番外:見送る者たち
番外は原則主人公が登場しない話になります。
「……行ってしまったな」
僕の言葉にマリアは頷き、そっと手を握ってくる。その手を握り返しながら、家に戻っていく。
「さて、ここでの調査はもう終わりでいいだろう」
僕は……いや、私は戻ると同時にそう宣言する。
「でも、エボルには…」
「確かに、エボルにはいつでもここに戻って来てもいいと言った。だが、戻って来た時にここに戻ってくればいいだけでここで待つ必要はない。そうだろう?」
「……はぁ~。何を言っても無駄ですね」
「そうだとも。まあ、それが私たちの宿命なのだろうよ。それに、調査は口実だった。本来の目的は果たしたし、問題はないだろう」
私の言葉に対し、真剣な面持ちで頷くマリア。
そう。エボルに伝えていたエボルド平原の調査というのはここに滞在するための口実に過ぎなかった。
そもそも、エボルド平原は神聖な場所として滅多に人の立ち入りを許さない場所だ。そんな場所を調査する許可など下りようはずがない。
「……それにしても疲れた。やはり、仮初の姿では肩が凝っていかんな」
そう言って眼鏡を外す。
その瞬間、私とマリアをまばゆい光が包み込んでいく。
光が消えた先には肌が褐色に変わり、今までの布が余ったような体形がわかり難いゆったりとした服装から下着のような露出の高い衣装へと変貌したマリア。その髪は漆黒を思わせ、瞳は闇夜でさえ照らしそうな金色になっていた。何よりも大きな変化は、頭に生えた角や背中に生えた翼そして尻尾だろう。
「ふふっ、やっぱりあなたはそっちの姿の方が素敵よ?ジェノ」
同時に私の姿も元に戻っているのだろう、妖艶な笑みを浮かべた彼女が私の首に腕を回す。その際、豊満な肢体を惜しげもなく私に押し付け鼻孔を芳しい香りが突いてくる。
「この姿に戻るのはエボルが来て以来か」
視界の端には伸ばしていた髪が映りこむ。
その金色の髪を手ですくい、久しぶりの感覚を確かめていく。
「ハイエルフ……それも、超越者であるあなたがわざわざこんな辺境まで来た理由。それがエボルってことね?」
「…おそらくはそうなんだろうね」
実際は、よくわからない。
そもそも、私たちがここに送られてきたのは正体不明の人物からの言葉に従ったまでだ。
『――世界の命運を左右するであろう存在がエボルド平原に現れる。超越者よ、世界を支える者としてその存在を見極めよ』
まったく、今思い出しても人使いが荒い。
だが、今となってはよかったのかもしれん。
「あら?どうしたの?」
笑みを浮かべた私を不審に思ったのか、マリアが尋ねてくる。
「…いや、何でもないさ。ただ、あの声には感謝せねばならんと思ってな。……私たちに息子をくれたのだから」
そう言って優しく頬を撫でてやると気持ちよさそうにしながらも、しっかりと頷いていた。
無意識に伸ばされた手がその腹部を撫でていることは気付いたが、何も言わなかった。
私達には子供が生まれる予定だった。
だが、その子供は生まれることがなかった。原因が何だったのか?と問われればタイミングが悪かったとしか言いようがない。
もしかしたら、天がエボルとの出会いのために奪ったのか。あるいは子供を喪うことを知った天がエボルを与えてくれたのか。
おそらくは後者だ。
エボルは私達の自慢の息子なのだから。
だが、エボルには驚かされる。
まさか、神話に登場する進化種に巡り会うなど想像もしていなかった。
「……神話の時代の生き残りか、はたまた世界が神代の時代を望んでいるのか」
そのどちらなのかはわからないが、エボルはきっとこれから先の世界の中心となるだろう。
それを見守るのは超越者としての役割となる。
「…さあ、帰ろうか。私達が本来いるべき、楽園へ」
軽く手を振ると空間に亀裂が入り、人ひとりが余裕で通れるほどの大きさで止まった。
「そうね。きっと他の超越者達も待ちわびているはずよ。何て言ったってあなたが20年近く楽園を空けたのですから」
「ああ、そうだね」
きっとうるさいだろうな。
たかが20年程度会わなかっただけの仲間たちがこうも懐かしいとは。以前だったら感じることのなかった感情に苦笑しつつも、私達は楽園へと帰っていく。
(――エボルよ。私達は遥かなる高みからお前のことを見守っている。お前は安心して世界を生きなさい)
おまけ
・ジェノ・ブラッドリー Age:327 Lv.487
種族:ハイエルフ・オーバー(超越者) ジョブ:賢者 ランク:Z(オーバー)
HP200721/200721 MP9999999/999999 体力8000/8000
攻撃力791 魔法攻撃力10800 防御力882 魔法防御力29800 知力200000 速度754 人格13
種族特性:超寿命・超越者権限 ジョブ適正:??? ジョブ補正:魔力消費ダウン・魔力回復速度上昇
スキル:【魔法耐性】・【真実の瞳】・【隠蔽】・【念話】・【全魔法系統】・【知識の引用】・【叡智の樹】・【空間魔法】・【精霊召喚】・【不審な笑み】
・マリアベル Age:274 Lv.241
種族:悪魔族 ジョブ:魔戦士 ランク:SSS
HP136500/136500 MP210000/210000 体力9000/9000
攻撃力4500 魔法攻撃力7301 防御力2300 魔法防御力1020 知力403 速度3008 人格-206
種族特性:人格(悪)・魔力耐性 ジョブ適正:暗黒騎士 ジョブ補正:ダメージ反比例・魔力消費増
スキル:【邪神の一途】・【念話】・【炎魔法】・【雷魔法】・【精霊の罪】・【体型維持】・【嫉妬の大悪】・【闇の波動】・【絶対契約】
超越者とは一体何なのか?人格が低いにも関わらず、エボルを発見できた理由とは!?様々な謎を秘めた両親の話でした。
ランクについては近々。超越者などについては物語を進めていけば自ずと判明してくると思いますのでお楽しみに。
ちなみに、スキルは統合など使用不可からさらに除外などもされて増減するのでレベルの割に少ないように思えるかもしれませんが、選りすぐった結果だとお考えください。