Operation.zero
傭兵は空を飛ぶ。山肌と分厚い雲の間を縫うように。
重たい黒色の空は一面を夜のように暗くさせ、雨粒がキャノピーを弾いて流れていく。
視界は芳しくない。だが、彼はじっと先を見据えている。
航空基地の一角、最近配備され始めた人型の兵器を片隅に、愛機が整備を受けている。複雑怪奇な部品が流れるようにバラされて、エンジンが気持ち良く抜き取られる様は、見ていて楽しいものだ。
鉄と油、そして汗の匂いが、夏の湿気と共に嫌に染みついてくる。彼女を見たのはそんな場所だった。板張りのベンチに座ってラムネを飲む彼女は、白いワンピースが妙に涼しげだったのを覚えている。
「お疲れ。差し入れだ」
振り向くと油で黒くなった強面が印象的な、”おやっさん”がラムネをこちらに差し出している。その顔はいつも通りの仏頂面でありながら、童心に戻っているような笑みがどこかにあってこちらも頬が緩んだ。
ビー玉を押し込んだ。軽やかで涼しげな音が鳴る。
少女は変わらずいる。彼女が誰なのかはその時はとてもどうでも良かった。茹だるような暑さが士官服に張り付いて腹立たしいが、どうしてか私はとても心地よいのだ。ビー玉が「からん」とプラスチックの容器を響かせる。風鈴でも吊り下げてみれば、涼しげだろうか。
≪Popup-group BRAA 2-5-1 500 102,イーグルは迎撃へ迎え≫
≪了解、Rader on、10時の方向、地対空レーダーを受けている≫
<ジョージ1よりスカイアイ、ウェイポイント・ジュリエット通過、上空にはイーグルが見える>
≪OKジョージ・リーダー、イーグルのRWRデータを送信する。作戦行動開始≫
<ジョージ・リーダー、copy>
Engage.Music(ECM),Masterarm on.
無骨で大柄なクリップドデルタが雲を引き、エンジンが焔を噴きながら高度を上げる。イーグルから送られたRWRデータを、自機のRWRデータと照会、高速で合成開合し、敵防空網の要である対空レーダーを捉える。情報化された電波発生源情報はGPS化され、翼下に取り付けられた2発のAGM-88ERに与えられる。敵SAMは防空戦闘を展開、白い尾が遠目に見え、同時に警報が警告に変わる。
<Missile launched、11 o'clock、回避機動を推奨します>
<機動に専念する。トリガーは任せた。2,Music off>
≪2,copy.Break≫
現高度約2000m、スロットルをMILに絞りビーム機動、速度と高度を維持する。恐らくは複数発が撃ち出されるだろう。僚機、編隊を解き先行、敵レーダーの情報が常々送られてくる。反転し1射目の運動エネルギーを奪う。HMDに表示された目標指示コンテナを正面に捉える。電波発生源は12時・40nm。後席からコール。
<Magnum>
主翼下パイロンのHARMがハードポイントから外される。発射煙が視界を奪い、そのままスロットルを押し上げドラッグ機動、対G呼吸、上昇しつつ旋回する。
他の電波発生源は3つ。最も近いものが3時・約50nm、一つが1時・約60nm、もう一つが12時、80nm以上。進行方向は大凡2-6-0、手前にあるレーダーが恐らくは敵航空基地だろう。3時のレーダーは2番機に任せる。マグナムコール。
電波源の消失をNIWSから確認する。レーダー警報も途絶えている。撃破したとは言えないが、これで一定の無力化は完了した。
迎撃機が直に来る頃合いだろう。一旦引き、戦闘機隊に任せる。SEADモードからBVRモードに切り替え、上昇角10度・バンク角45度で緩やかに上昇しつつ戦闘機隊に追従する。
<“お人形さん”はどうだ>
<…ウェイポイント・デルタを通過、順調です>
戦闘機隊が敵迎撃機とインターセプト。中距離ミサイルによる応酬が繰り広げられる。AAM-4Cを選択、LRSモード、レーダー素子がXバンドレーダーを放ち、反射波のドップラーシフトを解析、距離・進行方向・速度を認識し、NIWSディスプレイに表示する。IFF応答ありを示す丸いアイコンが敵機と重なる。この位置からでは危険だ。
<Keep Angel、Rader off、Music・IRST on、Beam to 2-1-0。戦術データリンク>
≪copy、ここではSAMに狙われます。高度を上げましょう≫
ホークアイの無線をバックグラウンドに2の意見具申に従う。高度を上げながら機首を2-1-0へ向ける。AWACSからイーグルチームのレーダー情報が送られ、サーチモードのIRSTが熱源を捉えた。データ照合によって詳しい情報が得られる。3時の方向、距離は約20nm。機首を向ける必要がある。アタックフォーメーション。後席から呻き声が聞こえる。対G呼吸、息苦しい。ブラックアウトで視界が狭まる。敵部隊を正面に捉え、HUDのASEサークル内にコンテナが入った。FOX3
AAM-4Cが2秒ほど初等燃焼。エアロインテークから二次燃焼を開始。イーグルチームのデータリンクによって中間誘導、会合点予測。距離計測・10nm。AESAシーカ―起動。ミサイル警告に反応したのか、回避機動を取るがダクテッドロケットではそう簡単には避けられまい。スプラッシュ1
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進路マーカーをガイドマーカーに重ねる、距離6nm、速度250kt、高度1000m、風向0-1-1、風速約22kt、クラブを取る、スロットル・アプローチアイドル、管制塔が目視で確認、ギアダウン、速度220kt、高度500m、フラップダウン、管制塔がギアを確認、進入路適正、滑走路端に進路マーカーを合わせる、距離2nm、スロットル調整、速度200kt、距離1nmを下回る、高度50m、機首上げ、進路を水平に、スロットル増し、デクラブ、滑走路上進入、エアブレーキ展開、降下率調整、タッチダウン、スロットル・アイドル、、機首を維持、速度100kt、前脚接地、主脚ブレーキ作動、50ktを下回る・・・
《コンプリートランディング、パーキングエリアへ機を移動せよ、ジョージ2、着陸を許可する》
<Copy>
結局あの後、地上を進行する“お人形さん”達は偽装工作された戦闘車両群・・・それもMBTを主力とした機甲部隊によって壊滅させられた。相手が悪すぎるというのもあったが、主力を伴わない強襲戦力は脆弱に過ぎるのは目に見えていた。どうにもあの戦役で頭脳役が人手不足らしい。
スロットルを停止位置に。航法灯、衝突防止灯、タクシー灯を消し、キャノピーを開ける。計器類が規定位置にあるかを確認しながらベルトとマスクを外す。トートイングカーがエプロンへパワープッシュしている間にも確認作業は続く。
地上作業員がタラップをコクピットへかける。機体を降りて、敬礼。作戦の完了とその結果、各種規定事項の連絡を終える。コクピットを見ると、小さな体躯で四苦八苦しながら機体を降りる相棒がいた。
「とても戦士には思えませんね」
「何、半分はただのガキだ」
この機体のエンジンは切ったとは言え、着陸してくる機体のエンジン音で会話は聞き取り辛い。だが彼女は怒ったように拳を投げ打ってきた。やはりガキではないか。
「仲が宜しい様で」
そう嘯きながらタラップを外す彼を一瞥するが、その場を後にする。目の前では今正に1機のEF-2020がタッチダウンしていた。
F-3
国防省が開発した第4.5世代戦闘爆撃機。相性は紫電Ⅱ、NATOコードはジョージ。自衛隊から国防軍へと名を改めた際、不足する迎撃戦力や対地攻撃能力を補うため、また島国の特性上基地から飛び立てば数分で海上へ出てしまうために艦載機としての運用も可能とする多用途戦闘機を必要とした。F/A-18E/Fが選出される動きもあったが迎撃時の上昇力に不足があることや単純な性能の不安。自国開発を支持する流れなどからF-15Jをベースとして開発される。
単座型/制空戦闘仕様のA型と複座型/戦闘爆撃仕様のB型が生産されている。
機体設計
以前は主翼のみであった炭素繊維複合材を機体全体に使用している。炭素繊維系素材は、比強度に優れたチタンよりも軽量で同等の強度を持つため、チタンを機体の70%に渡り使用したF-15Eよりも空虚重量が1tほど軽い。炭素を主とした素材のため、高温となる高速度域での行動が比較的制限される。そのため最高速度は低下した。また、RCSの減少を狙って母材には電波吸収材が練り込まれ、エンジン前方にはレーダーブロッカーが設けられている。
航続距離延伸のため、CFTの一体化が行われている。このCFT内部にはLANTIRNシステムに相当する航法・目標指示システムが搭載されている。燃料搭載量は本来のCFTよりもやや減少しているが、それでもドロップタンクの二本分に相当する燃料を搭載できる。増槽を搭載しなくてよい分、空気抵抗の大幅な削減やパイロン・ランチャーの追加を可能とし、後述するミリタリー推力向上により超音速長距離航行も可能となった。
また、日本特有の風土により艦載機としての運用能力を必要とされ、降着装置やアレスティングフックを設計し、主翼に折り畳み機構が追加された。
エンジン
F100-IHI-220Eの推力向上型F100-IHI-300を搭載。F100-PW-229に相当する準国産型。非破壊検査システムやFADECの搭載、ブレードの再設計に始まり軽量化や最適化を施されている。また、バイパス比の調整によりミリタリー推力104kNを達成。バイパス流の減少によりオグメンタ推力はあまり向上せず126kNに収まっている。
センサー
レーダーは、J/APG-2の計測データとAN/APG-82(v)1を基に設計したJ/APG-3を搭載する。J/APG-3は1700個のヒ化ガリウムT/Rモジュールで構成され、走査範囲を得るため多面構成されている。これにより上下左右90°の走査範囲を得る。
機首上面、胴体側面、主翼両端、垂直尾翼登頂部には、IRSTモジュールが搭載されている。機首のものがメインとなる観測機であり、そのほかは測距用の小型モジュールである。レーザー測距よりも測距可能な距離が広いが、RCSの増加を招いているとの指摘もある。
アビオニクス
レーダーやIRST・FLIR・RWRなどの機体センサーのみならず、作戦行動中の味方機による観測データを、自機のセンサーの観測情報と合成開口し、一つのモニタに映し出す「次世代型統合電子戦システム」を装備している。これはF-35のようなセンサーフュージョンよりも高次なシステムであり、本来別々の観測結果であるレーダー情報とIRST情報やRWR情報を照らし合わせ、精度を跳ね上げることで差別化を図っている。また、対艦攻撃用のシステムを搭載し、ASM-1からASM-3およびAGM-84などの対艦ミサイルが使用可能。
仕様
乗員:1名(A型)2名(B型)
全長:19.44m
全幅:13.05m
全高:5.63m
翼面積:56.5m²(C)
空虚重量:13,441㎏
兵装類最大搭載量:12,044kg
最大離陸重量:37.736kg
燃料搭載量:12,261L (機内)、2,309L (ドロップタンク)×3
動力:
F100-IHI-300ターボファン ×2
推力:104kN (ミリタリー)×2、126kN (オグメンタ) ×2
巡航速度:M1.1
最大速度:M2.4
最大G:±9G(リミッターレス±12G)
最大航続距離:5,050㎞(フェリー、ドロップタンク3個使用)
最大作戦行動半径:642海里(1,190km)
実用上昇限度:15,000m(50,000ft)
機体寿命:10,000時間