遭遇
過去の俺、ちゃんと書いてるぞ。
「現状、周辺にモンスターや人の気配はありません。」
「もう既に山道だ。道で襲いかかるモンスターは俺が斬るから問題はないが、山から降りてくるモンスターはラドが警戒してくれ。」
「わかりました。」
馬車が道の凹凸に合わせてガタガタと揺れる。
…【酔い無効】のスキルを持っていてよかった。
ギルドにいたプレイヤーに感謝だな。
「プレイヤーの方からスキルを教えてもらったのは初めてでしたけど、意外と簡単なんですね。」
「まあ、【酔い無効】は全部のジョブで習得自体は可能だからな。
全部のスキルが教えてもらったら使える…なんてゲーム設定であれば、【開放者】の【開放】なんて、初期に絶対取るべきスキルになるからな。」
「あのスキル、使い勝手良いですもんね。」
安い粗悪品の回復薬でも、少し良い回復薬位の効果になり、使い勝手が非常に良い。
初期に取っておいて良かったと思っている。
「……それにしても、本当に現実と変わらないですね、木とかも。」
「今更ではあるが……まあ確かにそうだな。」
俺達の体と同様に、この木もスキャンし、そのデータから作り出したものなのだろう。
木の葉や、水や、砂や、石。
全て同じ様にスキャンして作り出したもの。
だが、それを見ても、やはり美しいと思えてしまう。
自然は素晴らしい。心が安らぐ。
転がっているだけでも、静かで、温もりがある。そんな自然が、心の底から美しいと思う。
瞬間、突如として地面が突起する
「ッ!」
余りにも突然の事で、少し反応が遅れるが、突起した槍の様な大地を剣で斬る。
なんだ?誰の仕業だ?
無差別で発動する配置型の魔法?
否。だとすれば俺の頭に直接向うのはおかしい。
だったら遠距離発動型の魔法?
否。そのタイプだとすれば、硬度と鋭利さの純度が高すぎる。
であれば……
「…遠距離攻撃が可能なスキルか。」
そう考えていると、依頼主のガラナが馬車を止めた。……一応後ろの出来事は分かる筈だが?
俺が問う前にラドがガラナに言う。
「ガラナさん!!馬車を止めないで下さい!!何かが襲ってきました!!」
「……結界が張られています、この先には進めません。
そして、襲撃があった事を考えれば……私達はここに閉じ込められている可能性が極めて高いです。」
ガラナのいる前方を見ると、青い半透明な壁がある。青という事は、2時間タイプか。
……だがおかしいな。結界を張るには、最低10分程度の詠唱、2時間タイプであれば、40分程の詠唱が必ず必要である筈だ。
確かにここは商業の街への1本道、商人の交通量は他より多いだろう。
しかし、必ず毎日商人が通る訳では無いだろう。
そもそも山賊であれ盗賊であれ、辺りから襲撃であるか否かに関わらず、何かをしているのがひと目で分かってしまうような結界は使うのか?
たった1つの馬車に収まった商人の荷物。
それを押そうために2時間の結界を使い必要性はあるか?
………狙いは、俺とラド?
そうであれば、意味の分からない点にも合点が行く。
襲撃してきた相手は、俺とラドと戦うのが目的であり、ついでに商人の荷物を奪う程度の考えだろう。
俺とラドを襲う理由は大体検討が付く。
この3週間前、俺が魔法で蹴散らしたあの二人、もしくはその二人の上に付く誰か。
「おい。隠れていないで出て来い。俺は怒っている。早くしないと日が暮れて山道にモンスターが出て来て無駄な仕事が増えるだろう。」
何かが起きた時の為に剣を抜いて備える。
何かが起これば、どの構えからでも斬る事は可能だ。
結界の中、外から隔離され、中に風は吹かない。
篭った空間の中、緊張が走る。
山側から先程と同じ大地の棘が飛んで来る。
「ッ」
俺はそれを斬り、尚進んでくる棘の断面を避ける。
明確な敵対の意志。これなら殺してもラドは怒らないだろう。
「……2度も私の攻撃を斬るとは。これでも私の初見殺し技2連発なんだが。」
「……この前のPKの知り合いか?」
「そうだ。……と言うよりも、彼女達2人は私の部下で、あそこでPKをするように指示したのが私、と言うのが正解だな。」
「知らん。興味も無い。そして俺には時間も無い。何が目的だ、早く言え。」
全身を黒の鎧に包んだ男は、俺を見定める様な目つきで見つめる。
「………レベル17の【錬金術師】。貴様が持っているらしい【隠蔽】スキルの影響で詳しくステータスは見れないが……舐めたプレイを。
ステータスに1ptも振っていないでは無いか。
大方、最初に手に入れたスキルの補助効果でステータスに強力な+効果を得て、それで満足しているプレイヤーと言った所か。」
「【鑑定】するな。気持ちが悪い。俺は人に断りも無く姿を評価する様な人間が大嫌いなんだ。今ならまだ見逃してやる、失せろ。」
「おお、怖い怖い。そうかっかするな、まだ私の目的を聞いていないだろう?」
男がニヤニヤと笑いながらこちらを見る。
一々行動が尺に触る。
「どうせ、自分の部下がヘマをして初心者に負けた腹いせ、もしくは自分より上の立場の誰かに指示されて来たのだろう。」
「ははは…まぁ、どちらかと言えば前者に近いか。貴様らからすればな。」
そう言って、男は大地から大量の棘を生やす。その先端を俺に向けて。
「私は、貴様に倒された姉妹の所属するPKクラン【黒夜の影】、リーダーの【ナイトメア】
貴様が死ぬ前に最後に見る男の名だ。」
【ナイトメア】が名乗ると同時に、全ての棘が、俺に向かって放たれた。
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