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第1話


この作品は『紅梅記』という中国風ファンタジーの外伝として作成されたものですが、本編からは独立したストーリーにしております。


なお、本編については現在、途中まで書き進めた状態で止まっております。この作品が無事完結しましたら、続きと共に掲載する予定です。

その昔、龍峨と呼ばれる少年がいた。小さな村で生まれた貧しい子供だったため、山に入っては兎や鹿を狩り、それを街で売って生計を立てていた。ある日、いつものように山に入ったのだが、その途中見た事もない見事な牡鹿に出くわした。これを仕留めれば当分の間猟に出掛けなくても良いと思った龍峨は、牡鹿を追いかけていくうちに、普段は誰も訪れない山の奥地まで足を踏み入れてしまった。


気付けば先ほどの牡鹿も何処かに逃げてしまい、道にも迷ってしまっていた。途方にくれた龍峨が辺りを見渡してみると、白い着物に瓢箪を腰にぶら提げた老人の姿が目に入った。どうやら川の畔で釣りをしているらしい。他に人影も見えないので、龍峨はその老人に声を掛けてみることにした。

「お爺さん。おいら、道に迷ってしまったんだけど、どうやったら村に戻れるかなぁ。」

しかし、老人は振り向きもしない。

「(この爺さん、耳が遠いのかな・・・)。お爺さん。おいら、困ってるんだけど!」

龍峨がよくよく見ると、老人は釣り糸を垂らしたまま眠っていた。

「(何だ、眠っているのか。今日は鹿を追っかけたから、おいらも疲れちゃった。ちょっと一眠りしよう。まさか、子供一人を山に置き去りにする事もないだろうし・・・。)」

そして龍峨も老人の側で眠りにつくのであった。


しばらくして、龍峨の体を揺する気配と誰かの声が聞こえてきた。

「小僧、こんな所で眠っていると風邪をひくぞ。起きるんじゃ。」

どうやら先ほどの老人のようだった。龍峨が眠い目を擦りながら起き上がる。

「(何だよ、自分だってさっき眠っていたくせに。いい気な爺さんだ。)」

そう思いながらも、ようやくこれで村に戻る道を教えてもらえそうだ。

「お爺さん。おいら、道に迷ってしまったんだけど、どうやったら村に戻れるかなぁ。」

「まあそう急かすな。ところで小僧、こんな山奥までどうやって来たんじゃ。」

そこで、牡鹿に出会ってからの経緯を老人に話したのだった。

「ふむ、牡鹿が小僧をここまで呼び寄せたのか・・・。」

そう呟くと、老人は白い顎鬚をしごきながら考え込むのであったが、その時、俄かに老人の釣り竿が引っ張られた。

「お爺さん、竿が引いているよ!」

「おぉ!いかん、いかん。小僧、悪いがちょっと手伝ってくれ。」

そう言うと、二人して釣り竿を引き上げるのであった。釣り上げたのは見事な鯉。

「あのさぁ。おいら、本当にもう帰らないといけないんだけど・・・。」

「小僧はこの鯉を食べたくないのか。それじゃあ仕方あるまい。儂一人で食べる事にするかな。」

そう老人に訊かれて、朝から何も食べていない事を思い出した龍峨。

「食べないなんて言ってないよ!」

「そうかそうか、じゃあ火を興すための薪を集めてきてくれんか。早く頼むぞ。」

そう言うと、腰にぶら提げていた瓢箪に口を付けて飲み始めた。

「ちぇっ、おいらにばっかり押し付けて、ずるいぞ!(自分は酒なんか飲んで・・・。)」

老人の持っている瓢箪の中身が酒であるのは、龍峨も匂いで分かった。

「目上の者は敬うものだぞ。まあ、嫌なら別に構わん。儂が一人で食べるだけじゃ。」

どうしても鯉を食べたかった龍峨は、大人しく薪を拾いに出掛ける事にしたのだった。

「(まったく、とんでもない爺さんだ。でも鯉を食べるまでは我慢しなくちゃ。)」

そう思って、せっせと薪を拾う龍峨。釣り上げた鯉の事を考えると、自然と笑顔がこぼれるのだった。

「何だ、龍峨。ニヤニヤして気持ち悪いヤツだな。」

顔を上げてみると、近所に住む顔馴染みの張だった。

「あれ、張さん。こんな所で何しているの?」

「何ってお前、ここは俺たちの村だろ。寝惚けているんじゃないのか?」

見渡してみると、確かに龍峨の住んでいる村だった。薪を拾っているうちに帰り着いてしまったらしい。不思議に思った龍峨ではあったが、無事に村に辿り着いた事を素直に喜ぶのであった。

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