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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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中心は

お久しぶりです。

長々と更新できずにすいません……まあ、待っていたかは別として。


7月から忙しくて書く暇がありませんでした(言い訳ですね)

決して勇者に興じていた訳ではありませんよ?(笑)


それはともかくとして、これからもなるべく更新できるように頑張ります

 たった一週――――7日間にも満たない、ほんの短い時間しか経過していないはずなのに、敷居を跨ぐと同時に館まで続く整然とした石畳も、涼しげに水飛沫を飛ばす噴水も、熱意を感じさせる工房も――――何よりも家族と言っても差し支えのない仲間たちが待つ古風な洋館も懐かしく思えてしまう。


「帰ってきたな」


 修練と呼ぶにはあまりにも濃密で、苛酷、加えて現実離れした未知と環境の地下迷宮ダンジョンをたった一人で探索し続けた。

 地下迷宮から屋敷までの道のりとちょっとした寄り道で日常の息遣いを肌で感じ取ったとはいえ、この場所こそが隼翔にとっての日常が息づく場所。

 そのような想いがあるからこそ、門の外側から古風な洋館を眺め、知らずのうちにその言葉を漏らしていた。


 全身を覆っていた我慢できてしまう(・・・・・・・・)ほどの激痛は鉄製の門に設置された石板に手を当てた瞬間には感じなくなり、のし掛かっていた倦怠感も不思議と消失した。

 他方で、心は安らぎを渇望するように隼翔を急かし、仲間たちの顔をみたいと感情が昂りを見せる。

 身体と心――――相反する反応を見せているようで、影響している根幹は同じモノ。


「1年にも満たない時間でこんなにも変われるのか……いや、全ては俺を育ててくれた母さんと救ってくれた冥界の女神(メガミサマ)のおかげだな」


 ガシャっと重苦しい金属音が鳴り、続いて主を迎え入れるように門が自動で開かれていく。

 古き良き日本庭園のように整えられた古道のようでありながら、薫る情緒は洋の装い。

 すっかり見慣れた、見慣れない光景。当たり前じゃなかった、当たり前。

 矛盾しているけど、今の隼翔にとっては矛盾ではない日常に、スーッと胸いっぱいに空気を吸い込んで、弾むような軽い足取りで石畳を踏みしめる。


 水しぶきに髪を濡らしながら噴水を横切り、真夏を思わせる熱風を頬で感じながら工房前を通り過ぎれば、やがて洋館が一層その大きさを主張する。

 改めて思う、大きさ。部屋数は恐らくは20以上はあるであろうし、他にも娯楽としての大浴場や修練場があるのだから、普通に考えて貴族の屋敷と大差はないのだ。そんな場所に住んでいるのはたったの6名のみ。


(……冷静に考えれば相当麻痺しているってことだな)


 ここが当たり前であって、日常が息づいていると感じる。

 今さらではあるが、常識はずれも甚だしと、隼翔は自分の価値観と感覚があからさまなまでに麻痺していることに小さく笑みをこぼす。


 普通ではあり得ない。だけど、今までの生きざまを思い出せば、今ほど普通・・で、楽しい時間は無いと断言できてしまう。


「まあ、それが一番の麻痺かもな」


 小さな笑みを依然溢したまま、ゆっくりと古風アンティークの扉に手を掛けようとして、ふと扉の向こう側の騒がしさを感じ取った。

 聞こえてくるのは焦ったような、それ以上に嬉しそうな話声と慌ただしくも浮かれるような複数の足音。


「「ハヤトさまっ!!」」


 スッと一歩下がると同時に勢いよく開かれる扉。

 そこからまず飛び出してきたのは2つの似通った人影シルエット


「フィオナ、フィオネ。ただいま……というかよく俺が帰ってきたと分かったな」

「それは分かりますよ!」

「だってずっとお帰りを待っていたのですから!」


 パタパタと元気よく揺れる金色の尻尾。

 目尻は嬉しさからふにゃりと垂れ、全身で帰還を喜ぶように隼翔の細い体躯を左右から抱きしめ、スンスンと懐かしむように匂いを嗅いでいる。

 数瞬、汗臭いとか血の臭いがすると言った理由で、姉妹をやんわりと離そうかと考えた。

 だが、二人の嬉しそうな姿と、何よりも温もりを享受している自分が離すのは惜しいと訴えているのに気がついてしまい、それらの言葉はいつの間にか飲み込まれていた。


「よお、ハヤト。流石のお前も疲れているようだな」

「お帰りなさいませ、若さま」

「ああ、ただいま……流石かは分からないが、やはり地下迷宮ダンジョンは魔窟だな。改めて身に染みるほどには疲れたよ」


 次に扉から姿を見せたのはクロードとアイリス。

 涼しげな浴衣と少しばかり湿った頭髪から推測するに、恐らく二人とも風呂上がりなのだろう。

 

(ここで二人で入っていたのか、と尋ねるのは無粋の極みか?)


 内心でそんな悪戯心に擽られつつも、隼翔自身もからかいの言葉を出すのが億劫に感じるほどの疲労から薄く笑みを浮かべるのがやっとといった様相で別の言葉を返す。


「普通は単独で7日近くも探索するなどあり得ませんから……疲れて当然ですよ」

「そうだな……ただ、その分得られるモノも大きかった」


 アイリスからの呆れとも称賛とも言えない言葉に同意しつつも、得られた経験の大きさに、隼翔は疲れの中に満足感を示す。

 

 そんな扉前での団欒を恥ずかしげに覗く影。

 扉横から半身だけ覗かせ、時おりユサユサと束ねられた黒髪が見え隠れする。

 相変わらずの控えめで恥ずかしがり屋な態度。だが、それこそが彼女の無垢な優しさの根源であることには違いなく、隼翔は優しい声で言葉をかける。


「ただいま、ひさめ。身体の調子はどうだ?」

「あ、その……お帰りなさい、ハヤト殿。身体は、その良くなりました」


 おずおずと遠慮ではなく、嬉しいけど照れている様子で扉の影から姿を表す。

 艶やかな濡れ羽色の髪。透き通るほど白色の頬を僅かに薄紅に染め、漆黒の瞳はアワアワと恥ずかしそうに動いている。

 格好こそ、クロードたちとは対照的な素肌を殆ど晒さないようなモノトーンの装いで大和撫子という言の葉が良く似合う。だが、恥じらう態度によってクールな印象ではなく、庇護欲に駆り立てられるのはひさめという少女だからであろう。


「そうか……うん、確かにすっかり顔色も良くなったみたいだな」

「あぅ……」


 フィオナとフィオネを右腕で抱き留めながら、左手で歩み寄って来たひさめの前髪を優しくあげる。

 ここ数日――――正確には隼翔が地下迷宮ダンジョンに潜り初めてからの間は少しばかり影を落としてた表情にも、艶が戻っている。

 もちろん、隼翔の記憶にあるのは地下迷宮へと潜る日の疲労が溜まっていた少女の顔だけだが、その時と比べても血色も明るさも段違いだ。


「これは流石というべきか……やはり俺たちの中心にハヤトがいるってことなのか?」

「それはそうだよ!」


 幸せそうに隼翔に体を預ける3人の少女たちの姿を見ながら、クロードとアイリスは安心したように頬を緩めるのだった。

 

 ……しかし、それもつかの間。

 数分後に隼翔の身体がボロボロだと知った少女たちの声にならない声が響き、一転して別の意味で大騒ぎになったのは語る必要もないだろう。

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