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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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嫌われてる?

お久しぶりです……かなり更新が遅くなりました……申し訳ありません。

これからも……不定期になるかもしれませんが、ぜひ読んでいただけるとうれしいです……

「いや、助かりましたよ。冒険者さん!おかげでたくさん買えました」

「もうアシュト母さん……見ず知らずの冒険者に荷物運びをさせるなんて」

「むっ!?それは聞き捨てなりませんよ、リファちゃん!!私が無理やり荷物持ちさせるはずないじゃないですかっ」


 石造りの灰色の外観。

 夕刻にもなれば、冒険者たちの喧騒が歌として響き、ジョッキをぶつけ合う音が言霊のように鳴り続ける。踊るように見麗しい売り子たちが酒と美味な食事を配膳し、癒しと活力を獣のように餓えた冒険者たちに与えている。

 しかしながら、今はまだ夕刻前どころか昼を少し過ぎた程度の時間帯。

 残念ながら冒険者たちの大合唱も無く、ジョッキを重ねる音もしない。ただ、昼時でも"実り女神の集い場"はおおよそ繁盛しているのだろう。裏口にいる隼翔の耳にも、目の前にいる童女と冷たい印象を与えるエルフが繰り広げる会話以外にも、店の中からは賑わう声が聞こえてくる。


「無理矢理以外に何があるんですか?見ず知らずの冒険者に運ばせているこの状況で……」

「これはこちらの冒険者さんの好意であり、出費はかからないのです!」

「まあ、確かに何かを要求するつもりはないが……」


 本当の親子のような会話を展開する小人族ホビットとエルフに隼翔は苦笑い混じりに言葉を挟む。


「全くもう……最初から私を連れていけば問題なかったと思うのですが?」

「むぅ……だってリファちゃんを筆頭にみんな荷物持ち嫌がるじゃないですか!?」

「それでも言われれば付き添いをします。ましてや、こんな状況になるならなおさらです」


 しかし、隼翔の言葉は無かったことのように流され、あまつさえ仇を見るように、キッとエルフの少女に睨みを効かされる。

 明確な殺意こそないが、ゾクッと背筋が凍るほどの迫力。神に愛され、万象すらも虜とする美貌と称されるはずの見た目も、今は悪魔・・に取り憑かれたと表現するのが適当とすら感じてしまう。


(こんな状況とは正しく俺がここにいるってこと。……なんでこんなにも目の敵にされているだろうか?)


 思い返せば、隼翔と目の前のエルフは出会い頭から嫌悪な、より正確に示すなら隼翔が一方的に目の敵とされている。

 隼翔が何かをした、というわけではない。だが、どうしてかエルフの少女に睨み、一方的に警戒心を抱かれている。

 その隼翔の疑念を悟ったのだろう。アシュトはスススッと見た目通りの小さい動きで近寄り、誤解しないでほしいと弁を述べる。


「ごめんなさいね。荷物持ち……じゃなくて、金づる……でもなくて冒険者さん。リファちゃんは悪い娘じゃないんですよ……ただ、少しですね……」

「いや、気にしてない。というか、あんたの方が余程だよ」


 しかし、弁解の言葉があまりにも狙っている(・・・・・)のかと勘ぐらせるほどお粗末な内容だっただけに、エルフ娘を視界の隅におさめたままなんとも言えない表情しか出来ない。

 だが、当の小人族はと言えばどこ吹く風と言わんばかりに、「なんのことでしょう?」とあざとく小首を傾げている。


(これが場数・・の違いか?)


 場数という言葉が果たして何を指しているのか、それは隼翔にしか分かりえぬことだが、少なくとも色々な意味が込められているというのは一定の敬意を払っている彼の態度からも想像できる。

 そして、それは一見すれば打ち解けあっているように見せながらも、一部の隙も見せないアシュトも同様かもしれない。


「アシュト母さんと貴方がどのような関係なのかは存じませんが……少なくとも私が貴方に心を許すことなどあり得ませんので」


 しかし、そんなことを知り得ぬリファは、目も合わせようとせず、隼翔が運んできたパンパンに膨れ上がった背嚢を引ったくるように持ち上げ、そのまま裏口から店内へと消える。

 

(……復讐者というよりは、罪過に押し潰されそうって感じか?)


 エルフの華奢な体躯にはさぞや重いであろう背嚢を軽々と持ち上げ立ち去った後姿に、隼翔はどうしてか今にも押し潰されそうだと印象を抱いた。

 もちろん、それは単なる勘違いの可能性が高い。なぜなら隼翔とリファは気心知れ合う仲でも、長年競いあったライバルでもなく、言の葉にしても業務的にしか交えたことがないのだから。


「心根は本当に優しい子なのです……ただ、深く刻まれた傷と背負わされた十字架、何よりも逃れられない記憶くさりが彼女を苦しめてるのです」


 悲しみは心を蝕み、怒りは視野を奪う。

 やがて為人ひととなりは変容して、別の何かへと堕ちていく(・・・・・)

 詳しいことは一切語られないが、それでも語り手の表情と言葉の重さ、そして込められた想いがどれ程の過去を華奢な背中に負わされているのかを嫌でも教えてくる。

 そして、エルフの少女が何かへと堕ちないようとどうにか模索しているアシュトの想いもまた、沈痛なカノジョノ様子から分かってしまう。


「……さっきも言ったが、本当に気にしていない。俺に何か出来るわけでもないんだからな」

 

 だからと言って同情を抱くことはしない。

 それは薄情でもなければ、一方的とはいえ恨まれているからでもない。

 なぜならここで抱く同情とは憐れみにしかならず、そんなもの深い悲しみや憎悪、あるいは憤怒を宿す者にとっては余計に火に油を注ぐモノであると隼翔自身がよく知っている(・・・・・・・)からだ。

 加えるなら、彼の言葉通り何か手助けを出来るわけでもないし、それを望んでなどいないと理解できているから。


「ええ……助けることは出来ないかもしれない。けど、リファちゃんのことを誤解しないこと(・・・・・・・)は出来ると思うのです」


 だからこうして話しているのです、と付け加える姿は子を心配する母親そのものであり、アシュトという小人族ホビットの優しい人間性と母性が垣間見ることができる。


 それを羨ましい、あるいは懐かしいと無意識のうちに求めてしまうのは隼翔の特殊とも言える生き様に起因してしまうだろう。

 彼は知らず知らずのうちに小さな姿に在りし日の記憶を重ね合わせ、そっと漏れそうになる言葉を堪え忍ぶように飲み込んだ。

  

「……そうかもな。さて、それじゃあ俺は役目を終えたし行く。家で待たせてる奴らがいるからな」

「本当に助かりましたよ、冒険者さん!割引はしませんけど、いつでも来てくださいね!」


 代わりに小さな声で肯定の言葉を発すると、そのまま逃げ足すように身体の向きを大通りへと向けて、大股で闊歩する。

 背後ではすっかり元の商売人の笑みを浮かべたアシュトが、童女らしい全身を使った動作でブンブンと手を振る。

 内容が内容だけに普段であれば苦笑いの一つでも浮かべてしまっただろうが、今の隼翔にとってはどうしてか心地好さを感じてしまっている。そして、同じだけの寂しさも。


「……早く皆に会いたいな」


 路地から一歩踏み出した大通りで空を見上げると、陽光はすでに中天を越えて、昼過ぎだと訴えるようにじりじりと地上を暖めている。

 その暖かさをもっと肌と心で感じたい――――そのような想いがいつの間にか言葉として溢れ、隼翔の歩みをいつもよりも早いものに変え、いつも間にか彼を仲間たちの待つ家へとたどり着かせていた。

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