出逢い
—起きて
遠くから女の子の声が聞こえる。心配しているようだ。
—起きて
だんだん声が鮮明に聞こえてくる。どうやら倒れてしまったらしい。
「起きるんだ、少年。」
土の味が口の中に広がっている。むくりと起き上がる。
「ここは過去…なんですか?」
まだ少し視界がぼやけている。
「ああ、そうだ。この時代は戦いが起こる前のまだ平和な時代さ。」
彼女はどこか懐かしんでいるように目をそばめてそう答えた。
あたりを見回す。竹の林が広がっており葉っぱの間から覗き込むように太陽の陽の光が差し込んでいる。
「ここは何処なんですか?」
彼女はペンダントを見た。
「ここはおそらくだが東国だな。」
「そうですか。これからどうしましょうか?」
「そうだな…」
ガサガサッ
突如背後の茂みから音がする。
「お主達は何者だ!」
そこには黒髪おさげの巫女装束の女の子がほんのり赤みを帯びた頬をぷくっと可愛らしく膨らませて立っていた。
「ハッ、普通人に名前を教えてもらう前に自分から名乗るのが筋じゃないか?」
女の子はしまったと言わんばかりの表情を見せ狼狽えた。
「ううぅ〜」
「そもそもだな…」
アリエルさん完全に面白がって言っているな。そろそろ止めに入るか。女の子がかわいそうだし。
「アリエルさんもうからかうのはそこまでにしましょう。こちらの女の子は困ってますよ。とりあえずお互いに自己紹介をしましょう。僕の名前は桐一です。さぁ、アリエルさんも」
「むぅ、しょうがない。私の名はアリエルだ。」
「あなたの名前は?」
女の子は僕達に向かって指をさしこう言った。
「私はこの地を治める雷神であり剣神である男神タケミカヅチ様に仕える巫女であるぞ!名は撫子だ!」
タケミカヅチ…。聞いたことのある神様の名前だ。さっきこの子はタケミカヅチに仕えてるって言ったよな。神が下界にいるのか?
「この時代には神は本当に存在するんですか?」
「この時代?なんのことを言っているのか分からんが神様達が下界にいるのは普通だぞ。私達を見守ってくれて時には奇跡与えてくれるぞ!」
「本当ですかアリエルさん。」
「む、そういえば言っていなかったな。私達が倒す神以外にも多くの神がこの下界にいるぞ。まぁ、現代では神は天界に住むから空想上のものでしかないから信じられんだろうがな。」
過去に戻って戦うことにしたけど僕には何の力もない。
タケミカヅチは剣を司ると聞く。
剣の修行をして、鍛えてもらいたい。
記憶を失ってから以前の僕はどんなことが出来たのかは知らない。
だけど今の僕にしかできないこともあるはずだと思う。
ダメ元で聞いてみよう。
「撫子さん。僕達にタケミカヅチ様を紹介してくれないかな?」
「いいぞ。タケミカヅチ様は寛大でいらっしゃるからな。」得意げである。
「本当!ありがとう」
「礼など良いぞ」
「神など碌なもんがいないさ。」
アリエルはあまり乗り気でなさそうだ。
「ふんっ、桐一には紹介するが別にお主を紹介しなくてもよいのだぞ?」
「ハッ、元からそのつもり…」
「うわあああ、アリエルさんも紹介してください!」