新たなる辺境伯の嫁たちの夕食
メイミーと街を散策し日没前に商業ギルドへ戻る。
モニカたちも食事を済ませたようで玄関でちょうど鉢合わせになった。
「どうだ? うまい物食いまくって満腹か?」
ヒーラが涙目で俺に訴える。
「ラーゼルさん聞いてくださいっす。モニカさんが酷いっす。朝から働かせっぱなしでなんにも食べさせてくれなかったっす」
モニカが踏ん反り返ってすごく偉そうに言い訳をする。
「そりゃ仕方ないだろ。食べる暇もないぐらい忙しかったんだからな」
「ううう、お腹空いたっす」
「そうかそうか。みんな頑張った褒美に商業ギルドの仕事が終わったらみんなで食べに行くか!」
「マジっすか!」
「好きなだけ食っていいぞ」
「やったー!」
みんな大喜び。
特にヒーラは涙を流して喜んでいた。
*
俺たちがラネットさんの元を訪れると、ちょうど話が纏まってギルド職員が契約書を読み上げているところだった。
「あ、ラーゼルさん、ちょうどいい所にやって来ましたね。一緒に契約書の内容を聞いて下さい」
商業ギルドの職員のおっさんが契約書を読み上げを再開する。
急に人数が増えたので、少し緊張していて手がプルプル震えている。
「で、では工事契約書を読みます」
今回の案件はラネットさんに全て任せていたので、ここはラネットさんを信用することに。
契約書の内容に疑問を挟んで話を蒸し返すのは止めておこう。
「当契約は精霊塔の建設地の調査に関する物です。初めに15名による現地調査を行い、工事条件と工事規模が本契約書の内容と相違ないか確認を行います」
現場を見ずに本契約は結べないってことか。
まあ、妥当な内容だな。
「現地調査のメンバーは調査員14名、護衛1名となります。この他に施工主であるアルティヌス家から2名の護衛を出してもらいます」
アルティヌス家から出す護衛が2名みたいだけど、この規模のパーティーの人数としては明らかに少ない。
ラネットさんが値切って護衛を減らして自分のとこから出すようにしたんだろうな。
その2名もあくまでも契約書上の人数で、実際には俺たち全員が召集される気がする。
「現地調査は1日の予定ですが、サテラからクローブへの移動で片道1日、クローブから開拓地への移動で片道2日で合計3日、往復6日分も日当を払うこととします」
魔の森みたいな危険な場所への移動だと移動日も日当を貰わないと人が集まらないだろうし、これも妥当かな。
俺が護衛を引き受ける冒険者だとして現地での護衛代しか払ってくれなかったら絶対に受けない。
「日当は移動6日調査1日の合計7日分で、日当が10万なので一人あたり70万ゴルダ。15人なので1050万ゴルダ掛かります。以上の条件でよろしいですね?」
移動中の日当が若干高い気もするが、ギルドが多少ピンハネするだろうしこんなもんだろう。
「それでお願いします」
ラネットさんが問題ないと言ったので俺がサインをしようとすると、モニカが異議を唱えた。
「たっか! 高すぎる!」
頬を膨らませて職員に掴みかかりそうな勢いだ。
「開拓地なんてサテラから1時間も掛からずに行けるのに、移動に日数掛け過ぎだろ!」
「1時間で移動?です?」
あまりの短い移動時間に目をパチクリさせるギルド職員。
俺もモニカの翼のことを知らなければ『この人、なにを言い出したんだ?』と首を傾げたことだろう。
「私の翼なら余裕だな」
「私の翼?」
さらに混乱するギルド職員。
モニカが腰に手を当て踏ん反り返りながら説明し始めた。
なに勝手に説明を始めてくれてるの?
「そう、なにを隠そう私はドラ……モゴゴゴ!」
俺はモニカの口を押さえて頭を抱えると壁際まで連れて行き説教だ。
モニカは説明を邪魔されてご機嫌ななめ。
「これからがいいとこだったのに! ラーゼル邪魔すんなよ!」
「ちょっ! おま! 自分がドラゴンとカミングアウトするんじゃねーだろうな!」
「誰にも迷惑かけるわけじゃないんだから、カミングアウトぐらいいいだろ」
「迷惑を掛けないだと? お前はサテラのドラゴン騒動をもう忘れたのかよ!」
「あっ!?」
さすがにモニカも思い出したみたいで、段々と青ざめる。
あの時はギルド総出でドラゴン退治に向かう寸前まで騒ぎが大きくなってしまった。
モニカもあの騒ぎをまだ忘れていないだろう。
「す、すまなかった」
「お前の翼が速いのは認めるけど、ここは隠し通せ。また騒ぎになったら俺の辺境伯の地位も奪われるかもしれん。いいな、絶対にバラすなよ?」
「わかった。隠し通す」
モニカはブンブンと首を縦に振り俺の忠告を聞き入れてくれたようだ。
ラネットさんの元に戻ると、塔の建設に話が移っていた。
「精霊塔の工事は材料費込みで6億ゴルダ。工期は最短3ヶ月最長6ヶ月でその工事期間中に住める家とトイレ、井戸や食事なども依頼主であるアルティヌス家が用意してください」
「了解です」
「工事開始の条件はクローブからの道路が整備されていることで、依頼主は1ヶ月後までに道路工事を完了してもらいます」
「わかりました」
道路が出来てなくちゃ資材の運搬が出来ないしな。
これも妥当な条件だ。
「付帯条件として、この契約を守れない場合は別途協議の場を設けること」
「了解です」
「では、この契約の護符を結んでもらいます」
ギルド相手の契約だから特にまずいこともないだろう。
ラネットさんと代わり俺が契約を結ぶことにした。
それにしても工事費が高いな。
3億ぐらいとアレンさんから聞いていたから安心してたんだけど倍の6億か。
既に予算を大幅にオーバー。
塔建築で余ったお金を開拓街の建設費の予算に回せると思ってたんだけど、こりゃ少し稼いでおかないと駄目かもな。
*
「よし! 食いまくるぞ!」
「私も食うっす!」
晩ご飯を食べにバルトさんのちょっと高級な料理店に向かおうとしたが止めた。
モニカたちは質より量ということでとんでもない量を食べそうなので怖くなったからだ。
精霊塔の建設で大赤字なので無駄遣いは出来ないんだ。
すまん。
ということで、格安で美味しいと俺の中で大評判のマーリーさんの宿を訪れる。
ここなら限度を超えた大食いのモニカがいても50万ゴルダは超えないだろう。
「お、久しぶり! そんなに女友だちを連れてどうしたんだい?」
「私は友だちではない。ラーゼルの嫁だ!」
「私こそがご主人様のお嫁さんです」
「私もっす!」
「私もなんよ!」
「私もラーゼルさんのお嫁さんのラネットです。よろしくお願いします」
「あの……私もお嫁さんです」
それを見たマーリーさんは息子が嫁を連れて実査に里帰りした気分で大喜びだ。
「こりゃお嫁さんばかりで賑やかだね」
マーリーさんは冗談と思ってるぽいけど、細かく説明すると長くなりそうなのでやめた。
「騒がしくてすいません。こいつらが腹いっぱいになるまで食わせてやってください」
「はいよ! まかせといて!」
料理は大好評だった。
「ごしゅじんさま、この料理懐かしいですね」
「ああ、おふくろの料理みたいな気がするよ」
「お母さんの味ですか……これはぜひとも教えて頂かないと!」
メイミーはさっそくマーリーさんからレシピを聞きだしていた。
モニカもマーリーさんに食い入るように聞く。
「この赤いご飯はなんだ?」
「炒めたチキンをトマーラで味付けした『チキンライス』さ。どうだい? うまいだろ?」
「ああ、うまい! おかわり!」
「いい食いっぷりだね」
「そうだろ、私はこの街一番の大食い女王なんだぞ。おかわり!」
「そんな女王がうちの宿に来てくれるなんて光栄だね」
「感謝するがいい。おかわり!」
流し込むようなスピードでモニカがお替りしまくってた。
予算50万ゴルダで足りるか少し心配になって来たぞ。
一方、ヒーラはというと……。
「うまいっす、うまいっす」
やっとご飯にありつけたので感激のあまり涙を流しながら堪能していた。
*
その頃、セージの移民団と一緒に馬車の長旅を終えてやっとの思いでクローブに着いたルナータ。
「ビアンカ、絶対に助けてあげるからね!」
着いたその足で領主の家に乗り込んだ。
ルナータに冷たい言葉を投げかける領主。
「ビアンカ君は居ないよ」
「まさか、売っちゃったんですか?」
「ははは、売るわけないよ。今朝からみんなと一緒にサテラに行ってるんだ」
「えええー!」
なんでサテラ?
なんでビアンカとすれ違いになっちゃってるのよ!
ルナータはビアンカに追いつくべく計算をする。
馬車ならサテラまで2日掛かる。
今朝出たなら到着は明日の朝ね。
今から追いかけるとして……明日の朝一番の馬車でクレソンまで行くと明日の夕方。
そこから夜行の早馬車を出してもらえば明後日の朝には着くはず。
二日も掛けてサテラに行って泊まらないで帰ることはないわね。
馬車ターミナルで待ってれば絶対に会えるわ!
翌朝の便でクレソンにとんぼ返りするルナータ。
空を飛んで帰ってくるビアンカとさらにすれ違いになることをルナータは知らなかった。




