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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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デート 2

すいません……更新したかったのですが、体調崩してました。

体調が未だに万全ではないので、ソレまでは2日か先ほど3日間隔の更新とさせていただきます。


 西園寺隼翔は何百年も続く武家の末裔として生まれた。

 幼子の頃より都心の一等地に建つ先祖代々受け継いできた高い塀に囲まれた武家屋敷で暮らし、育った。

 春には中庭の一角に植えられた桜が満開に咲き誇り、夏には涼しげに音を鳴らす鹿威ししおどしに耳を傾けた。

 秋には枯山水に生える紅葉を楽しみ、冬には雪化粧する灯籠に並んで竹刀を振った。


 金銭的な部分で言えば決して不自由なく育ち、都会にありならが都会離れした生活を送っていた。

 ある意味ではお坊っちゃまとして育った隼翔は当然自分で洋服を買いに行った記憶などなく、大抵は父親から与えられた格式張ったブランド服か母が愛情込めて選んでくれた洋服しか着たことがない。


 隼翔という男は一言で言うならファッションと言うものに物凄く疎い。

 だからこそ、代わる代わる目の前で広げられ、女性モノの服についての感想を求められてもはっきり言って流行かどうかなど判断できないのだ。

 ただ美的センスだけは英才教育の賜物として身に付いているので、似合う似合わないだけは判ったのが救いかもしれない。


「あ、ああ。二人とも良く似合ってるぞ……」

「「本当ですかっ、ハヤト様!!」」


 もう何十回ファッションショーを見せられたか分からない隼翔は姉妹の可愛らしい恰好に癒しを感じつつも、褒める語彙が尽きたのか、洋服を両手に広げ感想を尋ねてくるフィオナとフィオネに対して力無い笑みとともに無理矢理言葉を絞り出して頷いて見せる。


 彼らの現在位置は南通りと西通りのちょうど中間辺りだ。

 そのため食材や日用品を扱う露店や店舗が並んでいるかと思えば、商会や巨大な宿泊施設、日差しが高いうちから門戸を開く酒場などが乱立している。


「……女性の買い物に付き合うってこんなに大変なんだな」


 パタパタと嬉しそうに店内へと消えていく姉妹の後ろ姿を眺めながら、隼翔はどこか休日のお父さんのように哀愁を漂わせながらぼそりと呟く。 

 店に足を踏み入れると最初に流行のファッションで着飾った人形マネキン数体に出迎えられる。そのまま店内を進むと、通路両端にはハンガーに吊るされた服やズボン、スカートが数多く並び、壁にはやはり流行だと思しき服が飾られている。店内の各所には姿見用の鏡が設置され、最奥には有料制の試着室が5つ設置される。

 隼翔が腰を掛けているのはちょうど試着室の前に用意された簡素な椅子だ。

 最初は姉妹やひさめについて歩きながら感想を一つ一つに対して言っていたのだが、1時間ほど経過したころから疲れてしまったのかこの場所に座り、時には試着室を利用して着飾って見せてくれる恋人たちの姿に癒しと感想を絞り出す苦悩を経験している。

 それでも恋人たちのためと、隼翔は漏れそうになるため息をしっかりと我慢して、見かけ上は一切疲れていないようにピンと背筋を伸ばす。

 そんな若干無駄ではないかと思える努力を隼翔がしていると、不意にカーテンで閉じられていた試着室の一つがシャーっと音をたてた。


「ど、どうでしょうか……?」


 閉ざされていたカーテンを開いて出てきたのは、自信なさそうに、はにかんでいるひさめだ。

 先ほどの間での肌を一切晒さないような服とは打って変わり、試着しているのは膝丈ほどのフレアスカートと秋らしくノースリーブシャツにカーディガンを羽織っている。それでもひさめらしいのはシャツのボタンをすべてきっちりと留めているところか。

 恥ずかしそうにスカートの裾を握り、女性なら誰もが羨むであろう真っ白な肌を晒す姿に隼翔も再び心に潤いを感じるが、同時に褒めるべき言葉が思い浮かばず苦心する。


「と、とてもよく似合ってるぞ……なんなら買うか?」

「い、いいんですか!?ありがとうございますっ」

「ああ、もちろん」


 結局苦心の末に隼翔が口にしたのは簡素で飾り気も無い言葉だった。

 別に似合わないという訳ではなかった。ただ本当に彼の語彙は完全に底を尽きてしまい、これ以上誉め言葉が出てこないのだ。

 それでも気をきせて最後に買うかと尋ねたのが良かったのだろう。ひさめ自身恐らく相当気に入っていたらしく、恥ずかしそうにしながらも声を弾ませた。


 最終的にこの日店で買った服の総量はかなりであり、金額に換算しても上級鍛冶師が作成した一級品の武器と大差ないほどの金額を支払った。

 それでも恋人たちが満足げな表情を浮かべているのだから、隼翔としてはこれ以上ない有意義なお金の使い道になったなと内心で言葉を漏らして、店を後にした。







 店を出ると空は夕焼け交じる色となり、どれだけファッションショーを見せられていたのか戦慄を禁じ得ない。

 もちろん隼翔はそのことを口にせず、余った時間はのんびりと都市内を散策することにした。

 そして馬車に乗り、たどり着いたのは北通りにある巨大な建造物の前。

 恐らくレンガ造りである茶褐色の外壁。見上げるほど巨大な建造物自体は円形で、中央には競技場のような台座。

 台座は四隅を石柱が囲っており、その石柱には幾何学模様が所狭しと刻まれる。


「ここが、闘技場コロッセオか」


 秋風が無造作に隼翔の髪を揺らす。

 静かな雰囲気。それなのに、風に乗ってなぜだか熱量と沸き立つような大歓声が聞こえてくるような気がする。

 この辺りには冒険者の姿がちらほらと見えるが、どうしてか闘技場コロッセオの放つ厳かな雰囲気に気圧されて、誰もが騒がずに静かに歩いている。


「身が引き締まる感じがするね」

「うん。だけど不思議と、こう胸が熱くなる気もするね」


 フィオナとフィオネも漂う空気に充てられたのか、闘技場コロッセオの外壁を見上げながら感嘆したように呟く。


「自分も初めて見ましたが……すごいですね」


 姉妹に挟まれるようにして、同じように見上げるひさめもまた初めて感じる空気感に驚いている。

 ここに流れる空気とは戦場の殺伐としたモノではなく神聖で、どこか身を引き締めるものだ。


「ここは見に来てよかったな」


 圧倒されるようにして見上げている恋人たちの後ろに立ち、隼翔も静かに空気を感じる。

 身を引き締めるという意味ではここの空気は道場と近いモノかもしれないが、肌に感じる過去の熱量はこの場所独特のモノだろう。


 人間を含め生物は本能に闘争を宿すと言うが、この場所は確かにそれを感じさせる。

 闘技場コロッセオの前に立ち、空気を感じるだけで身体の奥底が沸き立つような感覚に囚われる。

 だが、それは自らの力を試したいと言う十全純粋な闘争であり、相手を殺し、血肉を浴びたいという殺戮本能ではないところが不思議だ。


「1週間後でしたっけ?」

「ああ。せめて予選のうち、1日だけでもいいから見に来たいな」


 振り返りながら見上げてくるフィオネに、隼翔は微笑みかけながら頷いた。

 まだ1週間という刻限があるからこそ、周囲には何の飾り気もなく、ただ厳かな空気が漂っているだけだが、闘武大祭が近づくにつれてきっと露店が立ち並び闘技場とは別の熱気と賑わいを見せるに違いない。

 それはきっとこの場でしか味わうことの出来ない空気感だ。息抜きと勉強の意味両方で是非ともこの場所に訪れたい。


「さて、それじゃあ帰るとするか」


 そんなことを思いながら時計を開けば、すっかりリュヌの5時を過ぎている。

 屋敷では残ってくれたアイリスとクロードが仲睦まじい様子で夕食の準備をしてくれているに違い。

 それに遅れる訳にもいかず、隼翔はそう提案するとフィオナとフィオネ、ひさめをエスコートするようにしながら馬車の停留所に向かった。








 そして、夜。

 楽しい夕食の一時を終え、屋敷の住人たちは入浴を済ませて、談話室で思い思いの時間を過ごした。

 ある者は無糖珈琲を片手にギルド発刊の情報紙に目を通し、またある者は甘そうな香り漂わせるデザートに舌鼓を打ちながら武具の構想に思考を巡らせ、女性陣は姦しく今日の出来事を紅茶と共に語り合った。

 そのような有意義な時間を過ごし、各々の部屋へと戻って行った一行だが、この屋敷最大の部屋――――つまり隼翔の私室からは何やら話し声が聞こえてくる。


「いつ見ても……逞しい、ですね」

「そう、か?俺としては……細いって感じだけ、ど」

「そんなことない、です。す、ごく……太くて硬くて、逞しいです……」


 何やら聞こえる怪しげな会話。

 もちろん防音はバッチリで部屋の外には彼らの声は聞こえてこない。


「あぐっ、そこは……気持ちいい、な」

「「……ここが、いいんですね?」」


 漂う蠱惑的な香油の香り。

 室内の巨大な照明灯は消され、部屋を照らしているのはベッドに備えられたランプだけ。

 その淡い明かりが巨大なベッドの上で身を寄せ合う4つの人影を映し出す。

 一人は肌を晒した状態でベッドに横たわる。その肉体美は見事の一言で、全身に刻まれた無数の傷が男を歴戦の雄姿だと物語る。

 その男を囲うようにして浮かび上がるのは女性らしい細くも丸み帯びた3つの人影だ。

 そのうち二人には大きな三角形の獣耳が見え、残る一人は闇溶けるような艶ある髪を艶っぽく肩から流しながら、恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。彼女たちは皆、男と違って浴衣を身に付けているが、暑いのか、浴衣から覗く上気して汗ばむ肌が妙に艶かしい。


「どうですか、ハヤト様?」

「気持ちいいですか?」

「あ、ああ……そろそろ、ヤバいな」


 あうあう、と恥ずかしがるひさめをよそに、フィオナとフィオネは慣れた手付きで隼翔の硬く逞しいソレを擦ったり、揉んだりしている。

 姉妹の細く柔らかい指が動くと、血流が良くなるのかより熱を放ち始める。

 そのたびに寝そべる隼翔は気持ち良さそうな声を口から漏らし、全身を震えさせる。


「ひさめちゃんも、どう?」

「こんなにハヤト様も気持ち良さそうな表情をしてるし、やってみない?」

「え、で、ですが……自分は、その初めて……ですし……」

「何事も経験!」

「そうそう、それに大切な人へのご奉仕だよ」

「ご、ご奉仕……」


 恥ずかしがるひさめを姉妹は説得すると、そのまま寝そべる隼翔の近くまで連行する。

 目に見えて狼狽するひさめだが、やはり年頃の少女、ましてや恋人の体に興味があるのだろう。おっかなびっくりの動作で、指をそろーっと近づけて、触る。


「っ!?」

「……そんなに怖いなら無理にする必要はないぞ?」

「い、いえ!?大丈夫、です……」


 ちょん、と指先で触れるだけでも分かる、逞しさと硬さ。

 浮かび上がる血管や筋肉にひさめは驚きつつも、虜となったのかボーッと眺めてしまう。

 そんなひさめに対して、隼翔は無理する必要はないと苦笑いを浮かべる。

 今している行為はあくまでも姉妹の善意であって強制ではないのだ。だからこそ、無理する必要はないと言った隼翔だが、ひさめは力強くかぶりを振った。

 そして、意を決したように硬いソレに手を這わせ、擦る。

 姉妹と比べれば、力加減が分かっていないのかとても優しく、ぎこちない手つき。だがひさめの想いを感じたのか、隼翔は気持ちよさせうに目を細める。


「ど、どうでしょう……か?」

「ああ、すごく……気持ちいいな」

「じゃあ、もっと気持ちよくするために私たちも頑張ります!」

「失礼しますね、ハヤト様」


 先ほどとはまた違った息遣いで気持ち良さそうにする隼翔に、フィオナはひさめとは反対側に回り込み、フィオネはゆっくり隼翔の上に乗る。

 そして全員で愛する男性の体に優しく指を這わせ、極楽へと誘う。


「あ、ぁ……本当に……ヤバいな……」

「我慢しないでいいんですよ?」

「そうですよ、ハヤト様。これは私たちからのお返しです!」

「ええ、ですから……そのハヤト殿も我慢せずに……」


 全身を包み込む快楽に誘われる隼翔だが、最後の矜持なのか必死に耐えようと身体に力を込める。

 だが、そんな隼翔の姿を見かねたようにして、恋人たちは囁くように甘い声で唆す。

 その声と誘惑、何よりも身体の内から込み上げる欲望に耐えきれなくなったのか、隼翔は体から次第に力を抜く。

 そんな彼を見て、恋人たちはだめ押しとばかりに声を揃えた。


「「「――――ゆっくり休んでください」」」


 そう、今行われているのは決して如何わしい行為ではない。単なるマッサージだ。

 フィオナやひさめが指を這わせて、擦ったり揉んだりしているのは隼翔の逞しく硬い腕(・・・・・・)だし、フィオネがいるのは隼翔の背中の上。

 それに隼翔も衣服を着ていないのは上半身だけで、下半身はしっかりと下着を含め穿いている。


 そして、なによりも隼翔が屈した欲望とは睡眠欲以外の何者でもない。

 現に彼は気持ち良さそうに寝息をたてている。


「ふふっ、ハヤト様の寝顔だ」

「うん……安心しきってるね」

「は、初めて見ました……なんだが、胸の奥がキュンとしますね……」


 三者三様の感想を漏らしつつ、全員がとても嬉しそうにその寝顔を覗きこむ。

 隼翔が起きていたら、自分の寝顔の何が面白いんだと呟いたに違いないが、少なくとも彼女たちの表情を見れば何かしらの喜びを感じているというのはよく伝わる。


「あ、そうです。……実はお二人にご相談がありまして……」

「ん?相談?」

「なーに?ひさめちゃん?」


 隼翔が夢心地の中、恋人たちはすぐそばで何やら大切そうな相談事をしていたのだが……隼翔がその内容を知るのは少しだけあとのことだった。

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