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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第2章 冒険者の都と風変わりな鍛冶師
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第2章 エピローグ 新たな門出 1

本日二話目です。

まだ読んでいない方は前の話から読んでください。


ようやくエピローグ……ただ長くなったので分割しました。次は22時更新予定。

 地下迷宮ダンジョンとは一味違った喧騒が隼翔たちの帰還を迎える。

 誰しもが地下迷宮に潜るか、あるいはほとぼりが冷めるまで待つかをこんな時間まで議論し合っている。

 そんな彼らを無視するように、隼翔はそそくさと冒険者たちの間をすり抜けてギルドの外へと足を進める。

 

 地下迷宮のジメッとした死臭漂う空気と打って変わり、カラッとした熱気漂う空気の地上。

 太陽は中天を超えたくらいで、空気は温められ気温はかなり高い。

 通りには冒険者然とした姿も見受けられ、普段とは違う光景が広がっている。

 丁度冒険者と一般人の割合が同じくらいの街中。そのせいかこの時間でもかなりの活気に溢れ、どこからか陽気な歌声が聞こえてくる。

 だが隼翔はここでも気にした素振りは一切見せず、停留所のような場所で止まる馬車にさっさと乗り込む。

 

「目的地はどちらへ?」

「郊外にある俺の家だ。場所は……」


 御者の男に屋敷の住所を告げ、休むように目を瞑る。

 いつしかガタガタと音を立てて走り出した馬車。 

 外装はシンプルで清楚なイメージを与える黒塗りで、二頭の馬に引かせる程度には大きさがある。

 車内はゆったりとした造りで、三人掛けの柔らかい椅子が対面式にあつらえられているだけで他に不要なものは一切設置されていない。完全に短時間の移動を目的とした造りの馬車だが、もちろんこれは隼翔の持ち馬車ではなく、都市内のみの移動を目的とした、言うなればタクシー代わりに巡回する辻馬車。

 ソレを利用し、帰宅へと決め込んだ隼翔。

 外と違い、ひんやりとした空気が漂う馬車内。普通なら眠たくもなる快適空間なのだが、隼翔の額には外にいた時と異なり、なぜか汗を浮かばせている。


「……俺は逃げないし、無茶もしないぞ?」


 閉じていた瞳を開き、諦めたように呟く隼翔。

 地下迷宮ダンジョンで長いようで、実は高速の移動により実現した超短い救出劇、まさにカカオ77%チョコのような濃密でほろ苦い(少しビター)な時間を過ごした隼翔は流石に怪我の影響も相まって、乗った瞬間に休もうと決め込んでいた。

 それなのに暑さで思わず眠気が逃げてしまったのである。もちろん普通じゃない隼翔は大抵のことでは汗をかくことがない。それこそいくら外が真夏ほどの暑さがあったとしても、寝苦しさなど感じるはずもない。

 それに何度も言うが馬車の中はそこそこ広く座席幅もある。また魔法と言う非常識ファンタジーな力があるので温度管理も比較的容易であり、馬車の中は初夏手前のぐらいの比較的快適な空間を実現。まさに昼寝日和ともいえるだろう。

 だが――――。


「そう言いながらすぐ動こうとするからダメです」

「それでなくともハヤト様は体質上・・・、問題があるのですから大人しくしてください」


 窘めながらも、上目遣いで懇願するという高等技術を披露して隼翔を止めようとするフィオナとフィオネ。

 三人掛けのソファにいつも通り隼翔を中心として腰かけている三人。何度も言うがここは三人掛けの椅子、それなのに両端に若干、いや子供が余裕で座れるほどの隙間がある。

 ぴゅーっと隙間風が吹きそうな椅子の両端。対して風など一切通しそうにないほど詰まった中央(・・・・・・)


「分かったよ。分かったから……少し近くないか?」

「「いえ、問題ありませんっ。むしろいつも通りの距離です」」


 隼翔は二人の熱意と降参だとばかりに両手を上げようとするが、上げられず代わりに苦い笑いが浮かんでしまう。別に傷が痛むから腕が上がらないわけではない。もちろん治っていない(・・・・・・)のだが、それでも上げるくらいは問題にならない。

 それならなぜかと言えば、汗をかいているという問題とも大きく関わってくる。


「……そんな目で俺を見るな。ついでに言うとコレはいつもの距離じゃないからな」

「いや、俺は何も言っていないが……」


 ガタガタと小刻みに揺れる馬車の揺れから護るように、あるいは緩衝材になるかのように、むにゅと至福の感覚が隼翔の両腕をしっかりと包み込む。チラッと視線を落とせば、変形した立派な双丘が目に映り、隼翔は何とも言えない表情を浮かべてしまう。

 圧倒的に近い距離感。

 確かに隼翔の腕を抱きしめながら街中を歩いたり、馬車に乗っている姉妹だが、それでも拳一つ分は身体と身体の間に距離があり、隼翔に不快な熱さを与えないように気配っている。

 だが今の距離は言うなれば完全密着。指どころか、ミジンコすら入る隙間がないほどがっちりガードされている。まるで隼翔に自由行動を一切させないと、絶対に逃がさないと体現しているかのような距離感。


 その距離感でもほかに人がいないなら隼翔は何も言わないし、渋いというか恥ずかしそうな表情は浮かべないだろう。だが生憎とこの馬車には三人のほかに二人ほど同席、剰え体面に腰を下ろしている。

 そのうちの一人に隼翔は訴えるように強い視線を送り、必死の謎の弁明をする。

 

 さしも完全に隼翔の被害妄想。

 事実視線を向けられたクロードは本当に邪推などしていなかったし、変な眼差しも向けていなかった。だからこそ完全に誤解だと言いたげに、小さくかぶりを振って見せる。

 

「……」

「そんな目を向けられても正直困るんだが……」


 だが、変に疑り深い男はボロボロの服を着た男をジーッと半眼で睨む。無駄に力強い目線にクロードもどこか辟易としたと言わんばかりに困った表情を浮かべる。


「絶対に変な勘ぐりはやめろ。俺は何も命令してないからな」

「さっきから俺は何も言っていないんだがな……というか実は何か言って欲しいのか?」


 なおも自分の被害妄想に対して釘を刺す隼翔。

 無駄に必死なその姿は地下迷宮ダンジョンで救援に現れたその人物ととても同一視できるものではなく、クロードも完全に苦笑いとなり、少しばかり茶目っ気を見せ始める。

 二人の間には出会ったばかりの頃のようなギスギスした空気は無く、ほとんど壁を感じさせない気安い言葉のやり取りが交わされる。ソレはまさに男友達同士の間で行われるスキンシップといっても過言ではないだろう。


 だがクロードの隣に座るアイリスはそうもいかない。隼翔に対する警戒心こそないモノの、未だに緊張し雰囲気に馴染みきれず、地下迷宮帰還後からずっと沈黙を保っている。

 だからと言って隼翔が積極的に気遣うことなどあり得ないし、本来なら女性と仲良くなる係のフィオナとフィオネは隼翔にかかり切り。となれば必然的に幼馴染で隣に座るクロード……のはずなのだが。


「む……」


 アイリスが一言もしゃべっていないのに気が付いているが、ソレをチラッと横目で見ては腕を組み小さく唸るだけ。


(何してんだ、こいつ?思春期か?)


 不毛な会話の節々でちらちらと視線を動かしては横を盗み見るような奇行。

 人の動きの機微に敏感な隼翔でもなくても気づけてしまうほどの分かり易い動作。完全に思春期の男子が好きな女の子を目で追ってしまう、隼翔からすればアホか苦言を呈したい行動に完全に呆れて言葉もない。

 だからと言って機転聞いた言葉をかけること出来ない隼翔もまた別の意味であきれられてしまうのだが。


「お客様、ご依頼の住所まで到着しましたよ」


 両手を姉妹に拘束されたまま、隼翔は目の前で繰り広げられる青春劇を遠い目で眺めていると、不意に馬車の揺れが収まり始め、止まった。

 ガチャリと音を立てながら開かれる扉。その向こうには御者を務めていた男と、背後には巨大な屋敷。


「早かったな。いくらだ?」

「銀貨1枚です」


 両腕を解放され、嬉しかったような悲しかったような何とも形容しがたい感情を抱きながら隼翔は財布代わりの小袋から銀貨を一枚取り出すと、ソレを御者を務めてくれた男に手渡す。

 そのまま馬車の外に出て、隼翔はグッと凝り固まった身体を伸ばし、解す。

 ズキッと疼く右腕。しかし、その痛みを表情に出すことはなく、尚も身体を軽く捻ったりと体操のような動きを繰り返す。


「暑い、な……」


 煌々と輝く太陽を目を細めて眺める隼翔。だが、言葉とは裏腹に額の汗はすっかり乾き、エスターテの風がサラサラと黒髪を優しく撫でる。


「馬鹿デカい家に住んでるんだな……。うちの実家も大概だと思っていたが、ここまでの屋敷はあまり見た事ない。さすが一流の冒険者となると稼いでる額も住んでいる場所のスケールが違うな……というか、ここにお前たちしか住んでないって本当か?」

「ん?ああ、まあ色々と訂正したり説明することはあるだろうが、確かにここには俺たち三人しか住んでいない。だから管理も大変だし、20部屋以上も余っているんだよな」


 馬車を姉妹に続いて降りてきたクロードが感嘆したように感想を述べ、横では同じようにアイリスが茫然と屋敷を眺める。

 流石名門の鍛冶貴族とあり、その収入は下手な上級冒険者よりも確実に稼いる。そして彼らマレウス一族と一部の優秀な弟子含む30人以上が住み込みながら日々鍛冶に精を出す屋敷はクノスの一等地に建てられ、その荘厳さは界隈では有名。

 その屋敷を知っているクロードですら茫然と魅入ってしまうほどの屋敷。

 地下迷宮ダンジョンでの救援の際に見せた戦闘力も相まって、素性などをほとんど説明していない隼翔のことを一流の冒険者と勘違いしても仕方のないことだろう。

 ただ、やはりこの馬鹿でかい屋敷に3人しか住んでいないという部分に関しては流石にクロードも呆れた表情を浮かべていたのだが、隼翔はそんなこと気にした様子もなく、門の横に取り付けられた石板プレートに手を伸ばす。

 手を触れた場所から波紋の発光がゆっくりと広がり、ガシャンと音を立てながら鉄門がゆっくりと開かれる。


幻想的ファンタジーと称するのか、科学的と言えばいいのか悩む仕組みだよな……)


 隼翔は帰宅時と外出時にいつもこんなことを思う。

 隼翔の住む屋敷を含め、この世界のある程度値の張る住宅には生体認証式の鍵が採用されており、鍵の持ち運びの必要がない。

 そしてその鍵の役割を果たすのが幻想的ファンタジー物質である魔力の波長。

 魔力の波長は人により千差万別とされ、正しく日本で言うところの指紋に該当する。

 

 魔力という非化学的だった概念と生体認証装置という前世に存在した個体識別するための概念。

 まさにファンタジーと科学技術の融合に隼翔はどうにも釈然とせず、日々悶々としている。


「お手伝いを雇うとか、軍勢ユニオンでも組んだらいいんじゃないか?」

「執事や家政婦(メイド)は考えたことがあるが、信用できない奴が近くにいるのは俺としても嫌でな。……てか軍勢ユニオンってたまに聞くが、なんだ?」


 整然と並ぶ石畳を踏みしめながら、後方でキョロキョロと視線を動かし続けるクロードに隼翔はふと何度も聞くが実質知らない単語について質問を返す。


軍勢ユニオンが何って軍勢ユニオン以外何もないだろ?」

「いや、そんな回答を返されても非常に困るんだが?フィオナ、フィオネ知っているか?」


 清涼感漂う噴水の横を通り抜けるとアンティーク調の両開き扉が見えてくる。

 扉の横に付けられた石板。それは門にも設置されてた生体認証式の鍵。隼翔はそれに躊躇いもなく触れる。

 ひんやりとして硬い感触が伝わり、続いて同じように発光の波紋がゆっくりと広がる。

 ややあって開かれる扉を見つつ、クロードの哲学的回答に首を傾げる隼翔。あからさまに知ってて当然と言うべき態度に、ちゃんと説明しなかった自分の責任かと頭を痛めつつ、困ったときのフィオナとフィオネに声をかける。


「残念ながら我々も冒険者の事情についてはそこまで詳しくないので……」

「申し訳ありません……」

「そうか。いや、仕方のないことだ……とりあえず中に入ってくれ」


 三人の会話にクロードは若干怪訝な表情を浮かべる。

 だが、隼翔はそれに対して何も言わず、ただ中に入ることを進めるのだった。

誤字・脱字ありましたらご報告願います。

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