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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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幕間 物足りない日常

1週間で更新したいと言いながらこの始末。

でも頑張りますので応援よろしくお願いします。

 しん、と静まり返る室内。

 壁に飾られた木剣や木刀はどこか寂しげに見え、漂う空気も普段の修練場と違って弛緩気味。

 張られた床板こそ、ピカピカに磨かれ毎日手入れされていることが伝わるが、ここ数日の間に修練が行われているかと言えば恐らくは否。


 なにせ木剣同士がぶつかり合う乾いた音も、力強く踏み込まれる足音の木霊もここ数日は鳴りを潜め、聞こえてこない。


 そんな部屋の中心に、ひさめはポツンと正座している。


「…………」


 腰には宝物である愛刀が携えられているが、格好は普段の道着ではなく地味めの私服。

 この広い屋敷に住み始めてからすっかり食料事情は解消され、加えて日々充実した生活を送っていた成果として健康的な艶やかさと年齢相応の少女らしい無垢な笑みを作っていたのだが、ここ二、三日はやや減少傾向が見受けられる。


「……どうすればいいのでしょう」


 差し迫る闘武大祭・本選。その期日はもう2日もすれば訪れてしまう。 

 恐らくだが、他の本戦出場者たちは各々の方法で今頃は身体を動かしながら、最後の調整に入っている頃合い。

 それらに対して、ひさめはと言えばここ数日は身体を動かすどころか、刀すら満足に振らずに、ただこうして時間の許す限りこの修練場で何をすることも無く座り込んでいる。


 その甲斐あってか、予選で溜まりに溜まった疲労や心的負荷はすっかり回復したのだが、ひさめとしては鍛錬できないことに逆に不安を覚えている。

 もちろん本選の出場者たちはこの冒険者都市だけでなく世界各国から集まる猛者たちばかりであり、ひさめからすれば全員が全員格上。

 そのため、今さら剣を振ったりしても、特訓をしたところで彼女が勝ち抜く可能性が高まることはまず無いだろう。

 しかし、そうと分かっていても足掻きたくなる、あるいは動きたくなるのが人の性であり、加えるならひた向きな性格をしたひさめと言う少女なのだろう。


「……動いても変わらない、とはわかっていますが……」 


 身体を動かしたい。あるいは動かさなくてはならない。

 そんな欲求に突き動かされるようにして、正座のまま愛刀を腰だめに構え、ひさめは抜き放とうとするが、寸前のところで抜刀しようとした右腕が止まる。


「……うぅ、やはり不味いですよ、ね……」


 鯉口を切るか、切らないか。

 そんな状態で手を止めるひさめの脳裏には最愛の人の姿が過る。


――――決して無理をするなよ


 それは数日前、隼翔が出ていく前にかけてくれた言の葉。


「やっぱり……ハヤト殿の言いつけを守らないとだめです……よね……」

 

 ひさめにとって隼翔は恋人であり、同時に師匠のような存在だ。

 だからといって厳しい子弟関係にあるわけではなく、ここでひさめが約束を破って身体を動かしたところで隼翔は苦笑いとともにやんわりと苛める程度にしかしないだろうし、怒ることはまずあり得ない。

 それでも、ひさめとしては約束ごとを破りたくはない。


「……早く帰って来ないでしょうか」


 だからこそ、少女は腰だめに構えていた愛刀の柄から右手を名残惜しそうに放すと、寂しげに、そして心待にするようにして淡い光を放つ魔石灯を見上げながら呟くのだった。

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