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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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泡沫の語り部

うーん、中々時間が取れなくて苦戦しています。なるべく頑張って更新していきたいとは思います。

 日中の熱量が嘘のように冷め、都市は静かに夜が更けていく。

 普段なら恋人であるフィオナとフィオネの姉妹、あるいは最近恋仲となったひさめとともに隼翔もフカフカのベッドに身体を休めている時刻だが、珍しく部屋には隼翔の姿しか見受けられない。

 しかもベッドに横たわっているではなく、巨大な執務机に腰かけている状態だ。


「…………」


 カーテンが開け放たれた巨大な窓の外に浮かぶのは朱月。

 その独特の色合いに怪しさと美しさを感じ、隼翔は机の上に置かれたお猪口に手を伸ばし、一気に煽った。

 鼻を抜ける優しい香りと芳醇な甘み。腹部には心地好い熱さを感じるが、頭は逆に静まるように冷める。


「甘さも貫き続ければ、やがて信念として認められる。……遠い道のりだな」


 それは誰に聞かせるでもなく、独白として自分へと語る言葉。

 脳裏を過るのは大切な恋人――――ひさめが勝ち残った際の光景だ。

 奇しくも最後の一人まで舞台に立つことは叶わなかったが、それでも決勝トーナメントに駒を進めるという快挙を成し遂げた。その時のことは隼翔は本当に嬉しく、それこそ自分の事のように観客席で珍しく小さくガッツポーズを作って喜んでいたほどだ。それは並んで一緒に観戦していた仲間たちも同じだったのだが、逆に言えば会場でひさめの勝利を心から祝福していたのは彼らだけだった。


 なんであんな奴が勝ち残ってしまったんだ――――それが会場の大多数の感想であり、予選第二試合を二位で通過した少女への栄誉を讃えていない称賛の言葉だった。


 当然、熱く仲間想いのクロードは憤りのまま言葉を荒げ、その恋人であるアイリスもクロードをなだめつつも眦を吊り上げていた。そしてフィオナとフィオネですらも珍しく語気を荒げ不服を露わにしていたほどだ。


「その険しさも修行の一環か……」


 隼翔は嫌な記憶を遮るように再びお猪口を手にして、一気に煽る。

 結局、いくら彼が悩んでも、憤慨しても、怒りに任せて行動しようとも現状ではひさめへの評価に体勢は無いのだ。

 それである以上、いま出来ることは冷静にいることとひさめを支えてあげることだけ。

 あとは彼女自身がその手に握る刀で、彼女が示す道を証明するしかない。


「まあ、とりあえずそう言うことを考えるのは別の機会にして、今はひさめの成長を心から祝福しよう」


 余程心身ともに疲弊していたのだろう。祝勝会を開く暇もなく、ひさめは予選の試合が終わってから今も自室のベッドでぐっすりの状態。

 そしてその少女の世話を付きっきりでしているのがフィオナとフィオネの姉妹だ。そのような事情から隼翔は現在部屋で一人きりというわけなのだ。


 もちろん寂しさを感じているのだが、それ以上の幸福感が心を占有しているため気になることはない。


「……成長を見守るって言うのも、何となく悪い気分じゃないな」


 これが親としての心境寄りなのか、あるいは師匠としての心境寄りなのか。隼翔にはついぞ分からなかったが、少なくとも悪い気はせず、どこか子供をあるいは弟子が欲しいなと感じながら、隼翔は更け行く夜空を眺めながら、静かにお猪口を傾け続けるのだった。





 その頃、都市のどこかで烏は夢心地の中をさ迷っていた。

 浮かんでは沈み消える、泡沫の数々。

 その表面に映るのは音のない過去の状景たち。どれもが辛く、捕らわれていた記憶だ。


『……ボクはいらない子供だった』


 荒廃した野山。

 吹き荒れる風は渇き、吸えば肺が咽ぶほどの毒々しさ。湖は単なる腐った水の貯め地でしかなく、山は禿げた針のような木々が並ぶ不毛地帯。

 息吹を上げるのは見るもおぞましい魔物ばかりの過酷な環境。それでも生まれながらに強大な魔力と強靭な肉体を兼ね備える魔族にとっては生きるに困らない環境だ。

 だが、人族の肉体しか持たない烏の雛にとっては生きるのすら困難な世界。日々檻の中に閉じ籠り、隅で怯えながら生きていた。

 いくら魔族が強靭とは言え、そんなお荷物な雛鳥を甘やかすほど余裕があるわけではない。ましてや雛鳥は半端者なのだ。排他的な種族の魔族が懸命に育てようとするはずもなく、周囲の仲間どころか血縁のある親すら雛鳥を育てようとせず、邪魔者として扱った。

 

 そのことを泡沫を眺め思い出しながら、語りかけてくるのはかつての幼き少女。

 愛情も知らず、ただ痛みから逃げるために笑い続けた偽りの笑みが張り付いた表情と感情など籠らぬ明るい語り声。

 聞いてるだけでも痛々しく、背けたいほどの過去がそこにある。


『そうだね……そしてそれは今もきっと変わらない。僕は未だに飛べない、不自由な存在だもん』


 これは夢。そうだと分かっていてもなお、現在いまの少女もまた感情のない明るい声で応える。

 少女にとって感情は押し殺すもの。いや押し殺しておかなければいけないものだ。

 唯一それを表現していいのは、仮面を被ったときに、己の握る剣に想いを乗せるだけ。それ以外は決して本音を晒してはいけない。


『だけど、それももうできなくなる』

『うん……分かってる。でも仕方ないんだ、ボクはボクでいることを望まれていないみたいだから』


 今の少女の言葉に、幼き少女は表情に笑みを張りつけながらもどこか辛そうに歪め、それでも決して何も言わずにゆっくりと弾けた。

 こうして泡沫の夢路は終わりを迎え、辛い現実へと少女は帰還するのだった。

ちょっとばかし、分かりにくい文章となりましたが話が進むにつれてきっと意味は分かると思います……分かってもらえるように努力します。


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