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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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たった一人の冒険 2

お久しぶりです。

師走と言うことで色々と忙しさにかまけてしまい、更新を怠ってしまいました。申し訳ありません。

もう年の瀬。ということで恐らくですが、今年最後の更新になるかと思います。

本年もたくさんの方に読んでいただきありがとうございます。来年度も皆様に喜んでいただけるように精進したいと思いますので、ぜひアクセスしていただけたら幸いです。

 乾ききった空気を弾丸の如く、何かが切り裂く。

 ソレは遠目に見れば飛行機雲を靡かせるようにして進む矢のようにも見える。だが、実際その質量は矢とは比較にならないほどであり、速度も優秀な弓術師が放ったものと比べても勝るほどのモノだ。

 その矢のようなモノ――――実際には巨大な鉄塊なのだが――――は勢いのまま、前方を陣取る骸骨の群れに打ち込まれると、ズドー―――ンッ、と大気を震わせ轟音を上げる。

 もはや断末魔など上がる暇も無く、濛々と砂飛沫が巻き上がるだけの状況。


「おおむね予定通りの仕上がり……流石クロードだな」


 その明らかなまでのやりすぎと言わざるを得ない光景。

 しかしそれを為した当人である隼翔はと言えば、ただ満足そうに頷くだけだ。そんな彼が左手に握るのは愛刀の瑞紅牙でもなければ、漆黒の刀でもなく、ましてや短剣でもない。

 

 身の丈ほどある鋼色の剣身。誇るような装飾の類は全く無く、ただ戦いのために、そして力任せに使うために造られた、そのような印象を与える大剣。

 唯一変わり映えがあるのは柄からジャラジャラと音を立てて伸びる長大な鎖。その一端が繋がる方角へと視線を向ければ、そこは未だに濛々と砂煙舞い上がる風景が広がる。


「さてと……」


 満足げに眺めていた隼翔だが、いつまでもここに留まっている時間は無いことを思い出し、ピンと張り詰める丈夫そうな鎖を右手に巻き付けると、勢いよく引いた。

 すると、強めの抵抗感と重みが細腕に圧し掛かった後、ようやく砂煙落ち着いた原野に突き刺さっていた鋼色の塊がまるで吊り上げられたかのように勢いよく隼翔の方角へと向かってくる。

 先ほどよりも速度は無いにしても、普通ならまず避けても間に合わないであろう速度で戻ってくる大双連刃だいそうれんじんの片割れ。だが隼翔は涼し気な表情を一切崩すことなく、悠然と立ったままだ。

 そのままきっさきが隼翔を貫く……まさにその寸前。ひょいと身体を半身に逸らし、軽々と避けると、更にあろうことか身体の真横を通り過ぎる大剣の柄を正確に掴んで見せた。

 

「探索を再開するかな」


 重量差に加えて、速度が付いた大剣だ。普通なら掴んだ隼翔の肩が外れて、そのまま吹き飛んでも可笑しくない。

 だが、そこは異世界にて人外の膂力を手にした隼翔だ。軽々と掴んで見せると、そのままひょいと背中に背負いなおして見せる。そしてそのまま何事もなかったように瞳の色を金色へと変容させ、迷いのない足取りで進んでいく。 



 視界に広がるのは相変わらず、変わり映えのない砂の海原。

 空気中には一切の水分が無く、照り付ける偽陽球たいようはじりじりと身体から水分を奪い去る。

 いくら人外の身体を手に入れたとはいえ、やはり元は人の身だ。ピリ、っと下唇が切れ、微かに鉄錆の臭いが口に広がる。


地下迷宮ダンジョンにいると時間感覚だけじゃなくて、四季まで分からなくなりそうだよ。ったく、地上はすっかり秋になったというのに……」


 唇から滴る血を舌で舐めとりながら、隼翔は深くまで被り直した外套のフードの下で文句を言うように言葉を漏らす。

 眼前に広がるのは荒涼とした砂の原野。ここは地下迷宮――――第28層。


 時間にして地下迷宮入りから大凡10時間。隼翔はただひたすらに前に現れる魔物を切り伏せては走りを繰り返し、異例ともいえる速度で砂海層エーデゼルトの後半の領域にまで到達していた。

 

 地下迷宮は階層を潜る毎にその環境の悪辣さ、過酷さは増す。

 ソレは同じ環境下――――つまり砂海層の前半部分と彼のいる後半部分でも環境が過酷になるということだ。例えばそれは解かりやすいもので言うなら単純に生まれ落ちる魔物の個体の強さであったり、出現する頻度で合ったり、数であったり。

 現に地下迷宮ダンジョン探索を始めてからの最初の数時間よりも、砂海層の後半部分に差し掛かったここ一時間の方が魔物との交戦頻度は明らかに多くなっている。……それでもなお当たり前のように疲れた様子も無く、ものの数分で魔物を掃討している隼翔は異常なのだが。

 それはともかくとして、他の要因を挙げるとするなら例えば気温。偽りの空である中天には偽陽球が浮かんでいるが、なぜかそれは階層を下る毎に近づいてくる(・・・・・・)のだ。その結果として、砂海層の入口である21層と隼翔のいる第28層では気温差が10℃以上もある。

 だが、この理不尽さと摩訶不思議さこそが地下迷宮ダンジョンという存在なのだ。そしてそれがあるからこそ、無謀で命知らずな冒険者おろかものたちを惹き付ける魅力ともなっている。


「まあ、だからこそ身体を鍛えるには最適の環境と言えるか……さて、それじゃあ折角だ。俺の糧となってくれよ、異形の住人たち」


 見上げていた偽りの太陽から視線を逸らし、広大な砂の海原を眺めていると、四方八方から突然砂の波間を切り裂くように大量の背びれが泳ぐようにして現れ、近寄ってくる。そしてそれらはまるで見定めるように隼翔の周りをグルグル、グルグルと周遊する。

 隼翔はその不気味な輪舞を眺めながら、ゆったりとした動きで背負う双大剣の柄に両手をかける。


 はらりと強烈な陽光の下に晒される長い黒髪。

 これだけの日差しに晒されてなお、一切日焼けした跡がない肌には一切の傷も汚れも汗も無い。漆黒の瞳は理性を宿しながらも、その奥には野獣のような戦いを求める本能が燃えている。

 どこまでいこうとも、どんな経験をしていても、どんな目的意識を掲げていてもやはり隼翔もまた――――地下迷宮ダンジョンに魅了されてしまった虜囚(愚者)の一人でしかない。


 そんな愚か者を喰い物にしようと周遊していた砂海の住人たちが一斉に飛び上がり、隼翔に四方八方から襲い掛かる。

 巻き上がる砂の飛沫がまるで煙幕のようになり、隼翔の視界を奪う。だが決して隼翔は慌てた様子もなく背負っていた巨大な双大剣が勢いよく抜き放つと、ジャラジャラと威嚇音を立てるようにして隼翔の周りを長大な鎖が舞い踊り、砂の鮫を一匹、また一匹と串刺しにして命を奪い去るのだった。

 

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