新たなる辺境伯の移住者たち
「マイオール様、なんでセージの町がここに?」
セージからクローブに移住してきた僕たちを待っていたのは信じられない光景だった。
執事が首を傾げながらある筈のないセージの町並みを見つめる。
「間違えてセージの町に戻って来てしまったんでしょうか?」
メイドも首を傾げていた。
「いや、ここはセージの町ではないですね。丘の上に立つ屋敷なんてセージにありませんでしたから……」
悪戯なんだろうか?
それとも夢?
混乱している僕らをクローブの住人たちは笑顔で迎えてくれた。
「長旅ご苦労様でした」
この町の町長であり領主のアレンさんだ。
「この町並みはいったいどうなってるんでしょうか?」
「ラーゼル君がセージの家を移設したらしいですよ」
そんなことはわかってるんだけど……。
大抵の住人は笑顔で迎えてくれたが、クスクスと笑う子供たちの声も聞こえる。
「おい見ろよ! 移民たちは混乱しまくってるぞ」
「がははは! 思った通りだ」
そりゃ、混乱するよ。
セージから移住してきた筈なのに、移住してきたはずのクローブにセージの町そのままの街並みがあるんだから。
これが現実だとしたら、なんの為に手間暇かけてこんなことをしたのかがわからない。
でもよく見ると細かいところは違うようだ。
この辺りは平地なので、街に高低差が全くない。
セージから遠いはずのパセリ村もすぐ隣に位置しているし、貯水池もなかった。
となると……これは気遣いなのか?
移住してくる僕らが新たな地で辛い思いをしなくて済むように、ラーゼルさんがセージとパセリのを復元してくれたんだろう。
それならここまで手間を掛けた意味がわかる。
セージとパセリの住人たちに僕の考えを話すと、僕の町民が次々に感謝の言葉を口にする。
「ラーゼル様はなんという、いい人なんでしょうか!」
「感謝しても感謝しきれない!」
セージの住民たちを驚かそうとしてクローブの住人たちがやったサプライズ企画というかビックリ企画なのに、めちゃくちゃ感謝されてしまうラーゼルであった。
*
魔道墨出し器の件が一段落済んだ俺はセージの町長であったマイオールの元を訪ねる。
本当は朝一番に会いに行くべきだったが、魔道墨出し器の件でそれどころじゃなかったのだ。
既にアレンさんが挨拶をしているということだったが、遅れてすまない気持ちでいっぱいだ。
マイオールの屋敷を訪れると執事とメイドと共に俺を待っていてくれた。
「いやー、ラーゼルさん。わざわざ来ていただのですね」
「本来はマイオールの到着を待っていなくてはいけなかったんだけど、色々と忙しくてここまで会いに来るのが遅れてすまなかった」
「いえいえいえ。領主であるアルティヌス様とラーゼル様の元にこちらから伺うのが筋なのに、わざわざ来て頂いてすみません」
深く礼をするマイオール。
ここまで頭を下げられるとすごく話しにくいんだけど。
「そんなにかしこまらないでくれ。俺はまだこの領地を正式に継いだわけじゃない」
「とは言っても、ラーゼルさんは辺境伯となり、貴族です。それに英雄にもなったとのお噂も聞いておりますよ」
まあ、英雄になったのは事実なんだけど。
今まで普通に話してた仲なのにここまでかしこまれるとな。
「中身は平民のままなのでそこまでかしこまれると、こっちもやりにくい」
「そうですか」
「今まで通り接してくれ」
「はい」
「ところで、この街の名前はどう呼べばいいんだ? セージと呼んでいいのか?」
「ここはクローブですよね?」
「クローブに併合する形でいいのか?」
「それでお願いします」
「でも、クローブが大きくなり過ぎて町の場所を説明するのが面倒だな。宿屋は元のクローブに一軒ある上に、セージの町にもあるしな」
「それならば、セージ町とパセリ町ということでお願いします」
「お、それいいね。みんなも混乱しないだろうし」
ということで、新しい町の名前はクローブのセージ町とパセリ町に決まった。
「町だけでなく畑もそのままの位置に移しておいたから、今まで通り働けると思う」
「なにからなにまで、すいません」
「そんなにかしこまるな。ここに住むのもそう長い期間じゃない」
「えっ? どういうことですか? 僕らはここからすぐに追い出されるんですか?」
勘違いさせてしまったのかマイオールが青ざめる。
俺は慌てて弁解をした。
「勘違いさせてすまない。いま、別の場所に新しい街を建築しているから完成次第そちらに移り住んでもらうことになる」
「こことは別に街を開拓しているんですか?」
「ああ、大きな街だぞ。サテラに匹敵する、いや超える街になると思う」
「ここが開拓地だと思っていたら、そんな街を作っていたんですね……。凄すぎて理解が追いつきませんよ」
*
マイオールとの面会が終わり、屋敷に戻るとアレンさんが陽気に鼻歌を歌っていた。
「どうしたんです? なにかいいことでもあったんですか?」
「いやー、アルティヌス領も住人が一気に5倍に増えて、これほど嬉しいこともないね」
なんでも、先代が無くなってから住人が減りまくっていたとのこと。
なにもない辺境から仕事を求めて若者たちがサテラや王都に流出してたのが原因だそうだ。
「これは住人増を祝って祭りでもしないとね!」
祭りという言葉を聞きつけてモニカが飛んできた。
「祭りだと! 一度やってみたかったんだ!」
モニカもノリノリ、アレンさんもノリノリだ。
「花火大会を開こう、あと屋台も出したいな」
「食べてもいい、出店してもいい。これは楽しくなるぞ!」
「食べまくるぞー!」
アレンさんとモニカの強い意向でセージとの合併を祝し祭りが開かれることになった。




