ラブコメほどバカげたことはない
とある夕暮れ時、夕日に包まれシンとした非常に待ち焦がれていた時間がやってくる。俺は彼女に思いを告げるのだ。
「お、俺君のことが好きです!」
顔を真っ赤にしながら必死に俺は彼女に思いを告げる。すると彼女は腕を組み始めた。
「で?」
「……で?」
「それで何かと言っているのだけど」
「あ、あぁ……よ、よければ付きあって……も、もらえないかと」
彼女は目を細め呆れた表情で俺を貶し始めた。
「あなたって別のクラスの人よね? そんな人が私の何を知ってるの? どうせ、噂で“〇〇な本読んでた”とかつまらないことを聞きつけて興味持って告白したという感じでしょ。それにあなた名前は?」
聞かれるがままに名前を答えると。
「へぇそう。あなた別に優秀ではないわよね? 私より下よね? それにパッとしていないわ。モテたい、自身を見て欲しいと思うのであればあくまでも第一印象からどうにかしなさい。まぁ答えはノーだけれどね」
貶し、貶し、貶し尽し……何も言うことがなくなったのだろう。彼女はカバンを取り、俺の横を通って夕日に包まれ赤い教室から姿を消していった――。
今現在というと。
彼女とは同じ部活に所属している。別に諦めきれずストーカーをして同じ部活に入ったわけではない。本当に偶然、同じ部活に所属してしまっただけなのだ。部活と言っても何をするでもない。
ただ、放課後に行き場所のない孤高な俺は独りのプライベートスペースを探しているとこの部屋、この部室を見つけ部員がおらず廃部寸前と聞いて表向き“存続”と掲げ部員となった。
そして彼女があとから入部してきたわけである。
「あの時、ほんと面白かったわね」
「なんのことか覚えがないんだが」
「忘れたの? 私はハッキリと覚えているわよ。あんな告白初めてだったし、これまでで一番気持ち悪い告白だったから」
これは自分が特別だと判断してもいいってことだとろうか。
それにしても彼女は俺とのやり取りの中で必ず“キモい”“気持ち悪い”という不愉快な単語が混じっている。初めは抵抗があったが今では当たり前なことで、思わないとこがないわけでもないが慣れてきた。
「まぁあの時はお前を好きだったかもしれない」
いや、好きだったのか……。
「でも、今は断じて否だ! お前の性格を知って唖然としたさ。きっとこれから好きになることは無いだろうな」
「それは致し方ないけど、考えてみて頂戴。私の性格を知れたあなたは、知らなかったあの頃よりも安心して付き合えるのではなくて? 楽しく過ごせそうだと思うけど、どう?」
「ラブコメだとしてもこれは酷いな。なぜ俺が常にいじられているんだ。そこが俺は許せない」
「私は何度となく告白をされ、呆れるほど愛を知った女よ? とはいっても一人として付き合ったことはないわよ。でも……あなたならいいかもしれないわね」
彼女の表情は逆光であまり見えなかった。この逆光が無ければ俺はもっと彼女を知ることが出来ていたろうに。と、夕日に恨みを買った。
「俺はお前とは付き合わねぇよ」
「あら、あの頃は私に惚れていたというのに」
「俺が血迷っていただけだ。ラブコメなんか俺には必要ないジャンルだったわけだ」
「そう」
「俺はお前のせいで恋愛を脱線したんだぞ。責任を取ってほしいのもだな」
「自業自得としか言いようがないことを押し付けられても困るわ」
「俺は被害者だろ?」
この女のせいで俺の恋愛が無くなってしまった。この女の性格を知れば、大体の女子がそうなのかもと勝手に考えてしまう。そう、この女が悪い!!
「被害者かどうかは置いておいて、私でよければ付き合ってあげるわよ」
彼女は先ほどの雰囲気とは一変し、甘い声で俺を誘惑する。外から肌にやわらかい当たりのする風が窓から部室に入ってくる。その風は彼女の匂いを運び俺の元まで届けてきた。このシチュエーションはズルいではないか。完全に惚れさせに来ている彼女……そんな彼女に落ちそうになる俺。
「お、俺は……」
赤面しながら、恥りながら俺は口を開くと彼女は待っていたかのように申してきた。
「まぁ全くの嘘だけど。まず、あなたと私とが釣り合うわけがないじゃない。何を妄想したのかは聞かないでおくけど控えておきなさい。気持ち悪いわよ」
「うぅ……」
これだから、ラブコメほどバカげたことはないんだ!!
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