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東郷夜玖という男
東郷夜玖は「普通」だった。どこにでもいる高校生で、大きな成功体験も大きな挫折もどちらも持ち合わせてはいなかった。毎日学校に行って他愛のない話をして、気まぐれで授業を聞いたり眠ったりして、チャイムが鳴ったら家に帰っていった。いじめられていたわけでも、とりわけ愛されていたわけでもない。でも彼は毎日が苦痛で退屈だった。
かの江戸川乱歩が書いた小説に屋根裏の散歩者なんてものがある。出だしは結構有名だ。
『多分それは一種の精神病ででもあったのでしょう。郷田三郎は、どんな遊びも、どんな職業も、何をやって見ても、一向この世が面白くないのでした。』
東郷夜玖は正しくこの一種の精神病と言えた。郷田三郎は屋根裏からの覗き見という喜びを見出したが、彼は何も見出せなかった。生きているのも死んでいるのも同じだと感じた。そして彼は思った。
「生きるのはめんどうくさいけれど、自殺するのもめんどくさい」
「いっそ誰かが殺してくれないものか」
東郷夜玖は最後に思い付いたキャラです