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第3話

老人に言われたとおりまっすぐ道を歩いて行くと、分かれ道に突き当たった。そこで今度は右に曲がってしばらく行くと、一軒の屋敷が見えてきた。屋敷からは何やら賑やかな音楽と人々の声が聞こえてくるのだった。不思議に思った龍峨だったが、構わず門の前まで行ってみると、そこには長い行列が出来ていた。とりあえず、龍峨は門番らしき人物に声を掛けてみる事にした。

「おじさんはこの家の人かい?おいら、ここに住んでいるお爺さんに頼まれてお酒を取りに来たんだけど。」

「小僧のくせに横から割り込もうとするとはけしからん奴だ。お前も後ろに並ぶんだ!」

声をかけられた門番は、貧しい身形の龍峨を見るなりそう怒鳴りつけた。

「おいらはこの家に住んでいるお爺さんに頼まれて来ただけなんだけど・・・」

そう言って、老人の身形を説明するのであった。

「この家にはそんな年寄りなど住んでおらん。そんな戯言を言って誤魔化しても無駄だぞ。酒が欲しいなら、おとなしく順番を待つんだな。そうでないなら、この場から立ち去れ!」

そう言われて何だか釈然としない龍峨であったが、とりあえず行列に並んでいればお酒が手に入るらしい。行列の最後列まで行くと、目の前の男に声を掛けてみる事にした。

「おじさん。この行列は一体何なの?それと、さっきから聞こえてくる賑やかな音楽は一体何だい?何かお祭りでもあるの?」

突如後ろから声をかけられた男は、振り返ると龍峨の事をジロジロと眺めてこう答えるのであった。

「何だ、お前。何も知らずにこの家にやって来たのか?運の良いヤツだな。今日はこの家の主人の結婚式なのさ。誰でもお祝いに駆けつけた者には、お菓子と酒が貰えるって言うんで、みんなこうして集まって来ているんじゃないか。」

そう言うと、男は前を向いてしまった。

「(何だか良く分からないけど、並んでいればお酒は手に入りそうだ。)」

そう思った龍峨は、自分も行列に並んで順番が回ってくるのを待つ事にした。しばらくして、龍峨の番が回ってきた。前の男がやった通りにお祝いの言葉を述べると、屋敷の者からお菓子の入った包みと竹筒に入ったお酒を貰うことが出来た。


お菓子は自分の懐にしまい、お酒を持って老人の元へ帰ろうとする途中、向こうから街に住む少年たちがやってきた。龍峨と歳も変わらない少年達であったが、貧しい暮らしの龍峨をからかっては嫌がらせをしてくるので、普段からあまり関わりを持たないようにしていた。そんな訳で今日も目を合わせないように通り過ぎようとすると、中の一人が声を掛けてきた。

「おい、お前。挨拶もなしに俺たちの側を通り過ぎるつもりか。」

余計な面倒は避けたかったので、軽く会釈をして通り過ぎようとすると、ひときわ背の高い少年が龍峨の持っている竹筒に目を留めた。

「その手に持っているのは何だ。こっちによこせ!」

「これは、ただの竹筒だ。お前達には関係ない」

そう言って逃げ出そうとする龍峨であったが、すでに周りは少年達に囲まれていた。多勢に無勢、あっと言う間に竹筒もお菓子も奪い取られてしまい、先ほどの背の高い少年の手に渡ってしまった。

「何で貧乏人のお前が、こんなお菓子なんか持っているんだ?それにこの竹筒。中身は・・・酒のようだな。どうせ何処かから盗んできたんだろう!」

「盗んでなんかいないさ!そこの屋敷で貰ってきたんだ。欲しけりゃお前達も貰いに行けばいいだろ。それはおいらの物なんだから、返してくれよ!」

そう言って龍峨はお菓子と竹筒を取り返そうとした。

「お前はさっき、俺たちの側を挨拶もなしに通り過ぎようとした。これは俺たちに対する重大な侮辱だ!本来であれば許しがたい行為なんだが、今回はこのお菓子と竹筒に免じて許してやる。有難く思え。」

そう言って、少年達はその場を立ち去ろうとした。

「お菓子はお前達にやる。でも、その竹筒は返してくれ。それはすごく大事な物なんだ。」

自分が帰って来るのを楽しみに待っている老人の事を思い、そう告げる龍峨に、少年達はこう言うのであった。

「そうか、そんなに大事な竹筒なのか。じゃあ土下座してお願いしろ!そうしたら竹筒は返してやる。」

貧しい身であっても誇り高く生きてきた龍峨にとって、それは非常に屈辱的な言葉であった。しかし、ここで少年達と争ったところで勝ち目は無い。

「本当だな!おいらが土下座したら、ちゃんと返してくれるんだな。男同士の約束だぞ!」

「あぁ。男同士の約束だ。お前が土下座をしたら、ちゃんと返してやる。」

龍峨は土下座をしてお願いした。目の前に広がる土の色が滲んで見えた。

「本当に土下座しやがった。意気地のないヤツだ。ハッハッハ。」

そう言うと竹筒に入った酒を全て地面に零し、空になった竹筒を龍峨に投げ返した。

「約束が違うぞ!おいらは土下座したじゃないか。」

「酒が入ったまま返すなんて誰が言った?約束通り、ちゃんと竹筒は返してやっただろ。」

「騙したな!」

そう叫ぶと、龍峨は少年に飛び掛って行った。こうして二人の取っ組み合いの喧嘩が始まると、あたりは大騒ぎとなった。すると、それを聞きつけた先ほどの門番が駆けつけて、二人を引き離してこう言った。

「何だ、お前達。喧嘩をするんだったら、何処か他の場所でやれ!」

すると、少年が龍峨を指差しながらこう言った。

「こいつが急に飛び掛ってきたんです。」

負けずに龍峨も言い返す。

「何だと、お前が約束を破ったのがいけないんだろう!」

またもや喧嘩を始めそうな二人を、門番は引き離してそれぞれを見比べてみる。

「(立派な身形の少年とさっきの小僧か・・・。理由はどうあれ、小僧を助けたところで何の得にもならんだろうし、少年の方を助けてやるか。)」

そう思った門番は、龍峨に向かってこう言うのだった。

「お前はさっきの小僧だな。どうせお前が喧嘩を吹っかけたんだろう。」

門番の言葉に後押しされて、少年達も騒ぎ立てる。龍峨は必死に事情を説明しようとするのだが、誰も聞き入れてくれない。龍峨は悔しくて仕方がなかったが、どうしようも出来なかった。

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