4話 王城陥落
王城の中は蜂の巣をつついたかのような騒ぎだった。戦えるカンザ兵はもうおらず、抵抗した者は捕縛され、一所にまとめられていた。
今回のカンザ攻めの大将レムルは、髭面で屈強な体つきの男だった。年は四十を過ぎたばかりで、若い頃に比べれば少し衰えは見えるものの剣を振るわせれば彼に勝る兵はいなかった。
レムルの前に連れて来られた一人の女がひざまずく。
「長年に渡る間諜の務め、ご苦労だった」
レムルは短く刈り込んだ髭を指でさすりながら唸るように言った。慣れぬ者はほとんどが怯えるのだが、これが彼の喋り方だった。
「ありがとうございます」
顔を上げたワマウの乳母に、レムルが尋ねた。
「して、王子と王女が偽物だというのは本当か?」
「その通りです。二人はそれぞれ国王の部屋にある隠し通路より西の森に逃げました」
乳母の言葉に頷き、レムルは部下を呼びつけた。
「“狼”の半隊が休息に入っていただろう。四人隊を三組、西の森に放て。見つけ次第ラクラス王子の首をはねよ。……ワマウ王女は殺さずに連れてまいれ」
ウルジの王国軍は獅子、熊、狼の三つの部隊に分かれている。狼というのはその中でも精鋭の強者たちだった。
レムルの言葉に乳母は少し驚いて顔を上げた。
「……王女を、生かしていただけるのですか?」
「情が移ったか?……陛下は殺せと仰ったのだがな、オノン王子殿下が一目見たいと仰るのだ。あの方にも困ったものだ……美姫の噂を聞くと居ても立ってもいられないのだから」
ウルジの次代の王、現在は王子であるオノンは民を大事にする、評判の良い為政者だ。今のウルジは他国を侵略しているが、征したあとはその国を治めなければならない。ウルジ王はその器ではないが、オノン王子は今までに封ぜられたどの土地でも名君と呼ばれ、民に親しまれていた。彼の唯一の欠点が、女性に目がないところだった。
「まあいい。殺したあとに生き返らせることはできないが、生きているのならば命を奪うことはできる。ちょうどラクラス王子の首実検をする者を探していたところだったしな」