが……」
「申せ」
「今度はセージの住民の移住を祝い祭りをするそうです」
「祭りだと! 平民出の田舎領主が調子に乗りやがって!」
エーミールは拳を握りしめ、悔しさを滲みださせる。
本来であれば後継者のいないアルティヌス家はあと3年ほどで取り潰されるはずであった。
そう、エーミールが仕向けていたのだ。
一人娘をエーミールの妻とする条件でアルティヌス家を併合、そして領地も自分の物となる筈だった。
その手筈も着々と進行していた。
それなのに……。
突如現れたラーゼルという平民出の男に全てを掻っ攫われた。
本来はエーミールが手に入れるはずだった領地も娘もすべて奴の手の中だ。
辺境伯という名誉を手に入れるために、どれほどの金をつぎ込んだと思っているんだ。
エーミールは歯ぎしりをする。
許せぬ!
許すまじ!
この前の罠を掻い潜ったと思ったら、今度は祭りだと?
この私をおちょくっているんだろうか?
生かしておけぬ!
エーミールが怒りで我を失いそうになると、シャドウからなだめる声が掛けられた。
「エーミール様、ここはお怒りになっている暇はございません。これは千載一遇のチャンスですよ」
「どういうことだ?」
「祭りの中に我らの手の者を潜り込ませ祭りをめちゃめちゃにするというのはいかがでしょうか? 領主としての面目が丸潰れになると思います」
「それでは生ぬるいのではないか?」
「では暴漢を潜り込ませて祭りを混乱させ、その隙にラーゼルを始末いたしましょう」
「それでも生ぬるい! その混乱の最中に祭りの屋台の食材に毒を混ぜて住民を殺害。怒り狂った住民によりアルティヌス家自体を領主の座から追い出すように仕向けろ」
あまりの残虐さに引いてしまうシャドウであった。
「さすがエーミール様、一片の慈悲を見せない残虐さです」
「それを実行するシャドウもなかなかの残虐さだぞ」
「エーミール様ほどでも」
「フハハハハハ!」
「クククククク!」
不気味な笑いが館の部屋に鳴り響いた。
*
アルティヌス領。
祭りは翌日に開かれることとなった。
早いな、おい。
いくらなんでも祭りをやりたいと言った翌日にするのは急ぎ過ぎなんじゃないか?
祭りと言ったら少なからず準備が必要だろうし。
アレンさんはそんな俺の忠告を耳にしない。
「善は急げ、思った時が吉日というよね」
「でも祭りを失敗しないためにも、準備にもう少し時間を掛けた方がいいと思いますよ?」
「まあ準備に時間を掛けた方がいいのには僕も賛成だ。でも今回は事情があるので早ければ早いほどいい」
歓迎会は早い方がいいんだろうけど、準備不足でグダグダして失敗したら目も当てられない。
「今回の移民はうちの住民よりも人数が多いんだから、早くクローブの住民となじんでもらわないとクローブの住民の方が隅に追いやられてしまうかもしれないからね」
なるほど、そういうことまで考えて祭りを急ごうとしていたのか。
アレンさんは色々と住民のことを考えているみたいだった。
「花火の準備や、祭りの屋台設備と食材なんかはクレソンの領主のピエールさんに融通してもらうことになってるんだ。ラーゼル君は運搬をお願いできないかな?」
「任せてください!」
ということで、俺たちはピエールさんの屋敷を訪れることとなった。




