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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第3章 幸運と言う名の災厄を背負う少女
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それが意味することは

すいません。

最近精神的に大ダメージを負ってしまったが故に後半部分は文章としていつも以上にまとまりがありません。

ダメージから回復し次第直しますので……もしかしたら次回の更新も遅れるかも……

 カタカタと全身の砂の骨格を鳴らす髑髏の尖兵たち。

 個体レベルで考えれば推定でEランク程度だと思われるが、いかんせんその数が膨大。砂の海の一角を埋め尽くすほどの量で数える気にすらなれない。

 軍隊とでもいうべき魔物の群れに、クロードが先頭で駆けていく。手に握るのは修理したての魔導銃剣だ。


「これでもくらいやがれっ!!」


 ゴーグルを目元まで上げ、カチッと引き金(トリガー)を引く。

 眩い閃光と轟音が骨の大合奏をかき消し、熱砂で焦げ付きそうな世界をより熱く焼き尽くす。

 チリチリと音を立てる空気。気温は10℃以上上がったようにも感じられる。


「チッ、数が多すぎる……なっ」


 だが、戦果としてはあまり芳しくない。

 もちろん魔導銃剣による砲撃を受けた一角からは髑髏の尖兵が掃討された。しかしそれは氷山の一角にすぎず、ことケンタウルス異形種とでも称すべき魔物に至っては、骸骨たちを盾にしたのか無傷。

 対価として相変わらず銃身部分は歪み、おそらく再使用は不可。仕方なしにクロードは悪態を付きながら剣の部分で骸骨たちを斬っていくのだがその数は多すぎる。

 クロードは一見すれば砲撃の部分に視線が行きがちだが、鍛冶師の身でありながらDランクにまで上り詰めているだけあり、剣の扱いもそこそこ上手い。それでも隼翔のように一騎当千するほどの実力がないのも事実であり、現状のように圧倒的数を相手にするのは得意としておらず、数的優位さを活かされあっという間に囲まれる。


「クロードには触れさせない、よっと!」


 だが彼は今一人では無く、背後で爆音とともに砂柱が舞い上がった。

 相変わらずの馬鹿力だと、内心でそっと呟くクロードをしり目に、砂柱を作り上げた張本人はその間を長大な三日月斧(バルディッシュ)を構えながら突っ切り、砂の骸骨たちを一撃のもとに消し飛ばす。


「助かった、そのまま背中は任せたぞっ」

「もうぅ、クロードは一人で突っ込みすぎだよっ!!」


 暴風のように三日月斧を振り回すアイリスを視界の端に納めながら、クロードは骸骨の軍隊に突っ込んでいく。

 そんなクロードの突撃を苛めつつも、アイリスは右に左にと三日月斧を軽快に振り回し、しっかりとクロードをサポートする。

 見事な連携を見せるクロードとアイリス。それらをより万全な連携コンビネーションにすべく、アイリスが切り開いた道から二人の影が疾駆する。


「打ち漏らしは私たちにお任せください」

「だからアイリスちゃんたちはガンガンやっちゃって下さいっ」

「ありがとね、二人ともっ!!」

 

 いくらアイリスが軽快に三日月斧を振り回しているとしても、やはりその長大さ故に小回りは効かない。ましてや砂の骸骨たちは消し飛ばした先から次々と湧き出てくる始末。

 その結果、打ち漏らしが出てくるのだがクロードは基本的に特攻しており、また性格的にもサポートには不向き。その連携の穴を解消しているのがフィオナとフィオネだ。

 姉妹の速度はおそらくアイリスですら凌駕しており、非常識の存在を除けば当然パーティでは最速を誇る。また小太刀と言う小回りの利く武器を持つので、遊撃にはもってこいと言えよう。


「にしても一向に減らねーなっ」

「仕方ないよぅ……倒しても倒しても、同じ数だけ造られてるみたいだし。仕方ないから今の布陣を保って倒し続けるしかないよっ」

「「ですねっ、そうすればきっとハヤト様が大元を斬り伏せてくれますよ」」


 特攻で倒すクロード、大きな一撃と軽快な動きでなぎ倒すアイリス、そして縦横無尽に駆け回りサポートしながら確実に屠るフィオナとフィオネ。

 彼・彼女らの信頼を一心に背負う隼翔はと言えば、最初の一から動かず瑞紅牙を抜いたまま静かにたたずんでいる。

 だからと言って何もしていない、と言うわけではない。なぜなら隼翔の右の瞳が金色に染まっている。その瞳が捉えるのは異形の魔物。鑑定眼を使い、果たしてどのような魔物なのかを見定めようと試みているのである。

 だが、その表情を芳しくない。


「……見えない。いや見えている(・・・・・・)けど重なっていて読めないのか」


 頭の中に投影される情報。だが映しされているのだが、文字化けしているかのように文字同士が重なり合い読むことが出来ない。脅威度にしても同じ結果。

 それでも隼翔は眉を顰めながらジッと異形の魔物を見つめる。意地でも解読してやるとでも言わんばかりの執念である。 

 もちろんただ意地になっているわけではない。隼翔としても、今後のための情報収集の一環として、わざわざ時間を掛けている。決して意地っ張りで負けず嫌いという訳ではないのだ。

 

「…………時間切れ(タイムアップ)、だな」


 隼翔が観察し続ける間にも、異形の魔物は三叉槍を地面に刺して砂の骸骨軍団を量産し続けている。

 フィオナとフィオネ、クロードにアイリスと、頼りになる仲間たちが奮闘しているからこそ初期の数以上に増えてはいないがその天秤が傾くのは時間の問題。いかんせん向こうは現状無尽蔵に増えているが、こちらは体力に限界がある。

 また隼翔の魔力にも陰りが見え始める。

 それらの要素を加味したうえで、隼翔は小さく言葉を漏らしながら瞳の色を元に戻す。

 そして瑞紅牙(相棒)を下段に構え、一気に砂の海面を駆けた。


「時間を掛けてしまった悪かったな。すぐ終わらせるからもう少しだけ耐えてくれ」

「応よっ!」

「任せてくださいませ、若様」

「「こちらも問題ありません、ハヤト様っ!ところで何かお解りましたか?」」」

「ああ、少しだけな。それは終わった後にでも説明するさ」


 戦線に加わると同時に、砂の尖兵を斬り上げで難なく切り裂く。そのまま返しの刃で更に複数体の骨を砂へと返す。

 そこまで髑髏の亡者が硬くないとは言え、その切断面はとても滑らかで豆腐でも斬っているかのよう。

 それは刀と圧倒的技量の高さが有るからこそ為せる業と言えよう。

 

 その光景は敵からすれば末恐ろしいほか抱きようがないが、身内からすれば心強いに越したことはない。

 現にクロードたちの動きは隼翔が戦線に加わったあとでは格段に良くなり、殲滅速度は加速度的に増している。


「そういう訳だから、俺は一気に突っ込むからな!ここは任せた、ぞっ!!」 


 まだまだカタカタと周囲から不協和音の大合奏は聞こえてくるが、音の大きさはかなり小さくなった。

 その頃を見計らい、隼翔は足腰を軽く屈める。まだ大本である異形の魔物まで距離は開いているし、髑髏たちが壁となり立ち塞がっている。

 だが、一気に砂を巻き上げると隼翔は距離も壁も関係なしに魔物との間合いを詰める。

 その動きは檀ノ浦の戦いで義経が見せたとされる伝説の八艘跳びを再現したかのような光景。

 もちろんこの場でそれを知っているものは隼翔のみだが、それでも仲間たちだけでなく、異形の魔物すら驚いたように血走った瞳を明滅させる。


「シッ」 


 短い裂帛とともに振り抜かれる銀閃。

 それは皮膜しか存在しない翼を切り裂くように軌跡を描くが、ギンッと鈍いを伴いながら受け止められる。

 数㎜ほど瑞紅牙の刃が食い込んだ状態で受け止めるのは三叉槍。

 隼翔はその事実に嬉しそうに驚きながら、刀を滑らせるように引き、手首を返して逆袈裟に斬り上げる。


ーーーーしかし、再び鈍い音が斬撃を阻んだ。


「見ため以上に器用な動きをするなっ!」


 三叉槍の穂先が瑞紅牙の刃を弾く光景が隼翔の瞳に映る。

 しかも刃を弾かれ、体勢を崩しかけている隼翔の脇腹を狙い右側から生える長い骨の左手が勢いよく伸びる。

 手刀のように鋭く伸ばされた指。それが脇腹を抉らんとするが、掠めることすら叶わない。


「そう簡単には殺らせんなっ」


 隼翔は瑞紅牙の柄を魔物の関節部分に押し当てることで、相手に気取られないほど静かに攻撃を起用に逸らしてみせる。

 さらにはその体勢から今度は刃を立てて、上半身を支える背骨を破壊しようと鋭い突きを放った。

 だが魔物の引けを取らない動きで瑞紅牙の腹の部分を三叉槍の穂先で叩き、軌道を無理矢理逸らす。


 一進一退の高次元の駆け引き。

 どちらも到底普通の生物には出来ない動きで相手の虚を付こうするが、互いに刹那で防ぎ、両者決め手に欠ける状態に陥る。

 その中でも隼翔の声色に落胆の色はなく、嬉々とした感情がより一層濃く浮かび上がる。

 

 力と力のやり取りではなく、このような技と技の駆け引きは隼翔にとって久々の経験。

  人斬りであった頃はそれが常だったかもしれないが、この世界では恐らくあの男と戦った時以来のやり取り。

 それが隼翔を心から喜ばせ、彼の奥底に潜まり、錆び付こうとし始めていた感覚を砥石のように丁寧に、しかし鋭く尖らせ始める。


 カタカタと合奏する不気味な音楽が遠ざかり、辺りにはいつしか刀と三叉槍がぶつかり合う音だけが木霊する。

 その旋律はどんどんと加速していき、ある一定の段階になると突如として音が消えた。


「……どうやらこの辺りが限界か」


 その隼翔の呟きに魔物が応えることはない。

 空恐ろしいほどまで加速した隼翔の斬撃は次第に魔物の体躯に傷をつけ始める。

 だが、6本あった腕が減ろうとも、皮膜と骨格だけの翼が切り落とされても、獅子を思わせる下半身がいくら傷つこうとも魔物は何も発さず、カタカタと骨を鳴らすだけ。

 とても、とても憐れな物体。果たして何のために産み出されたのか。そんなことが隼翔の脳裏を微かに過る。


「……やはりそういう意味が神眼の情報にはあったんだろうな。全く、コレの作り手は何がしたいんだか」


 腕も翼も四肢も失った魔物。それでもカタカタと骨を鳴らすだけの憐れな姿。

 隼翔はそれを一瞥すると、まるで供養するかのように、手向けとして大上段から迷いなく降り下ろす。

 真っ二つに別れる魔物。胸元に埋め込まれていた魔石からはドロッと気色の悪い液体が流れ落ち、砂の海へと消えていく。

 そして全てが魔石のなかから流れ落ちた時、ようやく魔物は黒煙へと変わった。


 だが、全てが消えたわけではない。

 黒煙のなかには今も上半身を形成していた人骨が散乱している。

 果たしてコレが何を意味しているのか。少なくともこの時の隼翔はその半分しか理解出来ていなかった。


 

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