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幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる  作者: 二月 愁
第4章 囚われの紫紺烏
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デート 1

昨日は更新できませんでした。すいません。



 陽光輝く青い空の下、屋台では相変わらず見慣れない食材が多く見受けられる。

 例えば、体長を2mは優に超える赤と緑の巨大魚。

 胸鰭むなびれは刃のように薄く、羽のように大きい。口元から覗く牙は鮫のように尖っているのに、口の大きさ自体はおちょぼ口と可愛げがある。


 例えば、どこか人型をした水色の実。

 果たしてどうしてそのような格好でることに帰結したのか非常に気はなるが、何よりもソレが畑に鈴なりになっている光景を想像すると悍ましさが圧倒的に上書きしてしまう。


 例えば、羽毛をむしられた鳥。

 肉屋でなら見れるかもしれない光景だが、脚が4本ある時点で隼翔の常識にはまず当てはまるものではない。


「うーん……これって基本的に地下迷宮ダンジョン産の食材、なんだよな?」

「そうですよ」

「ハヤト様、やっぱりまだ見慣れませんか?」

「ああ。と言うか、コレが常識と言われても俺は一生慣れることはないな」


 指先ほどの大きさをしたオレンジ色の実を口の中で転がしながら、しみじみと言葉を漏らすのは隼翔だ。

 彼の左隣にはフィオナが隼翔の手を握り、そのさらに横には妹のフィオネが並ぶ。二人の服装は普段の冒険者然としたモノや屋敷内で着ているエプロンドレスではなく、山吹色のノースリーブワンピースと薄手のストールを身に着けている。

 秋口にしては少しばかり涼し気な格好だが、獣人族は元々体温が高いためか心地良さそうにしている。


 そんなフィオネが持つ果物籠には先ほど隼翔が口にしていた果物が山積みされており、咀嚼が終わる頃を見計らってフィオネは隼翔の口元に果物を運んでいく。

 美味しそうな見た目に反して、口の中に広がるのは容赦のない酸味だ。それこそレモン並の酸っぱさに大抵は生食しない果物なのだが、隼翔は何が気に入ったのか、食べる毎に口を少しだけ歪めながらも、フィオネに催促している。

  

「は、ハヤト殿は凄いですね……そんなにもレルを頬張れるなんて」

「うむ、何となく癖になる味なんだよな」


 美味しそうとまではいかないものの、普通に食べ続けている姿に隼翔の右隣にいるひさめは軽く目を見張っている。

 だが彼女は普段通り振る舞っているようで、実は表情はかなり硬く真っ赤だ。

 それは人通りを歩いているからという問題もあるのだが、それ以上に別の問題が彼女を羞恥に悶えさえている。そのことに思わず苦笑いを浮かべてしまう隼翔。


「そんなに恥ずかしいのか?」

「いや、自分にはこのような格好は似合いませんので……」


 羞恥の原因と言うのは服装だ。

 ひさめはあまり服などを持っていないために、基本的に普段着と言うのは鎧を装備していない単衣だった。そのためあまりお洒落などをしてこなかったのだが、今日の装いは双子姉妹とアイリスに無理矢理着せられた格好をしている。

 その格好というのが黒のロングスカートとベージュの七分シャツというモノトーンコーデで、凛としていればカッコいいと表現できなくも無いのだが、顔を隠すようなツバ広の帽子を被り、穿き慣れないスカートの裾をギュッと握りしめる姿にはカッコよさは皆無だ。


「そんなに卑下しなくても似合っていると思うけどな」

「で、ですが……」

「それにひさめが気にしてるのは周囲の反応だろ?そんなの気にしなくていい。お前は俺の女なんだ。俺が似合っていると思ってるんだからそれでいいだろ?」

「うぅー……」


 な?と笑いかける隼翔は相変わらず女たらしのようにしか見えない。

 だが恋は盲目という言葉通り、最愛の人にそんなことを言われてしまってはひさめは別の意味で羞恥に悶えてしまう。

 そんな少女の姿を不思議そうに眺めつつ、隼翔はもちろん反対側に控える双子姉妹にも自覚のない甘い言葉を吐きながら、フィオネに果物を食べさせてもらう。


 フィオネの持つ籠いっぱいに積まれている果物の名は"レル"という。これは前述の通り基本的に生食はせず、砂糖と共に煮込んで食べる果物として、貴族や豪商など富裕層の間で流行っている食材だ。レル自体はそこまで高くなく庶民でも余裕で購入できるが、煮込むのに必要な砂糖がとにかく高い。だからこそ、富裕層に好まれているという背景がある。

 

 そしてレルや先ほど見ていた巨大魚や謎の野菜を含め、基本的にここらに並んでいるの半数ほどは地下迷宮産の食材だ。

 地下迷宮ダンジョンが生み出すのは魔物と特異的な環境だけ。だが地上へと魔物が侵攻したように、地上の一般的な生物が新天地を求め地下迷宮へと潜って行ったり、冒険者たちが持ち込んだ果物などの種がいつの間にか発芽し根を張るなどして、特異な環境に適応すべく新たな生物として進化したなれの果てが地下迷宮に住む魔石片を持たない生物となった。

 しかし、地下迷宮は基本的に過酷な環境だ。それこそゴツゴツとした岩肌や水気の無い大地、巨大樹の森。加えて住人である魔物も跋扈する環境。

 当然そこで生き残るには、普通ではいけない。それ故に巨大魚は羽のような胸鰭で空を移動することを覚え、鳥は地上を高速で移動できるように4つ脚へと進化したりと、特異性が非常に高いのだ。


 ただそれを普通に受け入れられるのは当たり前のように魔物が跋扈する世界に生まれ育ってきた者たちだけであり、いくら過酷な環境下で死線を潜り抜けていた剣客とは言え隼翔は日本に生きていたのだ。当然受け入れるにしてもかなりの葛藤があるのは眉を顰める表情から見ても理解できるだろう。ある意味ではそんな表情を隠すために、レルを頬張っているとも言えなくはないかもしれない。


「まあ、流石にこれ以上食べると口が麻痺しそうだからやめるとして……これからどこに行きたい?正直女性が好む場所っていうのが俺には分からないからな。3人が行きたい場所に行こうと思うんだが」


 少しばかり涼しさ感じられる秋空の下、こうして食材を眺めながら歩いている4人だが、本来の目的は恋人たちととのデートだ。

 本来なら男である隼翔がフィオナとフィオネ、ひさめを持てなすべく率先してリードしなくてはいけないのだが、彼にはその手の経験も知識も皆無に等しい。

 だったら下手にリードしてつまらない思いをさせるよりかは三人の行きたい所へと向かおうと提案したのだが、3人もあまり行きたいところがないのか、コテンと首をかしげ悩んだままだ。


「うーん……じゃあ、とりあえず服屋などを見てみるか?」


 結局案がでないので、無難かなと思う提案をして見せる隼翔。

 少女たちはそれに嬉々として頷いて見せるのだが、隼翔には自分のした提案が恐ろしい結果をもたらすとは気がついていなかった。いや、経験が無さすぎたと表現するのが正しいかもしれない。

 なにせ、女性一人でも服を買うのにあれやこれやと聞いてくるのに、それが3倍だ。……果たして服屋を後にしたとき隼翔がどんな表情をしていたか、予想するのは容易いことだろう。

デートの話が終わればいよいよ闘技大会が本格化するはず!


それと明日も更新できないかもしれません……

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