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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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カラスタチノチカイ

お久しぶりです。

知らぬ間に年が開けておりました……遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。


本当は年末には投稿したかったんですが、40℃近い熱をずっと出してました……今も完治せず状態です。

インフルエンザじゃないのが救いかもしれませんが……皆さんもお気をつけください。


前置きが長くなりましたが、本年もよろしくお願い致します。(温かい目で見守ってください(笑))

 ギルドで勇猛なる心槍(ガ・ジャルク)とサーシャによる会談が行われている頃、明日から始まる祭りの中心となる闘技場の舞台上に人影があった。

 

「……明日、か」


 闘技場の外からは明日からの熱狂を待ちきれないとばかりに騒ぎ立てる冒険者たちの喧騒が響き、彼らをより盛り上げる酒場の灯りが闇夜を切り裂くように煌々と空を照らす。 

 星々は霞み、生憎と幻想的な夜空は望めない。どちらかと言えば、現代の都会を思わせる、異世界には珍しい夜空だ。


 それでも闘技場は別空間のように闇が落ちており、舞台の上に佇む人影を白日のもとにさらけ出さない。

 男か女か、老人か子供かすら分からない。ただ、一つ言えるのはその人影が遠目に見ても悲しげだと言うことだけ。


「僕は……どうなるんだろう……」


 雲の切れ間から差し込む淡い月光。

 風が静かにそよぎ、ふわりと砂塵を舞わせた。

 その瞬間、闇夜に浮かび上がったのは鳥の尾羽のように長い後ろ髪。シルエットの線は全体的に細く儚く、どこか鴉を連想させる。

 

「……決して自由には羽ばたけない。決して空を望むことは出来ない。なんで僕たちは生まれながらに不自由なのだろう……」


 雲間に浮かぶ夜月に向ける独白。溢れる言の葉は全て自分を嘆くモノばかり。

 決して檻に閉ざされている訳ではない。決して鎖に繋がれている訳ではない。それなのに、その身は大空を自由に飛び回ることは出来ない。見えない何かに身体は地面へと縫い付けられている。


「それでも僕は独りじゃない……それが唯一の救いか……」


 いつか語り合った夢。いつか掴みたい希望。いつか望みたい果てない世界。

 互いに励まし合い、誓い合った仲間たちはもう片手で数える程にまで減った。それはとても悲しいことで、やるせなさが積っていく。

 しかし、だからこそ誰か一人でも手を伸ばし掴み取って欲しい。全員の誓いと想いを秘め、成就させなくてはならない。

 それが消えていった仲間と今をともに生き抜く仲間たちとの約束。


「絶対に護ってみせる……例え僕が僕でなくなり、ここまでの命だったとしても……必ず」


 吊るされる剣帯から細剣ほど痩身な剣を抜き放ち、天に切っ先を向けて片手で構える。


 幼い頃、檻に入れられ鎖に繋がれた時には毎夜のように泣いていた。捕まったことへの悲しさもだが、半端な自分に居場所が無かったことも涙が止まらない原因だった。

 そんなときに助けてくれたのが同じ檻にいた仲間たち。彼らは辛い境遇のはずだが、それでも必死に慰め、助けてくれた。

 多くの励ましと言葉があったからこそ、ここにいることができる。


 だから今度は自分が助ける。もういなくなってしまった彼らに恩は返せなくとも、彼らの意志を継ぐことはできる。


「だから皆、見ててね……僕の誓いを」


 檻の中で誰かが偶然手に入れてきた一冊の絵本。

 国のため、仲間のために立ち上がった騎士と仲間たちが苦難と困難の末に平和を取り戻す――――そんなとてもありふれたお話。

 しかし、檻の中にいた彼らにとっては憧れであり、空想であり、希望でもあった。

 ボロボロになるまで皆で読み回し、擦りきれるほどに登場する騎士たちに自分たちの姿を重ね、語り合った。


 いつか檻を出て、幾重にも降り注ぐ困難と苦難を越えて、必ず物語に登場した見たこともないような広い世界を見るのだと。


 その夢を、希望を、空想を決して色褪せさせないようにと騎士たちの振る舞いを辛いときには真似た。

 それが、今彼女の構えた――――騎士の誓いだ。


「これこそが僕たちの誓い……決して縛られることはない唯一の想い」


 小さく、されど力強くハッキリと言葉を剣の鍔に向け、儀礼的な納刀を以て、帯剣の構えを取る。


 月光は雲間に消え、舞台には再び闇の帳が降りる。

 そして、そこには既に人影は無くなり、闘技場はひと度の静寂が覆った。




 こうして様々な想いが交錯し合う、後の歴史に刻まれる闘武大祭が静かに幕を開けようとしていた。

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