決着
ようやくまとまったよ…
俺が告げると、ナイトメアはみるみるうちに青ざめていく。
「ご、ごせ…それが10倍!?そんな……そ、そんなの、上級プレイヤーすら比べ物にならないじゃないか!!おかしいだろ!!そんな事、あってはならない!!!
これはゲームなんだぞ!!」
恐怖も無駄口を叩く内に吹っ切れたのか、絶叫に似た叫び声を上げる。うるさい。
柱状の土の塊を変形させ、登る。
「しらん。そもそもこのゲームが一番力を入れた演出はリアルさだ。当然、才能の差もリアルさの演出の内なんだろうな。
そもそも、貴様のその【創造】も、そのリアルさの演出のお陰で手に入れた物だろう?
それを『理不尽だ』『不公平だ』などと言うのは間違っているだろう。」
俺は体の中に入れた棘を円上に広げ、片腕を吹き飛ばす。
ゲーム内だし、さっき剣を持っていた手から察するに、利き手じゃない筈だ。いらないだろう。
「っ……、糞がッ!!」
棘を大量に生やし、ナイトメアが逃走する。
が、瞬時に壁を作り、柱全体に棘を早す。
「な、早すぎる…!」
「反射行動だ。貴様とは違う。」
ナイトメアは一拍の思考の後に創造で物質の形状を変化させる。
が、俺は目視したと同時に変形をさせている為、ナイトメアよりも早く形状を変化する事が出来ている訳だ。
「……だが、精度はまだ甘いようだ、なッ!!」
「ッ」
ナイトメアが伸ばした棘を斬る。
…確かに、まだ手に入れたばかりと言うのもあってか、棘が硬く鋭く変化させ切れていない。
そもそも、思考イメージそのままに変形させると言う都合上、はっきり、明確なイメージが必要になり、少しでも雑念が混ざれば形状は崩れて生み出されてしまう。
確かに集中すれば俺もその程度可能ではあるし、慣れれば出来る様になるだろう。
だが、それが出来るようになるまでは、最低でも半年以上。最悪一年は掛かる。
それをクオリティを保ち、なおかつ同時に幾つも変形させるナイトメアは、やはりオンリースキルに選ばれただけはある。
「っと……、これで良し。」
ナイトメアがミスリルの剣を自分の失くなった腕に変形させ、付ける。
ミスリルの腕は、元からあった腕の如く自由に動く。
「………ッあ!!」
棘の山となった柱を駆ける。
握りしめたミスリルの拳からは棘が生えようとしているのがわかるし、そもそも自由自在に腕自体伸びる。
…ナイトメアのミスリルの腕は、動作一つ一つに元の腕を動かす以上の思考が必要だ。
更にそれと戦闘を同時に行う等、どれ程脳に負荷が掛かるのか。
ありえない程の並列思考能力、そして想像力。
それがナイトメアの、ナイトメア本人の能力。
それ故に得る事が出来た【創造】のスキル。
それは強い。あぁ、確かに強い。
だが。
「ッッツ!」
「なッ…!?」
ミスリルの腕を塵程に切り裂き、両腕を肩ごと落とす。
突然起こったそれに驚きを隠せなくなるナイトメアに、更に追い打ちをかける。
「ッ、ッ、ッツ!!」
ステータス強化系のスキルを発動させ、全ステータスを強化、
AGI2500、STR4000、VIT1000、INT2500、DEX1000にまで上昇する。
これでステータスはナイトメアとほぼ互角といった所。
ミスリルが容易く斬られた事実に驚きつつも防御に棘や壁を地面から生み出されるが、その全てを豆腐の如く斬り、ナイトメアを峰打ちで吹き飛ばす。
「がはァッ…!!」
いつの間にか元の場所、先程もナイトメアが転がっていた場所に戻ってくる。
久しぶりに中々楽しい戦いがは出来た。ナイトメアには一周回って感謝してもいい。
無駄な思考を働かせていると、ナイトメアが質問してきた
「…な、何故…ミスリルの、腕を…どうやって…」
「……俺は【錬金術師】だ。意味はわかるな。」
俺は結界と柱に挟まれている間、隠れた手元で仕舞っていた【グレートメタル】を取り出し、バレない様に【創造】で剣に変形させた。
「……お前のミスリルは、グレートメタルの中で最も美しさに優れた金属だ。
確かに硬さも加工のしやすさも申し分は無いが、他のグレートメタルと比べれば当然下。
俺が持っていたのは【アダマンタイト】。グレートメタルの中で最も攻撃性に優れた金属だ。
単純に言って、相性が悪かった。」
「……く、そ……こんな、こんなにも無様に……俺、が……チート野郎に…」
「……まだ言うか。もういい、とっとと」
「お待ち下さい!!」
ナイトメアを庇うように知らない女が現れる。
女は両手を広げてナイトメアを隠すような構えを取っている。
邪魔だ。
「……どけ。殺せん。」
「もしここで見逃して頂けるのであれば、この場で私の持っている3000万ゼルを差し上げます。怪我の回復の為のポーション、そして武器装備等いくつかを後日渡させて頂きます。」
真剣な態度、心からの言葉を語る女。
一切嘘は無いとわかる。
「…リーダーは、ここで倒されてしまうと、現実時間で半年ログイン制限がかけられてしまいます。もしそうなってしまえば、私達のクランは壊滅です。
どうか、お願いします……!」
先程から変わらぬ熱意。本気の気持ち。
ナイトメアは国直々に指名手配されたプレイヤーだったらしい。
それ故に殺されるのは困る、と。
なるほどな。女の気持ちはわかった。
が。
「……いや知らん。関係無い。」
良く考えてみれば、遠隔で使える創造を覚えたのだった。
俺はナイトメアと女を創造で作ったドームで包み込み、そのままドームを圧縮していく。
少しずつ。少しずつ。じわじわと。
中から抵抗されるような感覚があるが、今俺は集中状態だ。その程度ではこのドームは壊せない。
そして、どんどん圧縮するうちに抵抗が無くなり、最終的に一気にかなり萎んだ。
事後処理をしないですんで助かった。
「……零さん…?」
全て片付け、馬車に戻ろうかと思っていると、ラドがやって来た。
「すまない、今終わった所だ。早く出発を」
「そういう事じゃ無いんです。零さん。」
………懐かしい。もう3週間前事か。
……このあと、ラーナにつくまで、ラドにかなりいろいろ言われた。
今から書くと思います。