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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第2章 冒険者の都と風変わりな鍛冶師
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幸せの温もり

少しだけベッドシーンが入るので苦手な方は戻ることをおすすめします。

 修練場内に漂っていた空気が肌に突き刺さるようなものへと変貌した。そのせいか、壁に寄りかかるようにして意識を失っていた少年たちがハッと目を覚まし、地面に倒れこんでいた白髪の少年はバッと勢いよく身体を起こす。そして額から冷たい汗を流し始める。


「……」


 少年少女たちの変化など気にする事なく様相を一変させたグランドは、ジッと黒髪の青年を睨む。

 睨まれた隼翔はというと、涼しい顔でそれを受け流し、あまつさえ戸惑うフィオナとフィオネのサラサラとした髪を優しく撫で始める。

 その態度は余計にグランドを逆なでし、より剣呑な雰囲気が修練場を包み込む。


「青年、名は何といったかな?」

「ん?俺は西園寺隼翔だ」


 底冷えするような声。思わず周囲では新人ルーキーたちが一様にぶるっと身体を震わせているが、隼翔がその程度(・・・・)のものに動じるはずもなく自然体のまま佇む。


「そうか、サイオンジ。君は先ほどの会話聞いていたよな?」

「ああ。冒険者なら生きるためになんでもしろってやつだろ?聞いていたさ」

「ならば君はそれを理解した上でそう言っているということか?」


 感情のない声で問うグランドに対し、軽く肩を竦めることをもって回答とする。その大胆不敵な態度に姉妹以外のルーキーたちが息を呑む。


「……いいだろう。ならば君の言う通り、そちらの少女たちから相手して……最後にサイオンジ、君と一騎打ちをしてあげよう」


 声色は冷たいのに口調だけが柔らかいので恐怖をより増長させる。

 だが相変わらず気にした様子も見せない隼翔は姉妹の背中に激励の意を込めて軽くポンと押して、そのまま数歩下がり観戦を決め込む。


「はぁ……。さて、それでは始めようか」


 深く息を吐くと、グランドの声は再び好々爺を思わせるものに戻った。その切り替えは見事の一言に尽きるだろう。

 だからと言って姉妹が怖気づくかと言えばそんなはずもなく、ダンッと硬い地面を蹴りながら使い慣れた小太刀を抜き、左右からグランドに襲い掛かる。

 その速度と連携は先ほどの犬耳の少年たちをはるかに凌駕するものであり、ただ一人を除き誰もが瞠目する。


「……おおよそFランク(新人)とは思えない速度だな」


 目を見開きながらもその声色だけは決して崩れない。その余裕を裏付けするかのように、おおよそ大剣を背負っているとは思えない身軽さでピョンと避ける。

 挟撃する形で迫っていた姉妹は急に視界から目標()が消えたことにより互いに衝突する……ということなどするはずもなく、さも当たり前のようにガッと地面を蹴り宙を駆け上がりグランドを追う。


「っ!?」


 その思い切りのいい判断と俊敏さに流石のグランドも表情を崩し、背負う大剣の柄に手をかける。そのまま引き抜かれた大剣は鈍重な音を上げながら姉妹を飛ばす。


「さすが……」

「だね……」


 表情は変えずに、二人で一つの感想を述べる。姉妹は今、グランドを挟むような格好で小太刀を構えている。

 彼女たちとグランドの間で視線をぶつかり合う。しかし、それぞれが、それぞれにぶつける視線の意味はまるで異なる。

 姉妹がグランドに向ける視線は、これがBランク冒険者の実力か、と品定めするようなモノ。それに対して、グランドが姉妹に向ける視線は、これがFランクだとっ、と驚愕に満ちたモノ。

 もちろんそれだけでグランドが負ける、ということには繋がらないのだがそれでも驚きは隠せない。


「す……すげぇ」

「何者だよ、あの姉さん方は……」

「早すぎるっ」


 その驚愕は当たり前のように新人ルーキーたちの間でも伝播し、誰もがその一挙手一投足に注目する。

 

「……」


 一転して静かな、しかし白熱した睨み合いが続く。

 それがどれくらい続いたかは分からない。だが最初に動いたのはフィオネだった。彼女は一瞬だけグランドから視線を逸らしたかと思うと、すぐさま小太刀を逆手に構え突っ込む。


「……っ!?」


 グランドは迎撃するように大剣をフィオネに向かって構えようとしたが、背後から静かながら無視できない言の葉が紡がれているのを聞いた。

 咄嗟に注意を背後に向ける。


ともしびや、灯。汝や御霊みたまでありて身を焦がす蒼き輝き放ち、我を導け」


 紡がれていく聖句。雰囲気と聖句の内容から察するに中級程度の魔法だが、無視はできない。かと言って前から迫りくる少女も無視はできない。

 どうするか、と動きを止める。その時間は1秒にも満たなかったが、危機はさらに迫っていた。


「許せよっ!!」


 フィオナが呪文を唱えきりフィオネがその刃を突き立てようとしたまさにその直前、グランドは地面を削りながら大剣をフィオナの方に向かって振り上げ、そのままフィオネの方に向かって振り下ろした。 

 別に二人を直接斬ろうとしたわけではない。だが、その二つの動作は間接的に姉妹の動きを封殺した。


「「きゃっ!?」」


 奇しくも姉妹の声が重なる。

 二人を襲ったのは小石と砂の煙幕。思わずと言った形でフィオネは突進する脚を止めてしまい、フィオナは言の葉を最後まで紡ぐことはできなかった。

 何より姉妹はグランドという男の存在を瞬間的に見失ってしまった。それは決定的な敗北を意味している。


王手チェックメイトだ」


 砂ぼこりの中から姉妹に向かって突き出される掌。そこにはかなりの魔力が凝集されている。


「くっ……参りました」

「参りました……」

 

 口惜しそうに敗北を認めるフィオナとフィオネ。その潔さにグランドはまたしても目を大きく見開く。

 もちろんあれだけの技術を誇るなら、彼我との差を理解できるのも納得するが、だからと言って敗北を完全に認めることができるかと言えば否と言わざるを得ない。

 なぜならグランドはそれこそ、姉妹より少しだけ強い程度にしか力を出していなかったのである。もしかしたら勝てるかも、そんな状況だったにも関わらず、潔く負けを認めるなど普通ならできない。


(……つまりこの姉妹は俺の隠された実力をはっきりと感じ取っていたか、あるいは同じようなことをする相手と幾度となく模擬戦をしているかのどちらか、だな)


 チラッと姉妹から視線を外し、壁に寄りかかる青年に向ける。

 自分のパーティーメンバーが負けはしたが、Bランク(上級冒険者)相手に善戦した。それにも関わらず、依然として感情を一切読ませない表情を崩していない。あるいは姉妹があれくらいはできると分かっていた(・・・・・・)とでも言いたげにすら見えてくる。


(……仮にそうだとしたら、彼の実力は私の想像をはるかに上回ることさえありうる)


 グランドの背筋を嫌な汗が伝う。

 そんなことはあり得ないと心が否定する。だが、とある経験が眼前の男の不気味さをより際立たせる。


上級冒険者(強者)となったものは普通それだけの雰囲気を纏ってしまう。それはどんなに修練しても隠しきれるモノではない。だが、昔一度だけ会ったSランク冒険者……彼からは目の前の青年同様に何も感じなかった(・・・・・・)。まるで器の次元が違うとでも言うかのように、な)


 脳裏を過るは小柄な背中。見た目も伸長同様に可愛さを残してはいるが、それに反して実力はこの都市最強の一角を担う化け物。

 そんな男と目の前の青年の姿が重なる。だが、そんなことはあり得ない。なにせ目の前の青年はまだ新人(Fランク)。なにが起きてもSランクと同じ実力を備えているとは思えない。


 そのことを必死に否定しようとしてるグランドに対して、隼翔はショボーンと頭と尻尾を項垂れさせている少女たちに声をかけながら、優しく頭を撫でている。


「うぅ……。せっかくハヤト様に稽古をしていただいたのに……」

「負けてしまいました……」

「まあ、仕方ないさ。それよりもBランク冒険者に実力の一端を引き出させたんだ、十分にお前たちは成長している。この調子で今後も精進しろ」


 はいっ!と元気よく返事する姉妹を眺めた後、隼翔は壁から軽い動作で背中を離し、ゆっくりとした歩調で修練場の中央――――グランドの立つ前まで歩みを進める。


「「……」」


 互いに無言のまま佇む。その距離は5mも無く、上級冒険者ならば数舜の間合い。

 それにも関わらず、隼翔は己の得物(相棒)である刀に手を掛けようとはしない。

 その佇まいがたとえ気に入らなくても、グランドは何も言わない。それを言ってしまえば、己の経験を否定してしまうことになるから。

 

「うっ……」

「はわわぁぁ……」


 だからこそ、か。無言の圧力が増し、それを感じ取った少年・少女たちが悲鳴を上げ身体を震わせる。それは先ほどまで大丈夫そうだったフィオナとフィオネすら小さく震えだすものであるのだから、上級冒険者が本領を発揮し始めたと言っても過言ではない。

 その本流を一手に浴びる隼翔だが、やはり動じた様子もなく、まるで暴風を受け流す柳の如く自然体を貫き、そして不意に目を伏せる。


「せいっ!!」


 その一瞬の隙ともいえるタイミングで、短い気勢とともに本来ならばこの新人に教育をする場で見せるべきではない恐るべき踏み込みを見せるグランド。数舜で間合いを潰すと同時に振りかぶっていた大剣を隼翔の脳天目掛け振り下ろす。

 狙われる隼翔はと言えば、ただ先ほどと同じように微動だにせずただ目を伏せている。


(やはり杞憂だったか……。ならばこのまま寸止めでビビらせておわ、っ!?)


 この場にいる誰もが自分の速度について来れていない、そのことに安心して腕の力を緩めようとした瞬間、腕に何かが触れた。

 思わず目を見開き、それを確かめる。触れているのは体温を感じさせないほど冷たい掌。そこに恐怖を感じてしまい、思わず緩めかけていた腕に力を戻してそのまま振り抜いた。


――――ドカッ!!


 鈍い破砕音とともに硬い地面が捲れ上がる。

 誰もがその光景に目を疑う。振り下ろされた金属の塊、砕かれた地面、舞い上がる砂煙。

 これだけを見れば誰しも生意気な新人ルーキーを脅すためのパフォーマンスにしか見えない。だが、やはり表情を一つ変えない青年の存在がそれを否定する。


「ルーキーをビビらせる目的にしては随分と力籠っているな」


 すぐ真横の地面に大きなクレーターを作った大剣を眺めながら静かに呟く隼翔。対して、大剣を振り下ろしたグランドは表情は見えないが、放つ雰囲気は先ほどまでの剣呑なモノではなくなっている。


「…………」


 黙るグランドの視界には赤黒く変色した己の左腕が微かに映る。


「さて、俺としてはこのまま続けてもいいが……その腕で無理するのはお勧めしないが?」


 後半はまるでグランドを気遣うように周囲には聞こえない声量でそっと伝える。それは上級冒険者としての誇りと矜持を踏みにじるものではあったが、グランドは静かに大剣を引いた。

 そのまま背中に戻すと、悠然と構える隼翔の前に立つ。


「一つ聞かせてくれ……。君は本当に"人"なのか?」

「ふっ……。周りがどう思うのかは知らないが、少なくとも俺は人だと思ってるさ」


 人なのか?という問いかけに思わず笑みを零しつつ、人を食ったような答えとともに手を差し出す。その行動にグランドも好々爺のように、そうか、と笑い握手を交わし、講習会は幕を閉じた。




 日はすっかり暮れて、夜の帳が下りている。

 あの後、隼翔はギルドを後にする際に白髪の少年に何やら熱視線を送られていたが、まるで気が付いていないかのように振る舞い、そそくさと立ち去った。


「……なんか久しぶりだな」


 そして隼翔は現在、宿の一室――――その窓辺に備えられたテーブルセットに腰かけながら夕闇に染まった空を眺めている。

 テーブルの上には紅茶の注がれたカップ。だがその香りは一か月ほど前にヴァルシング城で飲んだ紅茶とはまるで違い、ほとんど香りがない。しかし嫌な顔はせずに隼翔はそれに口を付ける。

 ふぅ、と窓に向かって息を吐き出すとガラスが白く染まり、また透明に戻る。そんな子供の遊びのようなことを繰り返していると不意に後ろから声がかけられる。


「ハヤト様、閨の準備が整いました」

「いつでもお休みになれます」


 日中の模擬戦の疲れを一切見せず、恭しく佇むフィオナとフィオネ。そんな彼女たちだが今は服装が様変わりし、ゆったりとしたワンピースのような服を着ている。もちろん双子だからと言って同色、というわけではなくフィオナが黄色でフィオネは青。

 そんな姉妹の服装を眺め、隼翔はゆっくりと立ち上がる。


「悪いな。だが、とりあえず寝る前に今後のことで話しておくことがあるから座ってくれ」


 失礼します、と頭を下げながら腰を掛ける姉妹。

 現状を姉妹は隼翔の奴隷という身分ではなく、また隼翔自身もその扱いをする気はないと告げているのだが、双子は敬う気持ちが強いためにこのように礼儀正しいことが多い。

 だからと言って隼翔は主人面することなく、今のようにティーカップに紅茶を注ぎ入れ、姉妹の前に配膳するなどはたから見ればなかなかに奇妙な関係でもある。


「ありがとうございます。それでお話とは?」


 差し出された紅茶に口を付け、一息つくとフィオナが尋ねる。


「とりあえず晴れで冒険者になったわけだが、俺たちの目標は理不尽に対して生き残れるようになるほど強くなることだ」

「はい!」

「わかっていますっ!!」


 この都市に訪れた目的を確認する隼翔に対して、手を握りしめながら力強くうなずくフィオナとフィオネ。

 その姿を確認したところで本題へと移る。


「それで、だ。とりあえず上級冒険者レベルにはなってもらう。まずはそこが当面の目標だな」

「「が、がんばります」」


 その最低目標(ライン)に思わず言葉を詰まらせる。それも仕方ないだろう、なんせ上級冒険者は選ばれた者しかなれないのだから。

 それでもそこが最低限と言われて抗議しないあたり、いかに自分たち、もとい隼翔()狙うあるいは隼翔を狙う相手が強大か理解できているというものだろう。


「ま、向こうの出方も分からない以上期間は設けるつもりはない。だから焦らず、今までの速度ペースで成長しろ」


 気負いかけている二人を安心させるように軽口を叩きながら頭をクシャクシャっと撫でる。撫でられたおかげでフィオナとフィオネは気持ちよさそうに目を細める。

 姉妹のその緩んだ表情を微笑ましげに眺めつつ、思い出したように言葉をつづける。


「それともう一つ。この都市にどのくらいの間滞在するか分からない以上、どこかに家を買おうと思うんだが……」

「家……?」

「ですか?」


 コテンっと首を傾ける姉妹にその理由を事細かに説明を始める。

 以前まででは確実にしなかったことだが、やはり二人には自分の正体を含めほとんどを話した以上運命共同体であり、また二人を好ましく思っているからこその光景だろう。


「……つまりお金の節約、と」

「秘め事が多いから、ということですか?」

「まあ端的に言えばそうなるな」


 二人の理解の速さに、うんうんと軽く頷き、そのまま椅子から立ち上がる。

 グッと軽く伸びをしながら窓の外に耳を傾ける。さすが冒険者の集う都市というだけあり、通りを歩く人の数も多く、時間にして夜更け間近にもかかわらず喧騒がより強くなったようにも思える。


(……あんな風に騒いだことないな)


 二度の前世の記憶を思い出しつつ、自分には似合わないと小さく首を振る。

 そしてそれを忘れるかのように備え付けられた3つあるベットのうちの中央に寝転がる。


 隼翔が寝転がると同時くらいに姉妹も椅子を立ち上がり、それぞれのベッドに移動したのだろうと思い込み目を軽く瞑る。だが、左右のベッドに潜り込んだ気配がなく、むしろサイドから視線を感じゆっくりと瞼を上げ……訝しげに尋ねた。


「……何してるんだよ?寝ないのか?」


 天井を眺める隼翔の視界に映りこむ二つの顔。

 泳ぐ視線に、忙しなくに動く頭、紅に染まる頬。どう見ても不自然で挙動不審。

 この一か月、三人は幾度となく同じ場所で寝てきた。と言ってもあの出来事以来、基本的に人里を避けていたので大抵野宿だったのだが。

 そのため同じ空間、ひいては近くで寝ることに隼翔は危機感は覚えてないし、隼翔自身姉妹にそのような危機感を与えるようなことはしていない。

 よって隼翔と姉妹の関係を一言で表すなら、友達以上恋人未満というのが妥当だろうか。

 

(……何かあるのか?)


 だからこそ問いかけに応えず、かと言ってそれぞれのベッドに戻らない姉妹を不審に思い隼翔はゆっくりと身体を起こし、そのまま交互に姉妹の表情を眺める。

 さすが双子というだけあり、その紅潮した表情は普通の人間には区別が付かない。もちろん隼翔にはどちらがどちらか尻尾の数を見なくてもわかるのだが。

 閑話休題それはともかく、その表情を見て隼翔は何となく状況を理解した。そして、はぁ、と小さく息を吐き出しながら頭を掻く。


「……お前たちにそいうことを強要するつもりは一切ないと言ったはずだが?」


 呆れたように二人に告げる。だがその表情は決して呆れたようなものではなく、むしろバツが悪そうにも思える。

 隼翔は別に二人が嫌いなわけじゃない。むしろ好意を持っていると言っても過言ではないし、さらに言えばお互いに気持ちも通じ合っているという状況なのだから。

 それでも関係を持たなかったのはいくつかの理由がある。その一つはやはり己の経験の無さだろうか。だがそれも言ってしまえば些細な問題でしかない。

 本当のところは姉妹のことを思っているからこそ、つまり……。


「……いや、これは俺の逃げ、だな」


 意気地のない自分に対して、大きく嘆息を吐きながら頭を掻く。


「確かに俺はお前たちと関係を持つことを避けていた。だがそれはお前たちが嫌いなのではなく、むしろ好きだからだな。話したとは思うが、俺はお前たちより長い時間を生きていた。だが、その反面でそのような経験はないから、二人をリードしてやることもできない。まあそれは本当に俺の下らない自尊心プライドという些細な問題に過ぎないんだがな……」


 そこで一度言葉を区切り、フィオナとフィオネを己のベッドに座るように促す。

 二人はガチガチに緊張し顔を真っ赤にしながらも従順にベッドに腰かける。

 微動だにしないほど緊張している姉妹を、隼翔は落ち着かせるように後ろからそっと抱きしめる。最初こそ隼翔に抱きしめられ身体をビクッとさせたが、その心地よさと安心感から身体から不要な力が抜けた。

 隼翔もまた、姉妹の優しい香りに心を安らげつつ、ゆっくりと口を開く。


「……女の幸せを俺は詳しくは知らないがおそらく好きな男の子を宿し、抱くことなのだろう?」

「まあ、そうかもしれないですね」

「まず聞くが、人族と獣人族の間に子はできるのか?」

「それは大丈夫です。もちろん普通よりは出来辛いそうですが、可能です」


 その答えを聞いてまずは一安心とばかりに息を吐く。その隼翔の吐息がフィオナとフィオネの耳朶をくすぐったのか、ふぁー、と可愛い声が部屋に響く。

 その声に隼翔は思わず笑みを零しつつ、話を続ける。


「前提は大丈夫としても……俺といれば子を抱くのはかなり先になるぞ?それでもいいのか?」


 後悔しないか、と言外に尋ねる。

 その優しさに姉妹は喜びを爆発させるように、隼翔の身体に己の腕を力強く回す。


「後悔しません。むしろそこまで考えてもらえるなんて幸せですっ」

「ですので、ハヤト様……どうか……」


 懇願する視線、潤み見上げる瞳、上気する頬、熱い吐息。それらはすべて隼翔の男としての本能を最大限にまで高めるモノだった。


「俺も初めてだ……正直優しくはできないから覚悟してくれよ」


 本能に従うまま、しかし優しくフィオナとフィオネをベッドに押し倒す。姉妹もそのギラつく隼翔の視線に恐れるどころか、女としての喜びを感じる。


 響く嬌声と喘ぎ声、卑猥な水音が室内を淫乱な空間へと染め上げる。しかし、それは外の喧騒に掻き消され、窓の外から差し込む紅の明りだけが三人の情事を見守ってた。

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