実写化
突然だが、俺は近頃の、人気漫画をぽんぽん実写化する風潮が嫌いだ。
実写化なんて最初にだれが思いついたのか知らんが、漫画の世界を三次元で表現するなんてことを――土台無理なことを簡単に決めてしまって、いざ公開すれば派手にコケて。
結果その原作にキズが付くことになり、原作ファンが落胆する羽目になる。
そんなことが度々起こる、いまの時流がどうにも嫌だ。
だいたい、あの圧倒的コスプレ感はなんだ。
衣装や髪形、髪の色なんかが役者本人とマッチしてないせいで、違和感がすごい。
なかには全く生活感のない、やけに綺麗な――ていうか新品だからだろう――衣装が使われてるものもあったりするから本当に困る。
いや…さすがにそれぐらい考えて撮れよ、と。
もちろん、まるっきり全ての作品が酷いといっているわけじゃない。
実際に観て、…よく出来てんなぁ、なんて思ったこともある。
けどそういう作品に限って、原作の世界観が日本なのだ。
その時代はまちまちで、けっして現代だけが舞台になっているわけじゃなくて。
戦国だったり、珍しい? ところだと明治時代を舞台にしたものまであったりするわけだが…
漫画っていうのは先ずもって、フィクションだから。
日本に生まれた、日本人が主人公の。
なんていうものばかりじゃないし、むしろ全くことなる世界観を作り上げた作品の方が読者も面白いと感じやすいと、個人的には思う。
そして、そんな奇天烈だったり摩訶不思議だったりするものを実写として、日本人達が、日本で、再現するにはどうしたって無理が生じるわけで。
それなのに、まるで流行りに乗ったかのごとく実写化を決めて、
既存のファンに『大丈夫か…?』なんて心配させて。
挙句、いざ公開が始まれば「ひど過ぎワロタ」と酷評される。
まあべつに、実写映画だけが悪くいわれるなら、まだ原作ファンも水に流したりできるんだろうが…
最悪なのは、原作を知らん者共が「あれクソつまんなかったわ~。原作が駄目なんだろうな」などと抜かしてファンを殺しにかかるケースだろう。
あの展開ほど悲惨なものはない。
俺も実際、大好きな漫画が実写化したときに、とあるクラスメートが「原作しらんけど映画ウ〇コだったわ。たぶん原作もウ〇コだわw」みたいなことを口走ってやがるのを耳にしてワラ人形を用意しかけた覚えがある。
まあ確かに映画の方は控えめにいってもクソだったけれど…
だからといって、原作まで貶められるのはちょっと、かんべんしてほしい。
あの名作に――原作の方にキズが残るというのは悲しいから。
…まったく。
本当に、漫画の実写化なんて一体だれが最初に思いついたんだか。
もういっそのこと、実写化なんて全部失敗してしまえばいいのに。
そうすればこんな、馬鹿げた風潮も止むに違いないのだ。
国民はみんな、実写化映画をスルーすべきなんだ!
なんて俺が思考とにらめっこしていたら、
「――次でお待ちの方、どーぞ!」
聞くともなく、元気いっぱいな声が耳に入ってきた。
見れば受付の左端、顔の横くらいに手をあげた制服のお姉さんも俺の方を見ていて。
ようやく、自分の番がまわってきたことに気づく。
「――あ、えっと…。一時からの、【実写版 ブラック・レジスト】なんですけど」