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格闘家④実力試し

 さぁ~て、どんな依頼があるのかなぁ?

 依頼が張り出されているボードの前に立って内容を吟味してみる。低ランクにあるのは薬草の採取や家の掃除といった誰でもできるような内容。当然、それ相応に報酬も低い。

「……おっ、これは」

 そんな低ランクの依頼で見つけたあるモンスターの討伐依頼。そこに記載されていたのは懐かしいモンスターだった。

「……牧場を荒らすダークドッグの討伐依頼、数は5頭」

 ダークドッグ…黒い体毛を持つそのモンスターはオレが初めて戦ったモンスター。

 3年前は苦戦したが、今なら余裕で倒せるだろう。ただし、報酬が低すぎる。

「銅貨3枚って…。子供のお使いじゃないんだぞ?」

 数があるためかランクはFだが、それにしても報酬が低すぎる。銅貨3枚だと店で食事を取るだけで消えてしまう。

 ジェノ父さんから貰っている金も無限じゃない。というよりも金に関しては厳しいマリア母さんの方針によって余分な分はほとんどない。まあ、1人で生きていくと決めたのはオレだからそれ自体には文句なんてないんだが…。

 今持っているのは銀貨5枚。宿で3日も宿泊すればなくなってしまう。それも、良心的な値段の宿で3日だ。つまりは、懐かしいからと言ってこんな低報酬の依頼を受けるわけにはいかない。

 なら、どんな依頼を受けるべきなのだろうか?

 これからのことを考えれば、当然報酬の高い依頼だ。だが、報酬が高いということはそれだけ危険度も増す。実力がわからない以上、無暗に受ければ痛い目を見る。


 そんな風に悩んでいた時だった。

「おい!いつまで突っ立ってやがるっ!邪魔だからさっさと退け!!」

 突如ぬっと姿を現した男。その男はオレを強引に押し退け、ボードを独占するかのように立ち塞がる。

「…………」

「あんだぁ?やろうってのか?」

 いきなりの乱入に険を込めた視線を向けると、雰囲気を感じ取ったのか振り返り睨み返してくる。

 見れば顔が赤らんでおり、酒臭い。おそらく先程まで飲んだくれていた者の1人だろう。

(……いた)

 そう思って周囲を見渡せば、こちらをニヤニヤとした顔つき見ている男たち。この騒動を愉しんでいると見て間違いない。だとしたら、これはそういうことだ。



◇◆◇◆◇◆◇



『いい?冒険者っていうのは基本的に縄張り意識が強い連中よ。だから、場合によっては新入りや余所者に必要以上に当たり散らす者もいるはず』

 マリア母さんとの修業の合間に冒険者について聞いてみた。

『……そういう時はどうすればいいの?』

『ズバリ、方法は2つ!』

 2本の指を突き立て、ずいっとオレの前に突き出してくる。

『1つは無視すること。相手がどんな妨害をしてこようとも、自分の道を貫き通すことね』

 それは難しそうだな。

『ちなみに、この方法は難しいわ』

 マリア母さんもオレと同じ考えみたいだ。

『何故なら、基本的に絡んでくる相手はこちらが困る姿を見るのが好きで考えなしが多いから。その場をやり過ごしてもまた同じ状況になるのは明確』

『…じゃあ、もう1つの方法を取ればいいんだね?』

 こっちが本命で、こっちについて説明したかったんだろうな。

『そうよ。もう1つの方法は単純明快!絡んできた奴を――』



◇◆◇◆◇◆◇



(――ぶっ飛ばせばいい!)

 オレは立ち去る素振りを見せ、男に背中を向ける。

 そして、男がオレをからかうべく追いかけ来ようとしたところでぐんっと勢いよく振り向き、振り向きざまに腹に一発叩き込んでおく。

 スキル【正拳突き】。真っ直ぐ、ただひたすらに威力だけを追求した拳は男の腹部に深く深くめり込んだ。

「――あぺぇ?」

 何が起きたのかわからず、そのまま白目を剥いて倒れる男。


≪おめでとうございます。Lv.16にアップいたしました≫


 へぇ~、レベルが上がるってことはある程度の経験値が稼げるぐらいの実力はあったってことかな?情けなく白目を剥く姿から実力は推し量れないが、気分がよくなる。

 ちょっと気分がよくなった状態で、その男の巨体を踏み付けながらボードの前へと戻っていった。


「おいおい、ガーギの野郎やられちまいやがったぜ!」

「…あぁ、あんなガキ一捻りだとか言ってたくせにだっせー奴だ」

「それにしても、あのガキフェイントを入れてくるとは…」

「なかなか面白そうだな。少なくともEランクのガーギを倒したってことはE以上の実力はあるんだろうぜ」


 男を踏み付けているのに助けようとはせずに会話を続ける男たち。どうやら仲間だと思ったがただの飲み仲間程度だったようだ。

 まあ、それだったら変に絡まれることもなくてよかったということだ。

 ただ、それ以上に今いい情報を仕入れることができた。

(この男でEランク)

 ということは、オレの実力はE以上なのは確実。問題はそこから先だが…。

 男が油断していただけって場合もあるし、念には念を入れておこう。

 オレはDランクの依頼から1枚選びカウンターに戻っていった。その際、男の頭を強く踏みつけるのは忘れずに。



◇◆◇◆◇◆◇



 カウンターに戻ると受付の少女ニコラがジト目でこちらを見つめていた。

「……はぁ~。早く出してください」

 そして、先程までは営業用とはいえスマイルを崩さなかったのに、今度は呆れ果てたような深いため息を!一体オレが何をした!?

 訳が分からず困惑していると、さらに大きなため息を吐いてさっさと紙を寄越せと手を出してくる。ギャップに戦々恐々としながらも差し出された手に依頼書を渡す。

 依頼書を掴むと素早く手を引っ込めたニコラは面倒臭そうに言葉を発し始めた。


「…いいですか?先程はこんなに早く問題を起こすとは思っていなかったので説明しませんでしたが、基本的にギルド内では乱暴は禁止されています」

 険の篭もった声が彼女の怒りの度合いを感じさせる。

「いやっ、だけど――」

 咄嗟に言い訳をしようとした。しかし、彼女はそんなオレの言葉を止めて続きを語る。

「――ですが、今回は私の説明不足もあったりするので不問とさせていただきます。ただし、今後は絡まれてもギルドの外に出てからにしてくださいね?」

 それはお願いと言うよりは命令に近かったが、原因はオレにあるので甘んじて受けざるを得なかった。

 沈黙を了承と受け取ったのか、先程までの剣呑な雰囲気が霧散され、最初に会った頃のような笑みを浮かべて依頼内容を確認していく。

「…ええ、それではエボル様が受ける依頼はDランクモンスターであるシルバーバックの討伐ですね。対象は1体。報酬は銀貨30枚。生け捕りの場合は別口で買い取りとなりますので金貨3枚となっております」

「了解です。まあ、生け捕りは無理でしょうけどね」

 金貨3枚の報酬は魅力的だが、金と命を天秤にかけるような真似はできない。

「シルバーバックですが、説明いたしましょうか?」

「お願いしておきます」

 不安要素は1つでも多く減らしておきたい。


「では説明させていただきます。

 シルバーバックとは猿型のモンスターウッドエイプ、その中でもボスに相当する存在です。基本的にウッドエイプとの違いは体毛と戦闘力だと考えてください。通常のウッドエイプよりも遥かに長生きしており、知能も高い厄介なモンスターになります」

 おもむろに取り出したのは苔のように緑色の体毛で覆われた猿の絵。流れ的にこいつがウッドエイプということか。

「ウッドエイプ自体も力と素早さ、さらには比較的高めの知能から警戒対象となっていますが単体での戦闘力はEランクの中でも下位。集団で行動した場合にはEランクの上位に位置します。しかし、そんな彼らもボスであるシルバーバックがいる場合は話が別です。その時は、モンスターとは思えない行動を取ってくるためにシルバーバックが発生した場合は早期に討伐が求められています」

「……モンスターと思えない行動っていうのは?」

「はい、シルバーバックの指揮下にある場合ウッドエイプ達は罠を仕掛けたり、囮を使ったりとまるで人間の戦闘手段を取ってきます。また、シルバーバックは武器を扱う術を会得している個体も少なくありません。したがって、彼らの前では武器を使わないことをお勧めします」

 武器を使っているとその武器を奪われてピンチになりやすいってことか。

「このような性質から近接戦闘職を壁役に魔法使いなどの遠距離攻撃系で仕留めるのが一般的なこともDランクな由来です」

 それだけ聞くと異常な強さしか伝わってこないけど…。

「…不安材料しかないな。結局、何が言いたいんだ?」

 さすがにこれ以上の不安要素が出てくると考えを改めなければならないと確信を問い質す。

 それに対し、ニコラはわかりませんか?と呆れたような視線を向けてくる。

「……忠告です。この依頼は止めておいた方がいいですよ、と」

「…それは聞けないな。やってもいないうちから諦めるのはオレの性分じゃない」

「では、これ以上お話することはございません。…そう言えば、先程よりも少し大きくなったような気がするのですが?」

「気のせいでしょう?」

 ニコラの鋭い質問に肩を竦め、やれやれと思いつつもここに居てももう得られる情報はなさそうだとギルド会館をあとにするのだった。


「まいったね。どうも…」

 去り際に面倒事になりそうな予感に頭をポリポリと掻いて紛らわすことしかできなかった。

「レベルがこんなに早く上がるとは思ってなかったし、このペースだと疑われる可能性があるな」

 とりあえず、宿屋を探す前に顔を隠せるような物でも探すかな。



◇◆◇◆◇◆◇



「……ふぅ。バカな人」

 私は去っていく新人冒険者の背中を見つめながら、営業用のスマイルを外した侮蔑混じりの嘲笑を送っていた。

「依頼人の払える報酬が少ないからと危険度よりも低いランクに設定されているハズレ依頼。それを引き当てて、受付嬢である私の忠告も聞かないなんて…」

 あの冒険者――エボルが持って行った依頼は本来ならCランクでもおかしくない難易度だった。シルバーバック単体ならば確かにDランクだが、あのモンスターが単体で行動するなんて新たに群れを形成するときだけだ。

 そして、今回の依頼は群れを追い出すためのもの。つまりはほぼ100%群れで行動しているボスということ。

 単独で依頼に臨めば確実に命を落とす。そう判断したがゆえに止めたというのに、彼は聞く耳を持たなかった。そもそも、ギルドにおいて受付嬢とはただ依頼を渡すだけの存在ではない。その人物の実力に応じてアドバイスをするのも仕事の内だ。その受付嬢の忠告を聞かないということは冒険者にとっては死を意味する。

 実際、忠告を聞かなかったことで死亡あるいは復帰不可能なほどの重傷を負う者は少なくなかった。


「……ガーギさんもやるならもう少し真面目にやってくれればいいのに」

 エボルが去ったことでようやく駆け寄ってきた仲間に解放される巨漢の男を見つつ、そんなぼやきが漏れてしまう。

 ガーギと呼ばれる冒険者は、通称「試しのガーギ」と呼ばれており、新人たちの実力を図ることを副業にしている冒険者だった。本来なら一撃で沈むようなことはないのだが、今日は大仕事が終わったとかでずっと酒を呷っていたのだ。

 そんなフラフラの状態とは言え、Eランク冒険者を倒したことで彼は調子に乗ったのだ。死後の処理などは担当者が受け持つことになっており、つまりは私の仕事が増えるだけ。

「……まったく。厄日だわ」

 なんで今日に限って…。そう嘆きたくなっても仕方ない話だと思う。


「今日は帰って、さっさと寝よう」

 早ければ明日にも死後処理の仕事が回ってくるのだから。そう思って、憂鬱な気分で次の仕事に取り掛かる。

「……あっ!その前に、これも張り出しておかないと」

 ふと、思い出したように手元にあった依頼書をボードに張り直しに行く。

 どうせ、生きては帰ってこないのだから。


「…うん。完璧!」

 曲がることなく再び張り出されたシルバーバックの討伐依頼。それに満足気に頷いて、私は早く帰って休むべく仕事を片付けていった。

 この依頼書が原因で私はさらに疲労することになるなんて、この時にはまったく予想もしていなかった。いや、できなかったのだった。

 定番イベントの絡みをやってみたのですが、なぜこんなに短いのか?自分の文章力のなさに呆れかえってしまいました。

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