第4章 プロローグ 1 囚われの紫紺烏
第4章のプロローグです。かつてないほどの短さ。
本格的な物語の進行は明日……もしくは明後日からですね。
カタカタと音を立てながら街道を行く馬車。そこに積まれた酒の入った木樽や食品が入った木箱。
それらに埋もれるようにして烏はいた。
猛禽類を思わせる鋭い嘴が付いたヴェネチアンマスク。
仮面の下に隠れる素顔はわからないが、紫水晶色の美しい瞳とほっそりとした唇から少女であることだけが分かる。
ここは籠だ。鳥を閉じ込めておくような、そんな籠。もちろん鉄格子は無く、少女を阻むモノは何もないように思える。
しかしその足にはジャラジャラと音を立てる枷が嵌められ、決して外に飛び立つことはできない。
季節は夏からゆっくりと秋へと移ろいを見せる。
街道に並ぶ木々は緑と茜色が8:2ほどで入り混じっており、吹き込む風も少しだけ涼やか。
それでも夏はまだまだ終わらない。いや、夏が終わる前に最後の盛り上げを見せるように、とても熱いイベントがすぐそこまで迷宮都市・クノスに差し迫っている。
そしてそれを盛り上げる主役たちが続々と集まり始めている。
少女もその一つ。だからこそ、少女は仮面を撫でた。
仮面越しに見る世界には色彩があった。
どこまでも澄み渡る蒼い空、そこに浮かぶふわふわで甘さそうな真っ白な雲、空の中心として眩いほどに輝く赤い太陽。
視野はとても狭いが、それでもその空はどこまでも広がっている。果てなどあるはずもなく、どこまでも自由だ。
だが一たび仮面を外してしまえば、少女の世界は灰色に変わる。
天井は低く、雲も太陽も無い。あるのはお化けのように見えるシミ。とても狭い空だ。
視野は広いのに、空は狭い。籠の中の鳥にだってもう少し自由があるはず。
少女は仮面越しに見る、視野の狭い空が好きだった。その空をいつか仮面のない状態で見ることを夢見ていた。
どこまでも、どこまでも自由で鮮やかな空。叶うなら背中に生える、真っ黒な翼で自由に空を泳ぎたい。
そのためにも少女は細剣のような刀身の直剣を片手に、闘う。いつか広大な空を自由に飛び回れるように、と。
少しでも長く彩のある世界を見続けるために――――不自由な籠から少しでも長く出ているためにと。
――――――第四章 プロローグ 囚われの紫紺烏




