理由
目が覚めた。
どうやら寝てしまったらしい。
空は既に暗くなっていた。
「ああ、あれは夢か。なんだか不思議な夢だったな。」
体はふわふわしている。
「夢じゃないぞ、少年」
綺麗な女性が僕の顔を覗き込んできた。
自分と同じ髪の色。
この部屋には僕だけしか住んでいないはず。恋人を作った経験もない。
ましてや女の子のメアドなど持っているはずもない。
頰つねってみる。
「痛い」
—あれは本当のことだったのか…
「そうだ、これは残念ながら夢ではないのだよ。」
突然現れた女性に自分の記憶喪失を言い当てられ、さらに自分が過去の文明である『アトランティス』の生き残りと言われて、僕は混乱していた。
僕は起き上がった。まだ頭痛の余韻がある。
「と、とりあえず僕と貴女は旧知の仲ってことですよね」
彼女は頷いた。
「そして僕は過去から現代にタイムスリップして逃げてきたってことですよね。」
「そうだ。」
「僕は…『アトランティス』の生き残りであると。」
「そうだとも」
再度突きつけられた現実。しかし、僕の記憶の手がかりになると思うと後に引けなかった。
「…。僕がここに逃げてきたのには理由があるはずだ。それを、教えてください。」
彼女は目を細め昔を見ているようであった。
「君と私は昔結婚を誓い合った仲だった。君といるととても楽しかったよ。そして、神による裁きが起き、私達はそれぞれ転移したんだ。私達は約束したこの時代で再び会おう…と。私は君をひたすら探したんだ。そして今日やっと見つけた。一目で分かったさ。とても嬉しかった。でも…」
とても辛そうだった。
「でも僕は記憶を失っていて、貴女に気づいていなかった。」
少しぶっきらぼうに言ってしまった。
「いや、君は悪くないさ…。タイムスリップした際になにかが起こったのだろう。まぁ、今となってはこの約束も意味をなくした。私はこれから過去に戻り神を倒す。君には迷惑をかけたな。」
「では、私は行くとするよ。世話になったな。」
彼女はそう言うと立ち上がり。玄関へ向かった。彼女はひどく泣きそうな顔で笑っていた。
—このまま彼女一人だけを行かせていいのか?
僕は話を知ってしまった。彼女と僕の関係も知った。そして彼女は辛そうで今にも泣きそうな顔をしていた。
僕はそんな表情を見てしまった。
—良いわけないだろっ!
「待ってください!」
彼女は立ち止まった。振り向きはしない。
「僕は今までの話が信じられない…、けど、それでもっ、そんな泣きそうなな顔した君を一人で行かせるわけには行かない。行かせるもんかっ!僕も君について行く!」
彼女は振り向いた。
「本当にいいのか?」
「ああ。」
「きっと辛くなると思うぞ。それでもか?」
「ああ。それでもです。」
彼女は泣きながら嬉しそうに飛びついてきた。
「ぐすっ、ありが、とう。ほんとうにありがとう。」
僕はさっき言ったことを思い出しとても恥ずかしくなり、
「べっ別に、それだけが理由じゃないからな。自分の記憶を取り戻したいっていうのもありますからっ。」
「そうか、それでも私は嬉しいよ。」
こうして僕らの過去への旅が決定した。
その日の夜の星はとても美しく輝いていた。
きっと、今日は運が良い日だったからに違いない。
短いですね。すみません