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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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闘武大祭――初日 3――成長のために

すいません。最近忙しくて全く更新できませんでした。

明日からも忙しいのでどうなるかわかりませんが、なるべく更新できるように頑張ります。

次回は舞台上の視点でお送りする予定です。

「さぁー、やってまりました。闘武大祭・予選、初日の第二試合ですっ!第一試合は見応えのある試合展開でしたよね、サーシャさん」

「はい、流石闘武大祭と言うだけある試合でしたね。本選に駒を進めたお二人はお見事、そして本選での活躍にも是非とも期待したいです」


 舞台の上に集められた多くの戦士たち。

 彼らは今か今かと戦いを始める金の音が鳴るのを待ちわびているが、大会としての様式美で実況と解説の両者が言葉を交わえる。

 実況席に座るのはギルド嬢としてどこか見覚えるのある女性。際立った特徴は無いものの、やはりギルドの受付嬢と言うだけあってとても見麗しい。

 そして隣。解説席に座っているのは隼翔としても良く覚えている少女のような見た目をしたギルド職員――――サーシャだ。

 見た目としては観客席でピョンピョンと飛び跳ねる方が余程に似合っているに違いないが、サーシャは解説席で無垢な笑みを浮かべながら冷静な解説している。

 だがその本性はただのロリータ職員にあらず。ギルド本部の本部長なのだ。しかし、その事実を知らない観客席から送られる視線はどこか微笑まし気なモノ。


「……なんだかとても不本意な視線を感じる気もしますが、気にせず解説に戻りたいと思いまーす。いよいよ、第二試合の始まりが近づいてきましたね」

「いやー、実に第二試合も楽しみです。それと、ははっ!視線はサーシャさんだから仕方ありませんよ」

「……あなた、ソレの意味わかってます?後で覚えておきなさいね」


 天真爛漫な笑みで解説に戻ったサーシャだが、横の実況席に座る女性職員の発言に、表情に笑みを張りつけながら額に青筋を浮かべるという器用な芸当を見せる。

 そしてマイクには言葉が入らない声量で、静かに脅して見せるのだから彼女の腹黒さも相当だろう。もちろん静かな恫喝を受けた女性職員は涙目だ。


「急に黙ってしまってどうしたんですか?」

「い、いえ!?なんでもありませんっ……本当に何でもありません。……それよりも第二試合の注目選手を伺いたいと思うのですが?」


 涙目になりつつも、実況の職員は根性で立て直し、しっかりと職務を全うしようとしている。

 だが、やはりサーシャが怖いのだろう。表情は引き攣っているし、そこに見麗しさのかけらもない。そんな彼女の変化に観客席も少しばかり騒めき立つが、サーシャのあどけない解説が全てを払拭する。


「そーですね!私としては冒険者ギルドの職員なのでCランク冒険者のコール選手でしょうか!」

「な、なるほどっ。確かに彼はここ最近頭角を示し、上級冒険者に名を連ねましたからね。活躍に期待したいですっ」

「はい。あとは傭兵の第三級ザザン選手。流浪の弓術師・スラン選手も注目です」

「いやー、とても多くの注目選手ひしめき合う今大会でも屈指の予選カードとなりそうな第二試合。まもなく開始の金が鳴りますっ」


 煌々と燃ゆる聖火台の横に設置された豪華な銅鑼。

 横に立つ屈強な男たちが息を合わせるように視線を交わえると、勢いよく巨大なバチを振り被り、銅鑼を叩く。

 ドォォォォオオオオン!!!!!と腹の底から響く音。それが契機となり、舞台の上では選手たちが一斉に武器や拳を振り被り、動き出す。


「解説はああいっているが、ハヤトとしてはこの試合どう見ているんだ?」


 舞台の上では選手たちが入り乱れており、例えば強面の炭鉱族ドワーフ冒険者に殺到するようにして人族の男たちが剣や槍を構え、その近くでは魔術師然としたエルフが弱い魔法で牽制しながら、上級魔法を唱えるタイミングを伺う。

 さらにアマゾネスや全身鎧を纏った傭兵など様々な選手たちが戦いを舞台の至るところで繰り広げており、戦場は混沌としている。

 その光景を観客席から見ている隼翔たちだが、クロードは隼翔の目にはどう映っているのか気になったらしく、興味深そうに尋ねた。


「こうして観客席から見下ろしているだけでも、流石闘武大祭と呼ばれるだけあって手練れと分かる奴がちらほらといる」

「「……それはつまりひさめちゃんよりも強いと言うことでしょうか?」」

「まあ少なくともほとんどが同格あるいは格上。今のひさめじゃ勝つのは難しいな」


 いくら身内に甘いと言っても、戦いに関する評価を甘くするような人間では隼翔はない。

 故にその評価は正鵠を射ており、参加者の半数以上は冒険者階級(ランク)で言えばDで、下手すればクロードの隣に座るアイリスよりも強いだろうと思われる実力者も散見するほどだ。

 そのような現実的な評価を聞き、あからさまに沈痛そうに表情を歪ませる姉妹。

 フィオナとフィオネにとって親友であるひさめがどのような想いでこの闘武大祭に望んでいるか姉妹は当然知っており、是非とも勝利を掴んで欲しいと願うのは当然のこと。

 それだけに隼翔の評価を聞いて落ち込んでしまうのは無理もないだろう。


「別に絶対に負けると決まったわけじゃない。だからそう心配するな」

「「え?」」


 一転して、まるで勝機があるという隼翔のの言葉にフィオナとフィオネは俯きかけていた頭をもたげさせる。

 隼翔の表情を見ると、ただ気休めを言っているのではなく、本当に勝機を見いだしている様だからこそ、姉妹の不思議さはなおのことだ。現に姉妹とは向こう隣に座るクロードとアイリスもどういうことだ?と言いたげに表情に疑問を張り付けている。

 そんな四人に対して、隼翔は説明するように言葉を続ける。


「確かに一対一サシの勝負だと、今のひさめには到底覆しきれない実力差がある。ましてや、ひさめは人を傷つけない戦い方を目指すからなおさらだ。だが、今はやっているのは個人が入り乱れるバトル・ロワイアルだ」


 隼翔は四人に分かるか?と問いかける。

 しかし、四人はその言葉の意味がよく掴めないのか、視線を舞台の上で戦う仲間の少女に向け、首をかしげる。

 

 ひさめは何故だが、舞台の四隅に配置された石柱を背にするようにして陣取っている。

 普通は舞台から落ちてしまえば失格となるため、隅よりも中央を陣取る選手が多く、それを証明するようにひさめには向かっていく参加者は意外と少ない。


「まあ四人ともあまり集団の中で戦う経験が少ないから分からないかもな」

「ん?集団戦なら地下迷宮ダンジョンでも経験してるじゃねーか」


 魔物相手の集団戦なら、クロードの言葉通り経験はかなりしている。ソレ自体は間違いないのだが、隼翔の言う集団戦というのはそのような簡単なものではない。


「魔物相手の集団なら確かに経験はある。だが、こと人の集団と戦ったことはないだろ?」

「うーん……確かに無いが、そんなに違うのか?」

「はっきり言って全く違う」


 人と戦うか、魔物と戦うか。どちらにしても本気になれば当然命の奪い合いであることに変わりなく、クロードとしては差し当たりピンとこないようで、小首を傾げている。それはアイリスもやはり同じなのだが、フィオナとフィオネは前者二名と違い、盗賊に攫われていたという経験を持つだけに少しだけ言いたいことが理解できたらしく神妙な表情を浮かべている。


「そもそも、魔物と人は基本的に会い慣れることはない。それは生物としての違い、あるいは本能だろう。故に魔物の大群と遭遇した時、仮に見知らぬ冒険者が傍にいたら共闘するだろう?」

「確かに、いくら見知らぬ奴でも生き残るためにはそうするよな」


 隼翔が基本的に、と前置きしたのは一応魔物とも友好な関係築いている例があるからだ。それらは魔物使い(ビーストテイマー)と呼ばれるジョブを発現している者たちであり、彼らは魔物を従魔とすることのできる例外的な存在。つまり彼らの存在が、魔物とも友好な関係を築けるという証明でもあるのだが、大抵は人と魔物は殺し合う存在にある。それが世界の基本とする共通認識だ。

 ソレはともかくとして、隼翔が言いたいのは対魔物戦の場合は人は共通の敵を持つがために共闘することが出来るということ。


「だが、仮に相手が人となるとそう簡単にはいかない。何せ、敵と味方がしっかりと別れている戦争ですら裏切りにより背後から刺されることだってある。ましてや、これは敵味方の区別なんて無い。自分以外は全てが敵だ。人は得てして業が深いからな……どうしても簡単にはいかないんだよ」

「なるほど……つまりこのバトルロイヤル形式では敵の敵は味方という法則すら成り立たない……そう、若様は言いたいのですね」


 仮に戦争ならばまだ敵味方の区別があるために、周囲の警戒はそこまで必要ない。もちろん裏切りも想定に入れる必要があるが、それでも事前に情報などがあるため対応は可能。

 それに比べ、バトルロイヤルという形式は自分以外全てが敵。

 舞台の上では一人の冒険者に対して複数の選手が群がっているが、一人が倒れれば次は群がった者同士が戦い始めるだろうし、もしかしたら横槍が入れられ、戦況が一瞬にして変わるかもしれない。

 ルールは簡単なのに、奥が深い戦い――――それがバトルロイヤルだ。


「簡単にまとめるとアイリスが言ってくれた通りだ。だからこそ、一対一サシでひさめが敵わない相手がたくさんいても戦い方次第では十分に勝機を見いだせる」


 そう締めくくった隼翔だが、実際に勝利をかつとれるかどうかはひさめがそのことに気が付けるかが大きい。

 一応手ほどきを与えたとはいえ、戦略については助言程度のことしかしていないのだ。しかも修練は基本的に隼翔との一対一で集団との戦いはひさめには恐らく初めての経験。


(成長するには教えられるだけじゃダメ。自分で考えて、間違えて、学んで、活かす。それが出来たとき、ひさめ侍としての道は拓かれるだろうな)


 舞台の隅で必死に戦う恋人の姿を見ながら、隼翔は激励するように内心でそんな言葉を呟いていた。

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